表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
141/184

第一四一話「幕間?:久しぶりのお外は、刺激に満ちていた」

 そして作戦の当日、私は迎賓館(げいひんかん)を出ると、見た目は「窮屈(きゅうくつ)結界(けっかい)内での生活から解放(かいほう)された」といった上機嫌(じょうきげん)様子(ようす)で大通りを歩き出した。


「それにしてもリーファちゃん。あたしたちを護衛(ごえい)に付けるから結界の外へ出ても良い、なんて……信頼(しんらい)してくれるのは(うれ)しいんだけどさ、ホントに大丈夫(だいじょうぶ)かな?」

「ええ、信頼しております、サマエルさん、アザゼル。(たま)にはこうして外に出ていないと、身体に悪いですからね」


 私は護衛を(にな)ってくれるお二人に対し、そう言ってにっこりと微笑(ほほえ)んで見せた。


「まあ、そうだな。俺たちはその信頼に(こた)えるまでだ。絶対にマスティマから守ってやるさ」

「ええ、よろしくお願いいたします」


 お二人が私の(わき)を固めているので目立ってしまうけれども、(おとり)としてはこのくらいで良いでしょう。


 久しぶりの外ということなので、今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように食材や魔術書などの買い物に(はげ)んでいく。この辺、経費(けいひ)で落ちるでしょうか? まぁ気にせず買っていきましょう。


「……いや、少し、買いすぎじゃないのか?」

「これ(くらい)で今までの鬱憤は晴れないのですよ、アザゼル」

「まぁ、そうだろうが……」


 街の中心部から少し(はな)れた人通りの少ない道でベンチに(すわ)り、ほくほくとした顔で荷物(にもつ)(かこ)まれながら昼食()わりの串焼(くしや)きを食べる。ああ、堕落(だらく)一時(ひととき)(くせ)になりそうです。


「まぁ、ずっと押し()められてたリーファちゃんにとっては念願(ねんがん)の外なんだし、次は何時(いつ)来られるか分からないからね。精々(せいぜい)あたしたちは守ってやるくらいしか――」


 サマエル殿(どの)の言葉がそこで途切(とぎ)れた。どうしたのかと彼女の方を見ると、真剣(しんけん)な表情で(あた)りを(にら)んでいるようだった。見れば反対側のアザゼル殿も同様(どうよう)に真剣な表情ですが、こちらは私を守るように立ちはだかっています。


「気のせい……じゃないよね?」

「ああ、マスティマが居るな。何処(どこ)から――」


 と、そんな状況(じょうきょう)になってから一〇秒も()たない内に、アザゼル殿側の建物がいきなり燃え上がる。これは――


「ぐっ……、そう来たか。サマエル、リーファは(まか)せた! 俺は建物の中を見てくる!」

「分かった! ……って、もう一軒!?」


 アザゼル殿が向かわれた家とは反対側、サマエル殿側にあった建物も燃え上がる。


 しかし、サマエル殿は私から(はな)れる(わけ)にもいかないのか、火事になった家を(くや)しそうに見つめている。


(かま)いません、行って下さい、サマエルさん」

「リーファちゃん! だけど……」

「何か仕掛(しか)けてくるとは思っておりました。ですから、大丈夫です」

「……分かった!」


 サマエル殿は()(けっ)したかのように、家屋の方へと()けだした。


 ……大丈夫、これで問題は無い。落ち着いて、私。


 こうなることはある程度(ていど)予想がついていたので、人が(ほとん)ど住んでいないこの区域(くいき)を選んだのですから。


「そして……やはり、いらっしゃいましたか、サリエル様」

「ほう? 聖女リーファよ、何故(なぜ)私が来ると分かったのだ」


 そう、私の正面から堂々(どうどう)と歩いてくるのは――サリエル。もしやとは思っていたけれども、現実になってしまって、悲しい。


「……メタトロン様もラグエル様も、『サリエルが介入(かいにゅう)する時は、自身の(えき)になる以外は無い』と(あや)しんでおられました。今回の遠征(えんせい)も、本当はここへ訪問(ほうもん)される予定では無かったと(うかが)っております」

「そうだ、私は(つね)実利(じつり)(したが)って動いている。そもそもだ、聖女リーファよ。マスティマが最初に貴様(きさま)の元を(おとず)れたのも、私がそう仕向(しむ)けたからだ」


