第一四話「この天使と悪魔を引っ叩きたい」
自分に向けられた「聖女」の大合唱から逃げるように村を後にして自宅へ戻ったのだけれども、僕は何故か今、ソファに縮こまっていた。それもこれも、テーブルを挟んだ向かい側で長椅子の上に仁王立ちしているリリの所為なんだけれども。行儀が悪い。
「つまり、シャムシエルさんの手違いでリーファくんは女の子になっちゃったんですか?」
「ああ、実に申し訳ないことをした。身命を賭して元の身体に戻れるよう助力することを誓おう」
なんだろうねこの尋問大会。リリがこんなに感情を露わにしているのは初めて見るかも知れない。僕は無実だというのに。
「あ、当たり前です! リーファくんが男の子じゃないと、その、困るんですから!」
「へぇー? どうして困るのー?」
「それは……その……と、とにかく困るんです! リーファくんも困ってるよね!?」
「え、あ、うん」
ニヤニヤと笑うサマエルさんにちょっかいを出されて言葉に詰まったリリが僕に振ってきた。純朴な子なのであんまり弄らないであげてほしい。
「へぇ~? リーファちゃんは具体的にどんなことで困ってるの? やっぱりトイレとか、お風呂とか?」
あ、弄りの対象がこっちに来た。ここは嘘を交えず、正直に答えておいた方がいいかもなぁ。
「はい、その――」
「はい、リーファは最初トイレの仕方も知らなかったので、恥ずかしながら私が教えました。風呂でも髪の纏め方を知らず湯船に浸からせていたので、私が代わりに、こう、くるっと」
………………。
もしかしてこの天使、ポンコツなのでは……?
「え……、リーファくん……?」
いかん! リリがドン引いてる! そりゃ引くよ! 当たり前だよ!
「ちがっ! 違うから! 違わないところもあるけど、違うから!」
「何を言うか、すべて真実だろう。神に誓って真実だぞ」
黙れこのポンコツ天使! 話を振ってきた悪魔の方は俯いて肩を震わせてるし!
「リ……リ……リーファくんの馬鹿! 馬鹿! あと……その…………聖女!」
よく分からない罵倒を残して、泣きながらリリが飛び出して行ってしまった……。僕も泣きたい。
「あら? リリちゃんはもう帰ったの?」
「うん……色々終わったけどね……」
目を覚ました魔族の子を連れてきた母さんがリビングにやってきたけど、僕はぐったりと脱力してソファにもたれかかっていた。横で不思議そうに首を傾げている天使と笑い転げている悪魔を引っ叩きたい。
◆ひとこと
そりゃードン引きですよね(笑)
リリちゃんは「聖女」がリーファくんへの罵倒になると思ったらしいです。かわいい。
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次回は本日22時半頃に更新予定です!