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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一三四話「始まったゲリラとの戦い」

 テオドールさんのロングソードは、私を綺麗(きれい)袈裟懸(けさが)けで()()いた――(はず)だった。


 しかし、私の(はだ)(とど)いた剣は、まるで岩に斬りつけたような音を(ひび)かせただけで、流血はおろか全く痛みを感じなかった。あれ?


「くっ……、この手応(てごた)えは、一体……!?」

「グラーツ部隊長、何をなさっておられるのですか!」


 乱心(らんしん)のテオドールさんは剣を取り落とし(うめ)いており、お付きの兵士さんたちに拘束(こうそく)されていた。一体彼に何が……?


「やれやれ、一応はおぬしも恩人(おんじん)じゃからのう、(わらわ)が手を貸してやるわ。ほれ、中身が女でないとは言え、男(ども)の前で何時(いつ)までもそんな格好(かっこう)をしておるでない」

「え……、って、わわっ!」


 無傷だった私だけど、ペル殿下(でんか)の言葉でやっとお気に入りのワンピースが切り裂かれて上半身の肌が(あら)わになっていることに気付(きづ)き、(あわ)てて(つえ)を持っていない方の手で(むね)(かく)した。とやっていた所、ふわりと誰かの上着が()けられた。


「まったく……。女でないとか何とか、後できちんと話を聞かせて(もら)うぞ、聖女リーファ」

「ア、アザゼル……、ありがとうございます……」


 上着を()いだアザゼルが、溜息(ためいき)()きながら私に(くぎ)()した。女じゃないと分かってもこの(あた)りは紳士的(しんしてき)()()ってくれてるらしい。うう、このイケメン悪魔にも(もう)(わけ)ないことをしたなぁ。(つがい)になるとか何とか言ってたしなぁ。内心すっごい後悔(こうかい)してるだろうなぁ。


「あのう……先程は殿下がわたくしを助けてくださったのですか?」

「うむ、斬られるであろうということは分かったのでな。硬化(こうか)の魔術でおぬしの肌を一瞬(いっしゅん)岩へと変えたのじゃ。……ああ、礼は良いぞ。すべて終わってからじゃ」


 魔術……って、詠唱(えいしょう)はおろか、発動(はつどう)の言葉すら無かったような……? これが古竜(エンシェントドラゴン)の王族の力という訳なのか。御前(ごぜん)の天使すら(はる)かに()えた力を持っているような気がするけど、そんな存在(そんざい)がどうして(さら)われたりしたんだろう……。


「さて、そこな騎士よ。貴様(きさま)、中身は先程までここに居たマスティマとやらじゃな?」


 え、そうなんですか殿下? というか、なんでそんなことが分かるんです?


「……ああ、そう言えば、(たましい)の色がお分かりになるのでしたね……」

「うむ、その通りじゃ。一人の肉体に二つの魂が入っている上に、先程見ていた色と全く同じじゃからのう」


 そういうことなのか。ということは、マスティマは……?


「……自身を、死霊(しりょう)へと変えたか」

「……あらあら、もうバレてしまいましたのね。そうですわよ、アザゼル」


 拘束されたまま強面(こわもて)でころころと笑うテオドールさん……いやマスティマ。その顔で淑女(しゅくじょ)の言葉を使うのは、はっきり言って違和感(いわかん)スゴイ。


「わたくしは前の肉体が万一(まんいち)死しても死霊として(とど)まれるように、自身へ(のろ)いを()けておりました。死してなお神のために身を()出来(でき)るのですから、幸せなことですわ」

「身を粉にするのは取り()かれた方じゃん……」


 サマエルさんの()えた突っ込みが入った。死霊は誰かに取り憑かない限り物理的に影響(えいきょう)(あた)えることが出来ないからねぇ。


 でも、こうして死霊となったのならばやることは一つだ。ここで存在を消し去ってやる。


「主よ、迷える御霊(みたま)を正しき道へと(みちび)(たま)え――〈明けの明星(ルシファー)〉!」


 マスティマがこれ以上何かを行う前に、素早(すばや)く取り憑いた死霊を強制的(きょうせいてき)昇天(しょうてん)させる奇跡の術式(じゅつしき)展開(てんかい)した。(あわ)く青い光が生まれ、私を中心として(つつ)()むように広がる。


「……はっ? あれ? 聖女様に……皆様(みなさま)?」


 あ、光が消えるよりも早くテオドールさんが帰ってきた。自分が何故(なぜ)本陣(ほんじん)でなく私たちの所に居るのか、何故拘束されているのか、(あせ)った様子(ようす)でキョロキョロと(まわ)りを見回(みまわ)している。


「……成功した、のでしょうか?」

「いや……どうやら、逃げられたようじゃのう。一足(ひとあし)先に魂が出て行くところが見えたわ」


 ペル殿下が、私の楽観(らっかん)をあっさり否定(ひてい)した。手応えが無いと思ったら、やっぱりかぁ。


「聖女リーファ、マスティマが何処(どこ)へ逃げたか特定することは可能ですか?」


 ザアフィエルさんが、一応といった様子でそう(たず)ねてきた。


 でもねぇ、私が今何もしていないことでたぶんお分かりだと思うのですが、探知(たんち)の奇跡は無いのですよ。


「探すのであれば、〈魔力探知(マナサーチ)〉の魔術を使用する必要があります。……ですが、ここは戦場で、大勢(おおぜい)の兵士の皆様がいらっしゃいます。使ったところで、位置の特定は(むずか)しいでしょう」

「そうですか……。マスティマの居場所を探すのも一苦労(ひとくろう)、そして、誰かが憑依(ひょうい)されて味方を攻撃してくるかも知れない。これは……厄介(やっかい)なことになりましたね……」


 まぁ、体力の落ちた人とか、精神が不安定になっている人じゃないと憑依は出来ないけどさ。でもこれだけ多くの兵士さんが居れば、合致(がっち)する人は出てくるよねぇ。(げん)に、向こうから憑依された一〇〇人と一一頭がこちらへ向かってきているくらいだし。


「リーファちゃん、あっちから来る巨人の死霊に取り憑かれた兵士も何とかしないといけないんだけど、どうにか出来る?」

「……先程も申し上げましたが、難しいです。神気(しんき)を使い()たす(いきお)いで奇跡を展開すれば、もしかすると対応は可能かも知れませんが」

「リーファちゃんが(たお)れちゃうのは危ないなぁ」


 サマエルさんも分かっているのか、どうしようも出来ない事態(じたい)(うな)っている。そうなんだよね。神気を失って男に戻る可能性があるのはもう(かま)わないんだけど、問題はマスティマが何処かから虎視眈々(こしたんたん)機会(きかい)(うかが)っていることだ。私が倒れてしまったら、マスティマへの対抗(たいこう)手段(しゅだん)が無くなってしまう。


 こうして私たちは、マスティマ自身を(ふく)めた死霊たちに翻弄(ほんろう)されることとなったのだった。


◆ひとことふたこと


>お気に入りのワンピース

>お気に入りのワンピース


みんな大好きルシファーは、別名「明けの明星」「宵の明星」でもあります。

実際「明けの明星」を英訳すると「Lucifer」になります。

もはや語るまでも無く有名な天使であり堕天使ですが、実は堕天使だというのは聖書の誤読に始まったという説があるようです。

だとしたら最も有名な堕天使は冤罪だったということに。ひー。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] >お気に入りのワンピース< アザゼルさん、イケメン──!
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