 ……なるほど、そういう訳ですか。


「良いのですか? そんなにベラベラと。その内にメタトロン様もこちらへいらっしゃいますよ?」

「なぁに、その前に――聖女リーファ、貴様(きさま)を乗っ取れば済むだけの話だ!」


 そう()えると、サリエルは手にしていた小さな水晶体を私の方へと(かざ)した。瞬間(しゅんかん)、紫色の(けむり)が立ち(のぼ)り、彼の(となり)にマスティマの霊体(れいたい)(あらわ)れる。


「その魔道具(まどうぐ)でマスティマを(かく)していたのですね。それはラグエル様が必死で探しても見つからない(はず)です。……現場へ()(さき)に移動した貴方(あなた)保護(ほご)していたのですから」

「ふん、マスティマは今も昔も私の大事な(こま)だ。そう簡単(かんたん)(うば)われては(こま)るのだよ。……行け、マスティマ! あの聖女を乗っ取り、神の奇跡を(あやつ)不遜(ふそん)(やから)(たましい)を永遠に(ふう)じてしまえ!」


 サリエルの命令と(とも)に、マスティマは再び元の煙に(もど)ってゆく。垣間(かいま)見えたその表情からは、最早(もはや)狂気(きょうき)しか(うかが)うことが出来(でき)ない。


「はい、すべては神の御意志(ごいし)。奇跡を操るなど神への不敬(ふけい)なのですよ、(いつわ)りの聖女リーファ!」


 煙のままそう(さけ)び、マスティマは私の身体を(おお)()くした。その煙が、私の耳から入り込んで――


「なっ!? こ、これは――」


 何かに気付(きづ)いたマスティマが、ピタリとその動きを止めて動揺(どうよう)した声を上げた。


「どうした、マスティマ、早く聖女リーファを乗っ取ってしまえ!」

「いえ……サリエル様、これは……偽りの聖女リーファではありません!」


 おや、もう気付かれましたか。まぁ、そうでしょうね。


 死霊(しりょう)風情(ふぜい)が、(つね)神術(しんじゅつ)結界(けっかい)()っている私の身体を乗っ取る事など出来ませんから、ね。


「なんだと!? 貴様、一体何者だ!」


 聖女リーファでない何者かへと誰何(すいか)するサリエルの表情は、今までに見たことの無い(あせ)りに()ちていた。


「もう(おそ)いですよ。帰還(きかん)の日が近づき、事を急いでしまったのが運の()きですね、サリエル」


 そう()げて、私は〈変身(メタモルフォーゼ)〉の魔術を()いてゆく。……この身体、可愛いので結構(けっこう)気に()っていますし、後でまたこっそり化けてみますか。


 そして変身を解き終わった私の正体(しょうたい)を知り、サリエルの顔が怒りに(ゆが)む。歯軋(はぎし)りの音が聞こえた。


「貴様……ラグエルかッ! どうやって身体から神気(しんき)ではなく魔力を放出(ほうしゅつ)していた!」


 聖女リーファに成りきり囮となっていた私に、サリエルが(いきどお)り叫ぶ。


 そうですね、天使は身体から常に神気を放出するもの。ですが――


「魔術を行使(こうし)出来る私に、魔力の放出など容易(たやす)いことですよ、サリエル。……さあ、色々と説明して(いただ)けますか? ……ああ、貴女(あなた)にはもう用はありません。ですので……」


 私の身体に入り込もうとしたために、逆に神術結界に(つな)ぎ止められて身動きできないマスティマへ、彼女にとっては致命(ちめい)一撃(いちげき)である神術を放つ。


聖霊(せいれい)よ、彷徨(さまよ)える(あわ)れな御霊(みたま)(ほろ)びの歌を聴かせなさい! 〈滅光(ヴァニッシュ)〉!」

「やめ――」


 何かを言いかけたようですが、断末魔(だんまつま)の叫びを上げる(ひま)すら無く。


 死霊へと(へん)じていた悪魔の天使の魂は、一瞬(いっしゅん)で消し飛んだのでした。


◆ひとこと


〈変身〉の有効活用!

マスティマさんお疲れ様でした。あとは黒幕に任せてお休みください。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