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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一四九話「荒れ狂う神気が、怨嗟の塊を飲み込んだ」

「う……ん?」


 少し頭がぼうっとする。けれども、私はどうやら生きているらしい。あの怪我(けが)なら失血死(しっけつし)してもおかしくなかったのだけれども……。


 まだ視界(しかい)がはっきりとしないけど、あちこちで何かが(はじ)ける音が鳴っているのは聞こえる。一体それが何なのかは気になるけれども、ともあれ、早く奇跡の行使(こうし)に再挑戦(ちょうせん)しなければならないので身体を起こす。


「聖女リーファが、息を吹き返しました!」

「え」


 ラグエル様の言葉に、思わず目を(しばたた)かせる。息を吹き返したって……死んでたの私!?


「ラグエルよくやった! とっととその寝坊助(ねぼすけ)聖女を(たた)き起こせ!」


 メタトロン様が(めずら)しく息を切らせて(さけ)んでいる。見れば……私たちに背を向けて一心不乱(いっしんふらん)に大剣を振り回している。何をしているんだろう?


「やあやあ寝坊助聖女のリーファちゃん、一度は死んだのによく(もど)ってこられたねぇ」

「あ、サマエルさん。私、死んでたんですか……?」

「そうだよー、コレに急所を(つらぬ)かれて、ね」


 そう言ってサマエルさんは、(てのひら)()せた小指の(つめ)ほども無い何かの欠片(かけら)を私に見せた。これは……


「……(ほね)、ですか?」

「そ。たぶんサリエルの骨だねぇ。あの肉塊(にくかい)から超高速で飛ばされた流れ(だま)がリーファちゃんの太腿(ふともも)を貫いたワケ。お(かげ)でアタシも(つばさ)をやられて飛べなくなっちゃったよ。まぁ、身体に当たらなかっただけラッキーだけどさ」


 なんと、そんなものが私の足を貫通したのか。物体はスピードを出せばそれだけ破壊力(はかいりょく)が増すことは私も知っているけど、肉体を貫通するほどのスピードを持った骨片(こっぺん)って(おそ)ろしいな。


 ……そうか、メタトロン様、アザゼル、シャムシエルの三人がズタボロになりながらも懸命(けんめい)に剣を()っているのは、その骨片から私たちや兵士の方々を守ってくれているからなのか。


「おい! 解説(かいせつ)は後にしろ! とっとと奇跡の詠唱(えいしょう)に入れ!」

「は、はい! ……っと、いたっ!」


 メタトロン様の怒声(どせい)(あわ)てて立ち上がったものの、右大腿部(だいたいぶ)の痛みにすっ(ころ)びそうになり、サマエルさんに(ささ)えられた。どうやら完全に傷は(ふさ)がっていないようで、歩くこともままならないようだ。オマケに血が足りないらしく身体がとても重い。こんな状態(じょうたい)で奇跡を行使出来(でき)るだろうか。


 ……いや、やらないと。もう『群体(レギオン)』は限界(げんかい)まで(ふく)らんでいる。いつ弾けてしまったとしてもおかしくはないのだから。


「ラグエルは防壁(ぼうへき)維持(いじ)に戻ったか。じゃあ、アタシがリーファちゃんを支えてあげる」

「う、すみません」

「良いって良いって、アタシも飛べなくなってすること無いんだからさ」


 こんな時でもサマエルさんはカラカラと笑っている。この豪胆(ごうたん)さは見習いたいものである。


 私はサマエルさんに右(かた)を支えられた状態で、そのままメタトロン様の背中()しに、『群体』へとゆっくり長杖(ちょうじょう)(かざ)した。まずは集中だ。


「ちっ、骨に()じって石も飛んでくるな。だが、二度同じ失敗はしない。後ろは守ってみせる」


 そう(こぼ)すアザゼルのサーベルもボロボロになっており、いつ折れてもおかしくはない。今は魔力で剣をカバーしているようだけれども、あの剣はもうダメだろう。世話(せわ)になったし、帰ったら師匠に魔剣(まけん)のコレクションから一本(ゆず)れないか聞いてみよう。


