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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一三〇話「幕間:嵐は突然訪れた」

※三人称視点です。


戦争は両側の描写が必要となるため、ころころと幕間が入ってしまいすみません。

 夕日を()にして進軍していたナビール王国軍東方第二部隊は、目的地である(おか)斜面(しゃめん)を登り切ること無く停止した。東方第一部隊の反省(はんせい)()まえ今回は第二、第三部隊を合流させた大部隊とし、地竜(ドラゴス)を左右、中央に分散させた鶴翼(かくよく)(じん)(のぞ)んでいた。


「エーデルブルートの聖女は来るでしょうか」


 この部隊の部隊長であるハルブは、油断(ゆだん)なく前方を(にら)み付けたままに左(どなり)のマスティマへと問いかけた。彼女がもちかけた、地竜の王女を人質(ひとじち)として(もち)いるという作戦について彼は懐疑的(かいぎてき)であった。何しろエーデルブルート側には地竜に対して助ける義理(ぎり)など無いのだから、このまま()かけられてもおかしくはないのだ。


 そんな彼の疑念(ぎねん)他所(よそ)に、マスティマはくつくつと(ふく)み笑いをして見せた。


「ええ、ええ、来ますとも。聖女リーファは生粋(きっすい)のお人好(ひとよ)しですから。誰かの(ため)にその身を差し出すことなど(いと)わないでしょう」

「……そうですか。ですが、(まわ)りがそれを(ゆる)すかどうかは別問題だと思いますがねぇ……」

「その時はその時です。その子を殺す……までゆかなくとも、手足の一本でももいで差し上げれば(よろ)しいですわ。そうすれば、我が軍の地竜たちも本気で働かざるを得ないでしょうし」


 笑顔でそんなことを(うそぶ)くマスティマに、ハルブは(うす)ら寒い物を(おぼ)えていた。(いく)ら人質とは言え、無抵抗(むていこう)の者の手足を(うば)趣味(しゅみ)など、彼には無い。


 ハルブは魔道具(まどうぐ)(なわ)(しば)られ気を失ったまま(くら)に転がされている竜人(りゅうじん)の少女を(なが)める。年の(ころ)は一二歳くらいで、ナビール人と同じ浅黒い(はだ)と美しい黒髪を持っており、彼は少女を自分の娘の面影(おもかげ)と重ねていた。


(……いかんな、私はここを(あず)かる部隊長だというのに、エーデルブルート軍がこの娘を助けに来てくれることを期待(きたい)してしまう)


 第一部隊のナジュムと同じく、彼ら軍人は地竜を運用することなど始めから反対だったのである。そもそも昔から地竜たちはナビールと友好的な関係を(きず)いていた。敵国に対して翼竜(ワイバーン)での侵攻(しんこう)(むずか)しくなったためにその力を利用しようなどと考えたのは現場の者たちではない。安全地帯の王都で()らすお偉方(えらがた)であり、意識(いしき)(ちが)いが大きいのだ。


伝令(でんれい)がお(もど)りのようですわね」


 意識を遠くに彷徨(さまよ)わせていたハルブは、マスティマの言葉にハッと正面(しょうめん)視線(しせん)を向けた。


 そこには先程エーデルブルート軍に通告(つうこく)(ふみ)を持って行った伝令兵が、ハルブたちが居る鶴翼の中央へ戻ってくる姿(すがた)があった。そして――


「……伝令の後方(こうほう)でこちらへと向かって歩いているのは、聖女リーファ、か……?」


 このような戦場(せんじょう)にあって一際(ひときわ)目立(めだ)清楚(せいそ)な白のワンピースを着込(きこ)んだ少女が、伝令兵の後ろからハルブたちの方へとやって来ている。彼女の右隣には弓を背負(せお)狩人(かりゅうど)風の女性、左隣には黒服を着込んだ長身の男性がそれぞれ(わき)(かた)めていた。


「まあ! (にく)きアザゼルまで来てくれたのですね! これは予想外でしたが、(うれ)しい(かぎ)りですわ! まずはわたくしと同じく(うで)(うば)って差し上げなければ!」


 隣で狂喜(きょうき)しているマスティマを半目で睨み付けながらも、ハルブは内心で地竜の王女を傷つけずに済むことを敵国の聖女に感謝していた。


「……ん? 風が出てきたな……」


 つい先程まで無風(むふう)状態(じょうたい)だった戦場に風が生まれ始めたことに気付き、ハルブは声を上げた。それは段々(だんだん)と強くなり、一〇秒も()たぬうちに地上の砂が()い上がる(くらい)(いきお)いにまで()けてゆく。


「いかん、視界(しかい)が……」


 砂埃(すなぼこり)があっという間に彼らの視界を(うば)()り、前方に居る(はず)の聖女はおろか、近くに居る筈の伝令兵の姿すらも把握(はあく)することが出来(でき)なくなっていた。


「……ハルブ部隊長! 竜の娘を――」

「え?」


 ()(くる)う風の音を()うようにしてマスティマの声がハルブに届いたが、彼は最後までそれを聞き()げることが出来なかった。


 何者かに強く突き飛ばされた彼は落竜(らくりゅう)していたのである。


「ぐっ!」


 ハルブは高い場所から受け身も取れず(したた)かに背中と頭を強打(きょうだ)し、苦悶(くもん)の声を上げた。(さいわい)いにして(よろい)(かぶと)が守ってくれた為に、大事(だいじ)には(いた)らなかったが。


「い、一体、何が……?」

「さあさあみんなお立ち会い、でっかい花火を見ておくれ、〈閃光弾(フォイアーヴェルク)〉!」


 砂埃に視界を閉ざされたハルブが手探(てさぐ)りで地竜の元へと戻ろうとしたところ、彼の耳に何者かの魔術の詠唱(えいしょう)が聞こえた。


 そして次の瞬間(しゅんかん)、ナビール兵たちの耳をつんざくような大轟音(ごうおん)が空から鳴り(ひび)いたのだった。


◆ひとこと


何者か()の介入を受けてしまったナビールの将軍。

卑怯という言葉の意味を教えてもらうことになりました(笑)


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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