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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一三七話「現実は、残酷だった」

 シャムシエルたちから聞いては居るのだろうけれども、私が男性から女性の身体に変わってしまったさして長くも無い理由を(あらた)めて話し終えると、御前(ごぜん)の天使ラグエル様は「そうですか……」と溜息(ためいき)()いた。


「どうかなさいましたか、ラグエル様?」

「きっと男なのに自分より(しと)やかなリーファに複雑(ふくざつ)な思いを(いだ)いているんだろういってぇ!」


 あ、テーブルに(かく)れてはっきりとは見えなかったけれども、余計(よけい)なことを言ったメタトロン様の右足が、ラグエル様の左足に思いっきり()られたようだ。サリエル様が「阿呆(あほう)め」と(つぶや)いている。


 ……この天使たち、カナン神国(しんこく)のトップに位置(いち)する方々だったよね……? コメディアンではないよね……?


 ラグエル様は、コホンと咳払(せきばら)いをしてから「実はですね」と切り出した。


「聖女リーファよ、あの〈聖女化(セイント)〉の奇跡を行使(こうし)出来(でき)る天使が(ふう)じられた本を編纂(へんさん)したのは……私なのです」

「えっ……」


 あの古代神術(しんじゅつ)の本を編纂したのが、ラグエル様?


 ……ああ、それでか。以前に同様の本が存在(そんざい)しないかどうか(たず)ねた時、あっさりと「ありますね」と返されたのは。そりゃね、(つく)った本人だったら知っているでしょうよ。


 私は思わずシャムシエルの方を見た。彼女はぶんぶんとかぶりを()って否定(ひてい)している。どうやら知らなかったらしい。


「本を編纂したのは私ですが、能天使(パワーズ)シャムシエルを始め、〈聖女化〉の力を神より(たまわ)った多くの力天使(ヴァーチャーズ)、能天使たちを封じたのは部下の智天使(ケルビム)ですね。私との接点(せってん)はありません」


 あ、そうなんですね。まぁお(いそが)しい御前の天使が一々封印の神術を使っていられないか。


「それにしても……はぁ、まさか〈聖女化〉の奇跡が男性にも()いてしまい、性別までも変えてしまうものだなんて……。一二〇〇年間知りませんでした……」


 ショックだったらしく、ラグエル様はこめかみを押さえている。奇跡に副作用(ふくさよう)があると知っていたら色々と対処の方法も変わっていたのだろう。


「……ちなみに、他にもわたくしと同じく本によって聖女となった存在はいらっしゃったのでしょうか?」

「ええ、()りました。ですが、他の(みな)さんはほぼ無尽蔵(むじんぞう)神気(しんき)で神術を行使出来るだけで、神の奇跡を行使出来る存在は貴女(あなた)だけですよ、聖女リーファ」


 そ、そうですか。でも魔術師だったら、奇跡を身に受けた瞬間(しゅんかん)に神へのパスを解析(かいせき)したら使えるようになると思いますよ?


 そう(つた)えると、ラグエル様は苦々(にがにが)しい表情を()かべた。それについても一年前までは知らなかった事実だし、彼女にとっては青天の霹靂(へきれき)だったのだろう。


「ええ、ですから現在、神国では総力を()げてその本の回収に向けて動いております。聖女リーファにつきましてはきちんと節度(せつど)を持って奇跡の行使をされているようですが、そんな方ばかりでもありませんでしょうし」


 まあ、そうですよね。神の奇跡とかほいほい使えたら、簡単(かんたん)に国の戦略(せんりゃく)兵器となってしまうだろう。


 ん? 待てよ? スルーしそうになったけど、〈聖女化〉の奇跡についてラグエル様は理解(りかい)されているって事なんじゃ?


 となると――


「あの、ラグエル様、わたくしもラグエル様にお(うかが)いしたいことが御座(ござ)います」

「は、はい? なんでしょう?」


 いつもより真剣な様子(ようす)が伝わっているのだろう、前のめりな私に対し、ラグエル様はちょっと身体を引いてしまった。


「ラグエル様は、神術をお得意(とくい)とされているのを(ぞん)じております」

「ああ、そうだな。神国の大神術師と言えばラグエルとハニエルだな」


 メタトロン様が何処(どこ)得意気(とくいげ)に横からそう口を(はさ)んだけど、「ちょっと(だま)ってなさい」的な目でラグエル様に(にら)まれた。でもラグエル様もちょっと(うれ)しそう。


「ええ、まあ、神術は得意ですが、それがどうかされましたか?」

「はい、〈聖女化〉について仕組(しく)みをご存知(ぞんじ)でないかと思いまして……。仕組みさえ理解出来れば、〈聖女化〉を逆転させることで、わたくしは男に(もど)ることが出来るのでは無いかと――」


 そこまで話した所で、メタトロン様が何やら複雑(ふくざつ)な表情を浮かべていることに気付いて言葉を止めてしまった。え、何かマズいこと言いました?


「いや……、まぁ、リーファの言う通りだろう。〈聖女化〉を逆転させれば男に戻ることは出来るかも知れんが……」

「……何か不都合(ふつごう)がおありでしょうか?」


 何故(なぜ)歯切(はぎ)れの悪いメタトロン様。


「……聖女リーファ、〈聖女化〉を逆転させるということは、元の身体に戻す、ということです」

「え? は、はい、それは理解しております、ラグエル様」


 というか、それが目的ですので……何か問題があるのだろうか。


「ラグエルよ、この聖女様は理解していないようだぞ」


 何処(どこ)面倒(めんどう)(くさ)そうなサリエル様。ラグエル様はと言うと、何かを言いあぐねている様子だった。


「なあ聖女リーファよ。お前はその身体で神の純粋(じゅんすい)な神気を使い、幾多(いくた)の奇跡を行使してきたな?」

「……はい」


 最早(もはや)サリエル様が確認するまでも無い。役立つと思い、色々と神の神気を用いた術式(じゅつしき)を組み上げてきた。それが――



『そんなことは無いと思うぞ、リーファ。神の純粋な神気に当てられれば、ある程度(ていど)寿命(じゅみょう)()びるだろうからな』



 ふと、いつだったかシャムシエルに言われたことが頭を(よぎ)り、私の思考(しこう)はフリーズした。


「あ…………」

「気付いたようだな」


 そうか、私の身体は神の神気を受け続けており、〈聖女化〉を受けた時から別物(べつもの)になっている。


「まさか、この状態(じょうたい)で〈聖女化〉を逆転させたら――」


 私はそれ以上考えることが(おそ)ろしくなり、言葉を続けることが出来なかった。


 でも、サリエル様はその残酷(ざんこく)な答えを口にしたのだった。


「身体が()えきれず、(はじ)け飛ぶだろう」


◆ひとことふたこと


智天使ケルビムは天使の階級で言うと熾天使セラフィムに次ぐ第二位です。

神を視覚的に認識出来るのは智天使以上で、とってもスゴイ存在です。


聖女化の奇跡に期待を寄せていたら、とんでもない事実を知り衝撃を受けてしまったリーファちゃん。

このまま女性として生きるしか無いのでしょうか?


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 無理して戻らなくても……良いのよ?w
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