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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一三三話「一枚岩で無いことがよく分かる」

「そちらから来てくれるのは好都合(こうつごう)だな、マスティマよ。観念(かんねん)する気になったのか?」


 抜剣(ばっけん)して今にも飛びかからんとしているアザゼルの言葉にも、マスティマは残った左手で口元を(おお)い、クスクスと笑って見せた。


「ご冗談(じょうだん)()ぎますわ、アザゼル。一体何に観念する必要があるのでしょう? 貴方(あなた)がたは神に(そむ)いた存在(そんざい)。ですからわたくしが神罰(しんばつ)(あた)えに来ただけですわ」

「こちらは聖……女が一人、堕天使(だてんし)二人、天使が二人、それに加えて地竜(ドラゴス)軍勢(ぐんぜい)が居る。最早(もはや)貴様(きさま)一人がどうこうして(あらが)うことなど出来(でき)んぞ」


 アザゼル、今、聖女って言うの躊躇(ちゅうちょ)してたな。もう誤魔化(ごまか)しは()かないらしい。泣きたい。


 でも彼の言う通り、単騎(たんき)の、しかも片(うで)を失っているマスティマが私たちに抗えるとも思えないし、彼女だって分かっている(はず)だ。しかしそれでも悪魔の天使は、不気味(ぶきみ)に笑っているだけだった。


「あらあら、(こわ)いですわね。でも、アレを見ても同じことが言えるのでしょうか?」


 そう言ってマスティマが指さしたのは……エーデルブルート軍とナビール軍との戦場? 一体何が……って……?


「え、アイツらみんな、こっちに向かって来てない?」


 本当だ。視力(しりょく)が高いサマエルさんでなくとも分かる。遠くで交戦(こうせん)していた筈の両軍が、(あや)しげな足取りでこちらへ向かっている。その中には地竜すらも(ふく)まれていた。


「……マスティマ、何をなさったのですか」

「わたくしは何もしておりませんわ、(いつわ)りの聖女よ。わたくしの可愛い死霊(しりょう)たちが、母を(いじ)める背信者(はいしんしゃ)たちを(ゆる)さぬ(ため)に向かってきているだけですわ」


 そこまでマスティマが話したところで、何かに気付(きづ)いたようにアザゼルの顔色が変わった。


「貴様……そうか、巨人の死霊(ども)を使ったのか!」

「使っただなんて人聞きの悪いことを。皆、自分の意思(いし)で彼らに取り()いているのですわ」


 ……そうか、何時(いつ)だったかミスティが私たちの元へと(おとず)れた次の日、巨人の死霊がシュパン村を目指(めざ)していたことがあった。彼女はこんな奥の手を持っていたという(わけ)か。


 ちなみにここから少し(はな)れた本陣(ほんじん)指揮(しき)()っているテオドールさんたちは、予想だにしなかった状況(じょうきょう)大混乱(だいこんらん)している。無理も無い。


「聖女リーファ、(ねん)の為に聞くが、あれらの解放(かいほう)は……」

「……(むずか)しいですね。霊体(れいたい)であれば昇天(しょうてん)させることは容易(たやす)いですが……少々強力な奇跡が必要になります。それに……」

「分かっている。あの数だしな」


 うん、見た感じ一〇〇人以上と一一頭が死霊に憑かれている。これを解放するのは……出来なくないけど、神気(しんき)を使い()たしかねないね。


「何より、まずはマスティマを――」

「お待ちください、聖女リーファ」


 私が長杖(ちょうじょう)(かま)えた所で、後ろからザアフィエルさんに止められた。……そう言えば、この方は上司(じょうし)のサリエル様にマスティマの捕縛(ほばく)を命じられているんだっけ。


 でもねぇ、マスティマが大人しく(つか)まる訳無いでしょ。捕まえた途端(とたん)自爆(じばく)魔術だって使いかねないよ、この狂人(きょうじん)。いや狂天使?


力天使(ヴァーチャーズ)マスティマよ、聞きたいことがあるのだが」

「まあ、ザアフィエル。貴女(あなた)は偽りの聖女リーファ側に付いているのですか? この偽りの聖女に?」


 偽り偽り五月蠅(うるさ)いなっ。私だって自分が本当は聖女なんかじゃないってことくらい分かっているんだよっ!


「……聖女リーファは、神国(しんこく)(みと)めている存在だ。貴様がどうこう言える立場(たちば)では無い。(わきま)えろ」

「貴女こそ分かっていらっしゃいませんわ、ザアフィエル。わたくしはこの者の側に居てはっきりと理解(りかい)したのです。神の存在が唯一(ゆいいつ)であることを否定(ひてい)し、存在してはならない筈の魔族(まぞく)を妹と呼ぶ。その上そのように二人も悪魔を(したが)えている。これが信仰(しんこう)否定(ひてい)でなくて何だと言うのですか」


 いやあんただって悪魔だろがい! って言ったら「わたくしは天使ですわ」って返ってくるので言わないけど。「従えられてないしー」とか後ろでサマエルさんが抗議(こうぎ)してる。ちょっと(だま)ってて。


「信仰を強制(きょうせい)するな、マスティマ。そのような時代は一〇〇〇年も前に終わったのだ」

「人間が神を信仰することは、義務(ぎむ)ですわ。強制と言われるのは心外ですわね」


 うーん、(はた)から聞いていて平行線というか、()み合っていないというか、マスティマの感覚が常軌(じょうき)逸脱(いつだつ)していて(まじ)わる気がしない。神国もよくこんな悪魔を()っているなぁ。


「ザアフィエル、コイツと問答(もんどう)は不可能だよ。いい加減に黙って(もら)おう」


 そう言ったサマエルさんの弓を引き(しぼ)る音がした次の瞬間(しゅんかん)――


「え?」


 私だけでなく、他の誰かの口からも、唖然(あぜん)とした声が()れた。


 マスティマは(ひたい)をサマエルさんの矢に(つらぬ)かれ、(いきお)いを受け、きりもみしながら後ろへと落ちていったのである。


 ……あれだけ神罰だの何だの言っておいて、あっさりと死んだ?


「……いや、まだじゃのう」


 それまで黙って私たちのやり取りを(うかが)っていたペル殿下(でんか)が、(おか)斜面(しゃめん)に落ちて行ったマスティマを見ることも無く、私の考えを読んでいるかのようにそう(つぶや)いた。


「聖女様!」


 と、おや? マスティマの死体を確認しに行こうかと思った矢先(やさき)、本陣に居た筈のテオドールさんがやって来た。部下たちを置いて(はな)れて大丈夫(だいじょうぶ)なんだろうか。


「聖女様、少しお話が御座(ござ)います。我()に向かってきているあの兵たちなのですが……」

「あ、はい、テオドール様。あれは――」


 いつもの強面(こわもて)、いつもの口調(くちょう)で話しかけられ、私は完全に油断(ゆだん)していた。


 だから――



 一瞬(いっしゅん)()(はな)たれたテオドールさんの剣を、私は(かわ)すことが出来なかった。


◆ひとことふたこと


マスティマは神の管理下へ戻る時、「役に立ちますぜ」と言って巨人の悪霊たちを大量に連れ帰っています。

いやホント……こんなの飼ってて大丈夫ですか神様。


リーファちゃん斬りつけられました!

安否は次回!


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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