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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一四七話「作戦は開始された……の、だけれど」

「聖女リーファ、準備(じゅんび)(よろ)しいでしょうか?」

「はい、ラグエル様。何時(いつ)でも始めて(いただ)いて結構(けっこう)です」


 奇跡の行使(こうし)無防備(むぼうび)となる私を守る(ため)、ラグエル様がザアフィエルさんと(とも)防御(ぼうぎょ)神術(しんじゅつ)展開(てんかい)する。(あた)りの住民の避難(ひなん)も完了し、私が最強の奇跡を行使する時がやって来たのだ。


 遠くに見える死霊(しりょう)肉塊(にくかい)、『群体(レギオン)』ははちきれんばかりに(ふく)らんでいる。すぐにでも(ほろ)ぼさなければ、私たちを巻き込んでこの街が更地(さらち)になってしまうだろう。


 何故(なぜ)遠くまで(はな)れているのかと言うと、これから行使する奇跡の効果範囲(はんい)(あま)りに広い為である。範囲内で自滅(じめつ)する趣味(しゅみ)は無いのだ。


「では、(たの)むぞリーファ。俺たちは万が一に(そな)えている。何があっても奇跡の行使を中断するんじゃねぇぞ」

「はい、承知(しょうち)いたしました、メタトロン様」


 メタトロン様、アザゼル、シャムシエルが、『群体』からの攻撃に備えて(かべ)のように展開している。サマエルさんは私の後方上空から援護(えんご)してくれるらしい。


 街の命運が()かっているこの奇跡を失敗させるつもりは無いため、ありとあらゆる可能性を考え、王都へ連絡を入れ、国が主導(しゅどう)で私を守る配置(はいち)を考えてくれたのだ。何しろこの街はエーデルブルート王国西部の食料庫であり、事情を知った陛下(へいか)も動かれている。


 ちなみにペル殿下(でんか)は居ない。「天使たちの後始末(しまつ)に手を貸す義理(ぎり)は無いからのう」と何処(どこ)かへ行ってしまった。まぁ、過去(かこ)に彼女たちが神国(しんこく)からされたことを思えば理解(りかい)出来(でき)る。


「……では、詠唱(えいしょう)の準備に入ります」


 この奇跡は通常のものとは威力(いりょく)も使う神気(しんき)の量も桁外(けたはず)れであるため、私は詠唱の前の集中に入った。万が一奇跡の発動地点を間違(まちが)えると、(みな)を危険に(さら)すどころか『群体』を破裂(はれつ)させかねない。集中だ集中。


 しかしそんな中、私の神気に刺激(しげき)されたのか、『群体』から多数の触手(しょくしゅ)()り上がり、こちらへ向かってくるのが見えた。


「……神気の流れを察知(さっち)した防衛(ぼうえい)反応か。アザゼル、シャムシエル、通すなよ」


 メタトロン様がその大柄(おおがら)な身体と同じ(くらい)(たけ)を持つ大剣を(かま)える。アザゼルとシャムシエルも、自分の獲物(えもの)を抜き(はな)ち、触手の到来(とうらい)(そな)えた。


「承知だ、聖女リーファは恩人(おんじん)なのだからな。命に()えても守る」

「はい、メタトロン様。ここで食い止めなければ、結果として街ごと我等(われら)消滅(しょうめつ)する。私も命を懸ける所存(しょぞん)です」


 三人は静かに触手の到来を待っている。奇跡の効果範囲の可能性となるエリアとの境界(きょうかい)には事前に地面へ線を引いており、そこから向こう側に行かないように言ってあるので、動けないのだ。


「メタトロン、アザゼル殿(どの)能天使(パワーズ)シャムシエル。相手は触手です。引きずり()まれないように気を付けてください」

「ああ、分かっている、ラグエル。……ふんっ!」


 神術を展開(てんかい)しながら忠告(ちゅうこく)したラグエル様に返しつつ、メタトロン様が触手の初撃(しょげき)()(はら)う。斬られたことなど構う事無く、無数の触手があれよあれよとやってくる。一体あの肉塊の何処(どこ)からこんな数の触手を生み出せるのか、(なぞ)だ……っと、集中せねば。


「うわ、触手がこっちまで来た。まぁ数が分散してくれて助かるけど、さっ!」


 そうサマエルさんの声がしたかと思うと、射られて千切(ちぎ)れたのか、上空からぼとぼとと触手の欠片(かけら)が落ちてくる。どうやら『群体』は彼女も(ねら)っているらしい。


「ちっ、とんでもない数だな。だが、この程度(ていど)ならまだまだ何とかなる。メタトロン、シャムシエル、そちらは大丈夫(だいじょうぶ)か? 息切(いきぎ)れしてるのではないか?」

「誰に言ってんだ、アザゼル。俺は自他(じた)共に(みと)める最強の天使だぞ? この程度、鍛錬(たんれん)にもならん」

「ええ、全くです。サマエル様の矢を(さば)ききる訓練(くんれん)(くら)べれば児戯(じぎ)にも(ひと)しい」


 三人とも頼もしいな。しかし、シャムシエルはそんな鍛錬をしてたのか。訓練に付き合うサマエルさんが(あき)れている顔が目に()かぶ。


 触手の数はとんでもないけれども、皆優秀な戦士であるため捌ききれている。そろそろ詠唱に入れるだろう。


「……詠唱の準備が(ととの)いました! 発動に備えてください!」


 いよいよ、滅びの奇跡を放つ時が来た。使い()れた長杖(ちょうじょう)を、ゆっくりと『群体』へと向ける。


 発動地点は、あの肉塊の中心だ。


「分かりました。力天使(ヴァーチャーズ)ザアフィエル、皆を守る為の、万が一の神術防壁(ぼうへき)です。集中をお(ねが)いしますね」

「承知いたしました、ラグエル様!」


 ラグエル様とザアフィエルさんが、奇跡が起こす神気の(あらし)から守る為の神術防壁を発動させた。これで安心して詠唱に入れる。


「主よ、万軍(まんぐん)の神よ、堕落(だらく)した者たちへ――」

「リーファッ!」


 詠唱を始めたその時、絶望(ぜつぼう)(はら)んだようなシャムシエルの(さけ)びが聞こえた。


 直後、私の右足は(くず)れ落ち、どうすることも出来ずに(たお)れてしまった。一体何が――


「…………え?」


 私のワンピースの右大腿部(だいたいぶ)


 そこを小石か何かが貫通(かんつう)したように大きな穴が()き、スカート部分が大きく血に()まっている。


「ラグエル様! 防壁は私が維持(いじ)します! 聖女リーファを!」

「……分かりました! お願いします!」


 いったい、なに、が……。


 右足には痛みどころか、もう感覚すら無い。


 朦朧(もうろう)とする意識(いしき)の中、私は、(わけ)も分からず、ただ倒れ()すだけだった。


◆ひとこと


何者かの攻撃を受け、頼みの綱のリーファちゃんが瀕死です。

どうなってしまうのでしょうか?


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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