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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一三八話「地竜王女的解決方法は、至ってシンプルなものでした」

「はぁ…………」


 御前(ごぜん)の天使たちが迎賓館(げいひんかん)を出て行った後、私は一人、(まど)の外を(なが)めながら溜息(ためいき)()いていた。


 シャムシエルとザアフィエルさんも気を()かせてくれたのか、部屋には居ない。ラグエル様がこの迎賓館自体に神術(しんじゅつ)結界(けっかい)()ってくれたので、一応私はこの(やかた)から出ない(かぎ)り、安全だ。


「身体が()えきれない、か……」


 てっきり私は〈聖女化(セイント)〉の逆転で身体を(もど)せるかと思っていたけれども、それは神の奇跡を行使(こうし)する前の話だったのだ。神気(しんき)を受け続けたこの身体は(すで)聖霊(せいれい)に近しい存在(そんざい)となっているため、力を持ったまま無理矢理(むりやり)に戻そうとすると人間に近い部分だけ戻り、サリエル様の言う通り、身体が(はじ)け飛ぶのがオチなのだろう。


「そもそも〈聖女化〉の逆転自体、奇跡を(もち)いなければ出来(でき)ないことだ。もう一人奇跡が使える存在が居ないと、無理な話だったんだ」


 このまま私は、女性のまま生きていかなければならないらしい。(はら)(くく)ればいいだけの話なのかも知れないけれども、ずっと希望を持って動いてきただけに、(つら)い。


「何をそんなに溜息を吐いておる」

「……溜息くらい、吐きたくなりますよ……って……」


 いつの間にか部屋に誰か入って……!?


「なんじゃなんじゃ、辛気(しんき)(くさ)い顔をしおって。ほれ、いつものような愛想(あいそう)笑いを見せろ」


 ()り返った私の視界(しかい)(おさ)まっていたのは、水着のような露出度(ろしゅつど)の高い亜麻色(あまいろ)の服に発展(はってん)途上(とじょう)の身を(つつ)んだ二つの竜の(つの)を持つ浅黒(あさぐろ)(はだ)の少女と、同じような格好(かっこう)をした、こちらは私と同じくらいに発育(はついく)の良い一八歳くらいのお付きらしい女性だった。


「ペ、ペル殿下(でんか)!? どうして……ナビールに戻られたのではなかったのですか?」


 そう、私の目の前に居るのはナビール王国に住まう地竜(ドラゴス)の王女であるペル殿下だ。休戦となった(ため)にナビール王国へ戻られた(はず)だったのに、何故(なぜ)ここにいらっしゃるのか。


「なに、地竜を裏切(うらぎ)ったナビールなどにもう用は無いからの。荷物(にもつ)(まと)めてエーデルブルート王国へ大移動中じゃ」


 え、それって大事(おおごと)じゃないですか。今頃(いまごろ)国王陛下(へいか)を始めとする国の中枢(ちゅうすう)が対応に追われていそうなんですが。食料とか大丈夫(だいじょうぶ)なの?


「と、いうことは、今後、地竜(ちりゅう)族はエーデルブルート王国の領内(りょうない)に?」

「まあ、そうじゃ……が、マスティマとやらの(けん)片付(かたづ)くまで、(わらわ)はここに滞在(たいざい)するぞ。一応、世話(せわ)になったおぬしを()()(わけ)にもゆかぬしな。それに……」


 それに? なんかペル殿下のご尊顔(そんがん)がだらしなく(ゆる)んでいるのが気になる。


「妾はお姉さまと一時(ひととき)(はな)れとう無いのじゃ。妾を救い出してくれた時の、あの凜々(りり)しさよ。聞けばお姉さまはかの有名な堕天使(だてんし)サマエルだと言うでは無いか。地竜王の血を(つな)げるには(もう)(ぶん)無い(ほど)血統(けっとう)。妾はお姉さまの子を(はら)むまで離れるつもりは無いのじゃ」

「…………殿下も、サマエルさんも、女性ではありませんか」

「何を言うか。愛は性別など()えるのじゃぞ。そのくらいの奇跡は起こしてみせる」


 ぐっ、と(こぶし)(にぎ)って力説(りきせつ)するペル殿下。……いやー、無理じゃないですかね。神の奇跡でもそれは実現出来なさそう。


 お付きの女性に「大変ですね」と目で合図(あいず)を送ってみたら、真顔(まがお)でこくりと(うなず)かれた。この竜人(りゅうじん)さんも振り回されているらしい。


「さて、()(ごと)はこのくらいにして……聖女リーファよ、男に戻れぬと知り(なや)んでおるようじゃな」

「……何故、そのことを?」


 この事は天使五人にしか教えていない筈なんだけど。あとはシャムシエル経由(けいゆ)でサマエルさんとアザゼルに教えたくらいか。何処(どこ)から()れた。


「サマエルに熱烈(ねつれつ)アピールをしておったら、『ちょっとリーファちゃんの相談(そうだん)に乗ってやってくれない?』と教えてくれたのじゃ」


 サ、サマエルさあああん! 相手をするのが面倒(めんどう)になったからって人のプライバシーを教えないでよ!


「良いではないか、おぬしの(たましい)は既にほぼ女性に近しくなっておる。淑女(しゅくじょ)として日々を()ごしてもおるようじゃし、このまま女性として生きれば良いじゃろう」

「……そう簡単(かんたん)に、(あきら)められないのですよ」


 多分、当事者(とうじしゃ)でないペル殿下には分からないだろう……と、こんなことはあまり言いたくないから口にしないけど。


 それにしても、やはり私は魂までも女性と()しているのか。このままではいずれ、精神までも完全に女性と化してしまう。そうなれば、男性に戻ることなど考えることすら無くなってしまうのではないだろうか。


 悩み(たお)す私を見かねたように、ペル殿下は「やれやれ」と盛大(せいだい)な溜息を吐いた。


「まあ、〈聖女化〉という奇跡の逆転以外にも、男に戻る方法は、ある」

「……え? 本当ですか?」

無論(むろん)じゃ。地竜は(うそ)など吐かんぞ」


 再びお付きの女性へ「そうなんですか?」と視線(しせん)を送る。……あ、否定(ひてい)している。(わり)とこの王女殿下、いい加減(かげん)なのかも知れない。


「まあ、この場合、男に戻るという言い方は間違(まちが)っているかも知れんがのう」


 そう言って教えてくれたペル殿下の(あん)は非常にシンプルで、私の瞳からぽろっと(うろこ)が落ちた。


「性別を女性に限定した〈聖女化〉で女性になったのじゃろう? 逆転するからいかんのじゃ。元に戻すのが駄目(だめ)ならば、男になる術式(じゅつしき)を使えば良い」


 ……その手があったか。


◆ひとこと


Q.堕天使と地竜で子供は作れるんですか?

A.作れます。

Q.女同士でも?

A.無理じゃないですかね。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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