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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一四五話「これしか策が無いなんて」

 一旦『群体(レギオン)』から攻撃を受けない場所まで(はな)れた私たちは、作戦会議をすることにした。


 (さわ)ぎを聞きつけ()けつけたディースブルクの衛兵(えいへい)さんに、聖女の権限(けんげん)周辺(しゅうへん)への避難(ひなん)指示(しじ)を出しておく。聖女は有事(ゆうじ)であれば少将(しょうしょう)と同等の権限を持つ、ということを知った衛兵さんは、私へ最上級の敬礼(けいれい)をしてから近くの兵を集める(ため)に走り()って行った。


「それで、リーファ。アレは一体何なんだ?」


 先程まで『群体』と()り結んでいたにも関わらず息一つ(みだ)していないシャムシエルが、憮然(ぶぜん)とした表情で私に(たず)ねる。いやなんで私? メタトロン様やラグエル様に……まあいいや。


「あれはサリエル様の死体に取り()き、半実体化した死霊(しりょう)()れです。奇跡で神の御許(みもと)へお送りしようとしたのですが……術式(じゅつしき)展開(てんかい)した所で、異常(いじょう)なほどに神気(しんき)()われてしまいました。普通の霊体(れいたい)ではありませんね」

「死体に取り憑いている時点でおかしいからな。死霊というのは普通、生ある身体に取り憑くものだ」


 あ、それもそうだ。よく気がついたなアザゼル。(たし)かにおかしいね、ということは……サリエル様の肉体自体はまだ死んでいないということなのか?


 ザアフィエルさんが「サリエル様……」と(つぶや)きながら『群体』へ悲痛(ひつう)視線(しせん)を向けている。彼女は私が思うよりもサリエル様に(ちか)しい天使だったのかも知れない。


「リーファの奇跡が()かないとなれば、はてさてどう対応したものか。ラグエル、何か(さく)はあるか?」


 メタトロン様に話を振られたものの、ラグエル様はかぶりを振って(こた)える。大神術(しんじゅつ)師と呼ばれる彼女でもお手上げか。


「……(むずか)しいと思いますよ。それを知るには、まずはあれの性質を理解(りかい)することかと」

「それもそうだな……。奇跡の力すら吸い取る半実体化した死霊の群れ、か……ん?」


 と、みんなで(うな)っていた所で、大通りから近づいてくる二つの人影を見て、私たちは会話を止めた。


「おうおう、何やら五月蠅(うるさ)いと思えば、とんでもないことになっとるようじゃのう」

「げっ、ペル様」


 避難指示でてんやわんやしている中堂々(どうどう)と近づいて来たのは、地竜(ちりゅう)王女のペル殿下(でんか)とお付きの女性だった。どうやら(なつ)かれているサマエルさんは殿下が苦手(にがて)らしく、私の後ろに(かく)れてしまった。(たて)にしないでください?


「ペル殿下、ここは危険ですので 避難をお(ねが)いいたします。ここはわたくし(ども)で――」

「ふむ、だが聖女よ、あの肉塊(にくかい)への対抗(たいこう)策はあるのか? 無いからそのように半分男の身体へと(もど)っておるのじゃろう?」

「うっ…………」


 い、痛いところを。「男の身体……?」とアザゼルが首を(ひね)っている。そう言えば、力を使いすぎると男に戻る、とまでは話していなかったっけ……。


「では、ペル殿下は何か策があると?」


 メタトロン様が問うと、ペル殿下は得意気(とくいげ)に鼻を鳴らしてふんぞり返った。話し方は老成(ろうせい)しているというのに、(みょう)仕草(しぐさ)が子供らしい。


愚問(ぐもん)じゃな、御前(ごぜん)の筆頭よ。(たましい)()ることが出来(でき)(わらわ)じゃからこそ分かることじゃが……そもそも聖女が力を吸われたのは、あの肉塊が特殊な性質を持つからとか、そういう(わけ)では無いのじゃ」

「え……? な、ならば、何故(なぜ)わたくしは神気を吸い取られてしまったのでしょう?」


 今まで〈明けの明星(ルシファー)〉や〈主よ憐れみ給え(キリエエレイソン)〉で死霊を神の御許へ送ったことは何度かあるけれども、こんな風に力を吸われたことはないぞ?


