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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一三二話「やば、バレた」

「あ、(もど)ってきたー。ちょっとこれ、なんとかしてよー」


 (おか)の上に戻ると、先に戻っていたサマエルさんが(めずら)しく泣き言を上げていた。


 見れば、先程助けた竜人(りゅうじん)の王女殿下(でんか)が、サマエルさんの(こし)にべったりとしがみついている。それはもう、べったりと。サマエルさんを見上(みあ)げる殿下の金色(こんじき)の瞳にはハートマークが()かんでいる……ように見える。


「……どうなさったのですか、それは」

(なつ)かれた……」


 えぇ……。いや、まぁ、ペル殿下にとっては助けてくれた張本人(ちょうほんにん)なのだし、分からなくもないけど。


 地竜(ドラゴス)の王女であるペル殿下は、私よりも()が頭一つ分低く、その可愛らしい顔からして一二歳くらいといったところだろうか? まぁ、竜なので正確な年齢は分からないけれども。()()()びた美しい黒髪を腰まで下ろしており、浅黒(あさぐろ)(はだ)はサマエルさんのそれよりは(うす)い感じがする。監禁(かんきん)生活だった(ため)か、粗末(そまつ)貫頭衣(かんとうい)を着せられているのがちょっと可哀想(かわいそう)


(もう)(わけ)御座(ござ)いませんが、お話を(うかが)っても(よろ)しいでしょうか、ペル殿下」


 (ひざまず)いて古竜(こりゅう)語で問い()ける私に対して、サマエルさんに頬擦(ほおず)りしていたペル殿下は「ん?」と(いぶか)しげな表情を浮かべた。


「なんじゃおぬし、(わらわ)とお姉さまの愛の時間を邪魔(じゃま)するのか」


 いやお姉さまて。サマエルさんの顔が引き()っている。


 あれ? というかエーデルブルート語だな。わざわざ古竜語で話しかける必要は無かったのか。この(あた)り、王女として英才教育を受けているという訳なのか。


「い、いえその、(いま)だ敵軍とは交戦中(ゆえ)、彼女を解放(かいほう)して(いただ)けますようご容赦(ようしゃ)(ほど)をお(ねが)いいたします」

「ふむ、まぁ良かろう」


 あ、納得(なっとく)してくれたよ。まだサマエルさんにべったりくっついているけど。


「ペル殿下、この度は大変お(つら)い思いをされたこと、心中(しんちゅう)(さっ)しいたします。不躾(ぶしつけ)ながら殿下にナビールの魔術的な契約(けいやく)(ほどこ)されていないか確認させて頂きたく、探知(たんち)魔術を行使(こうし)することをお(ゆる)し頂けますでしょうか」

「うむ、許す」


 あっさり許可(きょか)が出た。小さな(むね)()らした尊大(そんだい)態度(たいど)が何とも可愛らしい。


 私は「失礼いたします」と言ってから、自分の(ひたい)をペル殿下の額に合わせた。……うん、たぶん大丈夫(だいじょうぶ)だろう。


(おそ)らく、大丈夫でしょう。(ねん)(ため)に後で解呪(かいじゅ)の奇跡を使わせて頂きますが、今はまだ敵軍に数頭地竜の皆様(みなさま)がいらっしゃいますので、先に彼らの解放に向かいたいと思います」

「………………」


 あれ、(だま)っちゃったよ。それに何か(あき)れたような視線(しせん)を向けられている。


「解呪、と言うたか? 如何様(いかよう)にして解呪すると? 魔術契約にて(しば)られておる存在(そんざい)は、契約者の同意が無ければ解除(かいじょ)出来んであろう?」


 あー、まあ、そうなんですけどね、普通は。


「ペル様、リーファちゃんは神の奇跡が使える聖女様なんだよ。だから今あっちで大(あば)れしてる地竜たちも、さっき解放してあげたからああしてナビール側を攻撃出来(でき)てるの」


 サマエルさんが指し(しめ)した方向には、エーデルブルート側に寝返(ねがえ)ってナビール兵を()ぎ倒している八頭の地竜たちが居た。最早(もはや)敵の陣形(じんけい)瓦解(がかい)しており、大混戦(だいこんせん)になっている。


「神の奇跡……じゃと? (まこと)か、少女よ、いや……」


 なんかまじまじとペル殿下に見つめられた。金色の瞳はまるで見る者を(まど)わせてしまうような、不思議(ふしぎ)魅力(みりょく)がある。


「……おぬし、本当に女か? (たましい)の色がやや男()りに見えるが」

「………………」


 魂の色、ですか? え? 古竜(エンシェントドラゴン)の王女様はそんなものが分かるの?


 後ろでアザゼルが「は?」と声を上げたような気がする。えーと、マズい。殿下には私の中身が男だってバレているらしい。


「……わ、わたくしのことについては後程(のちほど)説明をさせて頂きますが、()ずは地竜たちの解放に向かいます!」


 (あわ)ててその場を取り(つくろ)い、長杖(ちょうじょう)を持って立ち上がる。きっとこの時点でペル殿下の中では答え合わせが出来たのだろう。金色なのに白い目を向けられており視線が痛い。サマエルさんがお(なか)(かか)えて笑いを(こら)えているし、もう泣きたい。


「その必要は御座いませんわ、(いつわ)りの聖女リーファ」


 さあ戦場へ戻ろうとした所へ突如(とつじょ)上空後方(こうほう)から聞こえた声に、振り向く。この声は――


「ごきげんよう。貴女(あなた)たちはここで死ぬのですよ、聖女リーファに、アザゼルよ」

「……マスティマ!」


 声を上げたアザゼルが見上げた先、丘の上空五メートル程の所。


 今回の元凶(げんきょう)である隻腕(せきわん)の悪魔の天使が、不気味(ぶきみ)な笑みを浮かべて(たたず)んでいた。


◆ひとこと


【悲報/朗報】リーファちゃん、アザゼルに男だとバレる


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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[良い点] やや男寄り──!
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