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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一三五話「このときが来てしまった」

「はぁ…………」


 私は一人、シャムシエルとザアフィエルさんが()ってくれた神術(しんじゅつ)結界(けっかい)(ほどこ)された大型テントの中で、疲弊(ひへい)した身体を少しでも休める(ため)に横たわっていた。


 あれから数日、マスティマに私自身が身体を乗っ取られないように体力を回復しながら、やっとの事で両軍の取り()かれた兵士さんたちを巨人の死霊(しりょう)から解放(かいほう)しきったのだ。


 取り憑かれた両軍の兵士さんたちは、軍の垣根(かきね)を越え、私の奇跡を受けるまで拘束(こうそく)された。なお、ナビール軍も大人しく私の奇跡を受けてくれた。彼らはマスティマの(のろ)いを受けていたものの、彼女が肉体的に死んだことで解放されたらしく、命を()して戦う意味も無いのだろう。近いうちに正式な休戦となるだろうということも聞いている。


「リーファ、大丈夫か」

「これは…………だいぶ(こた)えているようですね」

「あー…………シャムシエルにザアフィエル様…………。ちょっと駄目(だめ)です…………」


 私はテントに入ってきた天使たちの声に、横たわったままそれだけ返した。このテントは神術結界により悪魔が入れないようになっているので、護衛(ごえい)(にん)はサマエルさんとアザゼルから、シャムシエルとザアフィエルさんに変わったのだ。


 神気(しんき)こそ使い()たさなかったものの、度重(たびかさ)なる奇跡の行使(こうし)疲労(ひろう)困憊(こんぱい)している為、私はトイレでさえも神術結界が使える二人と一緒(いっしょ)に行動する必要があった。何しろマスティマは体力を失っている身体に乗り(うつ)る事が出来(でき)るのである。私がアイツだったら()(さき)に聖女の身体を憑依(ひょうい)先に(ねら)うだろう。


「聖女リーファ、二つ朗報(ろうほう)があります。……ああ、そのままで結構(けっこう)ですよ」

「はい……、(うかが)います…………」


 身体を起こそうとした私を、ザアフィエルさんがやんわりと(せい)してくれた。うう、すみません。


「一つ目は、ナビール王国がエーデルブルート王国に休戦を(もう)し出ました。どうやら国王がマスティマに従属(じゅうぞく)の呪いを受けており、半分傀儡(かいらい)となっていたようですね」


 ああ、やっぱりそうなのか。一人の天使が国王に呪いを施しこのように大きな騒動(そうどう)を起こしたのだし、カナン神国(しんこく)責任(せきにん)(まぬが)()ないだろうなぁ。


「二つ目は、今回の騒動を受けて神国より御前(ごぜん)の天使メタトロン様、サリエル様、ラグエル様がこの地へ向かっております。メタトロン様の指揮(しき)とサリエル様、ラグエル様の神術があれば、マスティマの捕縛(ほばく)も遠くないでしょう」

「……そうですか…………」


 ここに(いた)ってもザアフィエルさんは捕縛に(こだわ)っているのか。まぁ、サリエル様の命令なのだろうし、そこは(たが)えることも出来ないのだろうね。でも死霊をどうやって捕縛するというのか。その辺魔術師としては興味(きょうみ)がある。


「それで、ですね、聖女リーファよ。一つ伺いたいことが御座(ござ)います」

「…………はい?」


 何やら神妙(しんみょう)様子(ようす)のザアフィエルさんに、(そば)緊張(きんちょう)している様子のシャムシエル。一体何について聞かれ――


貴女(あなた)正体(しょうたい)が男性だというのは、本当でしょうか」

「………………」


 すっかり忘れてた。ザアフィエルさんにもバレていたんだった。


 ここには通信用魔道具(まどうぐ)も無い為、陛下(へいか)にお伺いを立てることも出来ない。……とは言え、もうバレているから取り(つくろ)っても仕方(しかた)ない(わけ)で。


「……はい、実は――」


 観念(かんねん)した私は、一人の少年が聖女となった経緯(いきさつ)(かた)り始めたのだった。




「なるほど……、聖女化の奇跡で肉体まで女性に変化してしまったのですね」


 私から経緯を聞いたザアフィエルさんは、内容について納得(なっとく)したのかうんうんと(うなず)いている。彼女だけでなく多くの人にもこれまで女性として(せっ)していた為、何となく気恥(きは)ずかしい。


「あの……ザアフィエル様、この事について、神国には……?」

「……大変申し訳ないのですが、(つた)えることになります。聖女化の奇跡による弊害(へいがい)がある、ということが分かりましたので……。一〇〇〇年前までは、このようなことも神国が気にすることは無かったのでしょうが」


 ああ、そうか。その(ころ)から神国は傲慢(ごうまん)方針(ほうしん)転換(てんかん)したんだよね。だとすれば、第二、第三の被害(ひがい)が出ないようにするのも理解(りかい)は出来る。


「それにしても……貴女が元男性だとは今でも信じ(がた)いですね。普段(ふだん)()()()()いも淑女(しゅくじょ)のそれですし」

「お母様に仕込(しこ)まれましたので……」


 感心するザアフィエルさんに、私は寝転(ねころ)んだまま遠い目をして見せた。四日で仕込まれました、はい。


「ザアフィエル様、シャムシエルには口止(くちど)めをしておりましたので、彼女の処遇(しょぐう)には寛大(かんだい)措置(そち)をお願い(いただ)けますでしょうか」

「はい、勿論(もちろん)です。エーデルブルート王国の聖女として(みと)められてしまった為、迂闊(うかつ)に正体を明かす事が出来なかったのですよね。御前の天使にもそのように陳情(ちんじょう)いたします」


 シャムシエルを超える生真面目(きまじめ)かと思っていたけど、理解の良い方で良かった。私の所為(せい)堕天(だてん)させられたら申し訳ないものね。


「ありがとうございます、ザアフィエル様。リーファも、ありがとう」

「いえ、感謝(かんしゃ)するのはわたくしの方ですよ、シャムシエル。こちらの都合(つごう)で神国へは(だま)って頂いていたのですから」


 申し訳無さそうなシャムシエルにそう返すと、二人で苦笑してしまった。シャムシエルもよく神国に(そむ)くような真似(まね)をしてくれたものだ。それを思えばもっと早くメタトロン様やラグエル様には伝える必要があったのかも知れない。


◆ひとこと


リーファちゃん、ついにゲロってしまいました(笑)

年貢の納め時という奴です。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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