 メタトロン様とシャムシエルは、流石(さすが)神剣(しんけん)に魔剣と言うだけあって全く折れそうな様子(ようす)は見られない。でも、骨弾(こつだん)石弾(せきだん)(かわ)しきれないのか、二人の翼は見る影も無くボロボロになっている。


「……詠唱の準備(じゅんび)が出来ました! 防壁を維持し続けてください! 今度は失敗させません!」

「分かりました! 力天使(ヴァーチャーズ)ザアフィエル、()えてください!」

「了解です!」


 ラグエル様とザアフィエルさんの神術防壁が、再び(かがや)きを増す。先程(さきほど)私を貫いた骨片はいきなり飛んで来た(ため)前衛(ぜんえい)の三人も対処(たいしょ)出来なかったのだろうけれども、今は本気で守ってくれている上にこの防壁だ。これで触手(しょくしゅ)も骨片も通すことはほぼあり()ないだろう。



 さて、『群体』には好き勝手やってくれたものだけれど、ここで終わりにしよう。


 (とら)われている幾万(いくまん)(たましい)には(もう)(わけ)ないけれども、世界は生ある者たちの為にあるのだから。



「主よ、万軍(まんぐん)の神よ、堕落(だらく)した者たちへ怒りの(あらし)を呼び起こし、そして(ほろ)びを(あた)(たま)え――」


 今度は最後まで詠唱が続いた。


 さあ、滅びの奇跡よ、(あば)(くる)え!



「〈メギドの丘(ハルマゲドン)〉!」



 奇跡の術式(じゅつしき)が完成した瞬間(しゅんかん)、空がいきなり暗くなる。何処(どこ)から(あらわ)れたのか分からない暗雲(あんうん)が立ち()め……


 刹那(せつな)――暴風(ぼうふう)(いな)神気(しんき)が吹き荒れ始める!


「くっ! くぅぅ……!」

「なんて……暴力的な神気なのですかっ……!」


 ザアフィエルさんとラグエル様が両手を翳し、耐えている。普段(ふだん)天使である彼女()の身体から(はな)っているものとは(ちが)い、今目の前で吹き荒れている神気は凶器(きょうき)でしか無い。気を抜けば、身体を引き()かれてしまうだろう。


 でも、私の術式も中断(ちゅうだん)するつもりは無い。ここが正念場(しょうねんば)なのだから!


 『群体』は神気に()(きざ)まれ、怨嗟(えんさ)雄叫(おたけ)びを上げている。みるみるうちに(しぼ)んでいっているのは、この奇跡の行使が対策(たいさく)として正解だったからに他ならない。



 ――そう、(なんじ)(すで)()(ことわり)()えた存在(そんざい)


 ――(ゆえ)に、汝は(われ)の――



「え?」

「ん? どったの、リーファちゃん」

「いえ、誰かの声が……聞こえませんでした?」

「んにゃ、何も?」


 私に()()うサマエルさんに(たず)ねるも、彼女はふるふるとかぶりを振った。何処かで()いた、(なつ)かしい声だったのだけれども……。


 一体、何処で聴いたんだっけ?


◆ひとことふたこと


というわけで、リーファちゃんが持つ最強の奇跡、かの有名なハルマゲドンです。

実はヘブライ語由来の古代ギリシャ語で、訳すとそのまま「メギドの丘」と考えられています。

メギドというのは地名なのですが、古代にたびたび戦争があった所為で「滅び」の代名詞みたいになっています。

ヨハネの黙示録に終末の戦争の地としてこの名前が出てくるのですが、ただの戦争が多い丘の名前なのに風呂敷広げたなぁという印象が()


リーファちゃんは神様にお目通りしたことを覚えていないようですね。

覚えていなくても運命は変えられない、ということなのでしょうか。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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