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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一四八話「白い世界で、私を呼ぶ声の主は」

「ここは…………?」


 (まわ)りは一面の白。何も無い。白いけれども、不思議(ふしぎ)(まぶ)しくは無い。


 先程(さきほど)まで、私は『群体(レギオン)』を相手に奇跡を行使(こうし)しようとしていたような……。ええと、何があったんだっけ? 詠唱(えいしょう)を始めて、そしたらシャムシエルが(さけ)んで……。


「……そうか、何かに足を(つらぬ)かれて……。ということは、死んだのかな、私」


 大腿部(だいたいぶ)は大きな動脈(どうみゃく)がある場所だ。あそこを傷つけられたら命に(かか)わる。今は痛みが無いので、きっとそういうことなんだろう。


「もしかして……ここは楽園(エデン)なのかな。何も無いけれど……」


 周りを見回し、目を()らしても何も見つけることは出来(でき)ない。いつの間にか血に()まったワンピースは消え、一糸(いっし)(まと)わぬ(はだか)になっていた。……あ、身体も完全に女性へと(もど)っている。いや戻ったという言い方は変だけど。私は元々男なんだし。


『楽園、ではない』

「え?」


 脳内(のうない)に直接、何者かの声が(ひび)いた。脳内に響いたにも関わらず、私は自然とその誰かが頭上に居ることを理解(りかい)し、空を見上げる。


何方(どなた)ですか? ここが楽園ではないとしたら、私は何処(どこ)に居るのでしょう?」


『ここは何処でもあり、何処でもない場所。楽園へと(おとず)れる前に、皆ここへと辿(たど)り着く』

「楽園へと訪れる前に……?」


 その言葉が意味することを理解し、私は(あわ)ててその場に(ひざまず)き、(こうべ)()れた。


『我の言葉を理解したか、リーファと名付けられし子よ』

「……はい、我()(しゅ)よ」


 そうだ、先程から響いているこの声。


 この声の(あるじ)は色々な呼ばれ方がされているけれども、私たちが神や主と呼んでいる存在(そんざい)、なのだろう。


 つまりここは、神の御許(みもと)だ。


「……やはり、私は死に、神の御許へ送られてしまったのですね」

『そうだ』


 そうか……、私は失敗してしまったんだ。


 私が『群体』に対して奇跡を行使出来なかった、ということは、つまりは、他の皆も――


「あ…………」


 私の両目から、自然と涙が(こぼ)れ落ちた。


 あれだけ皆を守ろうと日々足掻(あが)いていたのに、このたった一度の失敗で、命を失い、そして多くの命をも失うことになるなんて。


 悲しさと(くや)しさが()()じり、私はいつの間にか嗚咽(おえつ)()らしていた。


『悲しむ必要は無い、リーファよ』

「ですが……っ! 主よ、私だけではなく、他の皆も守ることが出来なかったのです! これを悲しまずに居られますでしょうか!」


 そうだ。シャムシエル、サマエルさん、アザゼル、メタトロン様、ラグエル様、ザアフィエルさん、そして……多くの人の命。それが私の双肩(そうけん)にかかっていたというのに、守ることが出来なかった。


 これで悲嘆(ひたん)()れずに居られる(わけ)がないのだ。私は楽園で、どんな顔で彼女等に会えば良いのか、分からない。


『悲しむ必要は無い、リーファよ。(なんじ)は再び、地上へ戻ることとなる』

「は……え?」


 我等が主の言葉に、流れていた涙が引っ込み、思わず不敬(ふけい)とは思いつつも空を見上げ間抜(まぬ)けな声を上げてしまった。


「し、しかし、私の(たましい)(すで)に、こうして貴方(あなた)の御許に()ります。どうして戻ることが出来ましょう?」


 そうだ、私の使う奇跡でも魂を引き戻す事は出来ない。何故(なぜ)か? それは私が主の力を借りているだけで、主と同等の力を持っている訳ではないから――


御使(みつか)いラグエルに、奇跡を(さず)けた。汝はすぐに地上へ戻り、汝の役目を()たすこととなる』

「ラグエル様に……?」


 ……そうか、私には出来なくとも、主であればその奇跡の行使は可能だろう。世界を(つく)り出したお方だ。人一人の魂を戻すことなど造作(ぞうさ)も無いんだろうな。


『汝は既に世界の歯車(はぐるま)として容易(たやす)く切り(はな)せぬ存在となっている。汝がその役目を終えぬ(かぎ)りは、我も引き続き力を貸すことであろう』


 役目……?


「我等が主よ、どうかお答えください。私の役目というのは、一体――」


 主への問いを(さえぎ)るように。


 私の意識(いしき)は何かの奔流(ほんりゅう)に飲まれ、暗転(あんてん)していったのだった。


◆ひとことふたこと


リーファちゃん昇天。

でもすぐに戻って働かされる様子。ブラック企業かな?(笑)


神は色々な名前で呼ばれています。

(みだりに名前を呼んではいけないとされているので、ここでは挙げません)


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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