簡単(かんたん)じゃ。死霊の数が尋常(じんじょう)ではない。はっきりとは数えられんが、万単位で()るぞ」

「万単位!?」


 あ、あの肉塊の中にそんな数の死霊が()まってるの!? 十分特殊な性質だよ! そりゃ奇跡で昇天(しょうてん)させようとしたら神気が足りなくなる訳だよ!


「サリエルめ……、魂の管理を(まか)せていたが、自由に使って良いとは言ってねえぞ……? これじゃ横領(おうりょう)じゃねぇか……」


 メタトロン様が頭痛を(こら)えるように頭を押さえている。魂を横領ってなんか面白(おもしろ)い表現ですね……。


「……しかし、正体(しょうたい)が分かったとは言え、対抗手段(しゅだん)をどうするか、だな」


 霊体には相性(あいしょう)の悪いシャムシエルは、せめて何か出来ないかと考え()んでいるようだ。同じく物理攻撃が主体(しゅたい)のアザゼルも沈思黙考(ちんしもっこう)している様子(ようす)


「そんなもの、圧倒的(あっとうてき)な力で(めっ)してしまえば良いじゃろう?」


 真顔(まがお)でそうのたまうペル殿下。えぇ……? 滅茶苦茶(めちゃくちゃ)力業(ちからわざ)じゃないですか。相手は半実体化しているとはいえ、死霊ですよ? そんなことをしたら……。


「死霊が取り憑いた肉体を(ほろ)ぼしても、自由になった死霊が(あた)りに解放(かいほう)されるだけです。ましてあの死霊たちは暴走している状態(じょうたい)。今は(さいわい)い一カ所に取り込まれておりますが、()ってしまえば対処(たいしょ)のしようも無くなりますよ?」


 うん、ラグエル様の言う通りだ。肉体を滅ぼしても死霊は(まわ)りに解放されるだけで、より大きな被害(ひがい)が出る可能性だってある。


 しかしそんな反論(はんろん)など無意味、とばかりに、再び鼻を鳴らしたペル殿下が、私の方を向いてニヤリと笑う。(いや)な予感。


「あるんじゃろう? 大量の魂ごと滅ぼせる奇跡の力が」

「え…………あっ」


 ある。確かにある。


 ……けれどもそれは、色々な問題を(かか)える奇跡だ。簡単に使っていいものじゃない。


「何かあるのか、リーファ」

「………………」


 あります、と軽々(かるがる)しくは言えず、私はメタトロン様に思わず沈黙(ちんもく)を返してしまった。


 何故なら、それは――


「おい、あの肉塊、さっきよりも大きくなってないか?」


 会話の途中(とちゅう)だったけれども、アザゼルの言葉に全員が『群体』へと視線を向ける。


 彼の言った通り、最初は直径(ちょっけい)二メートルだった肉塊が、今はその倍、直径四メートル弱にまで(ふく)らんでいる。一体何が……?


「ああ、魂の数に()えきれず膨らんでおるのかのう。あのままだと、パーン、じゃな」

「……ぱーん、すると、どうなるのでしょう?」


 大体想像(そうぞう)はつくけれど、私は(つば)を飲み込み(おそ)る恐るそうペル殿下へ聞いてみた。


「まあ、爆発四散(しさん)すればここいらが更地(さらち)になるだけでなく、死霊どもは暴走したまま解放されるじゃろうな」

「………………」


 辺りが、更地に、か……。


「ほれ、覚悟(かくご)を決めんか、聖女よ。ここに居る誰もおぬしに責任を()わすことなどせんじゃろう?」


 ……それは、そうなんですけれどもね。


 でも、このまま手をこまねいていても仕方(しかた)ない。やるしか無いんだ。


「……(みな)さん、これからある奇跡を行使(こうし)しようと思います。それは――」


 覚悟を決めた私は、その奇跡についての説明を始めた。


◆ひとことふたこと


困った時に颯爽とアドバイスをくれるペル殿下。

彼女は強すぎることを自覚しているので、極力自分が手を下さないようにしているのです。


ぱーん、が可愛い。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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