第一三話「母と悪魔の罠に掛かった憐れな僕であった」
本日も1時間おきに投稿します!
(明日からは1日1話です)
よろしくお願いいたします。
下山途中に師匠の姿が無かったので心配していたけれども、村の広場に仕掛けられた魔力吸収の術式を弄っている姿を見て、一先ずほっとした。村人の姿は未だに無い。
「ただいま、師匠」
「あらあら、おかえりなさい、リーファちゃん。……そちらの方は、まさか?」
「うん、封印されていたサマエルさん。シャムシエル曰く、遥か昔に堕天した元超偉い天使様だって」
「紹介が雑だな……」
え、そうかな。シャムシエルが頭痛を堪えているようなリアクションしてるけど、何かマズかった?
ちなみに当人……じゃなくって当悪魔のサマエルさんは瞳を輝かせながらキョロキョロと村を見回している。村程度でこの様子なら、王都とか行ったらショックで翼が白くなっちゃうんじゃないだろうか。
「サマエルさんですね、私はこの子の母親で魔術の師匠、アナスタシアと申します。娘がお世話になりました」
「お? リーファちゃんのママ? これはこれはごてーねーに。堕天使サマエルです。さっき封印から目覚めました」
さっきまで命のやり取りをしていたとは思えぬ、何ともほんわかしたムードだ。この辺り、母さんの成せる業と言った所……って娘じゃないってばスルーするところだったよ!
それにしてもサマエルさん、今大陸共通語喋ってたな。大陸の歴史で言えば三〇〇年ほど前から使われ始めた新しい言語なのになんで喋れるんだろう、三〇〇〇年以上眠っていた筈なのに不思議だ。
「で、師匠は何してるの? 見た所、術式に手を加えているところみたいだけど」
「あぁ、これね、反転術式にしてみました」
「反転術式って……逆の効果を持つ魔術にしたってこと?」
逆の効果ということは……ああ、力を与えれば村のみんなに吸収した力を返せるのか。
でもそんな大量の魔力、どこから引っ張ればいいんだろう。
「……ん?」
なんか師匠がニコニコと僕を見て微笑んでいる。嫌な予感。
まさか、僕の魔力で?
「いやいやいや、いくら僕が聖女の力を貰ったからといって、村のみんなに分け与えられるほどの魔力量は無いでしょ……」
「でもでも、リーファちゃん? 自分の限界を知っておくことは重要だとおねーさん思うなー。ここは一つ、やってみるのもいいんじゃない?」
う、なんかサマエルさんまで参戦してきた。この人にも下山する時に僕の事情を話してあるので、元男の魔術師現在聖女だということは既に知られている。
「そうそう、サマエルさんの言う通りよぉ。戻しすぎないようリミッターもかけてあるから、存分にやっちゃいなさい?」
「至れり尽くせりで涙が出るよ……反転術式とはいえ、この子から吸い取ることは無いんだよね?」
「ええ、その魔族ちゃん……というより、パスが通っていたのは死霊の方ね。そっちへのパスはすべて切られてるから。他の仕掛けはすべて解除済みだし、この術式から死霊の方へ魔力が流れることも無いわよ」
流石は師匠、もう仕掛けを全部見つけてしまったらしい。仕事早いなぁ。憧れる。
仕方ない、やるか。村のみんなを元に戻さないといけないし、覚悟を決めよう。
「師匠、僕が倒れたら家まで運んでよ?」
「リリちゃんのおうちで休ませて貰えばいいじゃない」
「リリは今僕の正体を知らないから、たぶんそれ無理……」
言っても信じて貰えるか怪しいものだ。
幼馴染が聖女はじめました、だなんて。
長杖の頭を術式へと向け、ふぅ、と一息吐く。
今回の主目的は村のみんなへ力を与えることだけれど、自分の限界を確認することも忘れてはいけない。どれだけの力をどれだけの時間与え続ければ限界を迎えるのかきちんと理解するためにも、力加減に重点をおいて魔力を流すことにした。
「それじゃ、いくよ!」
長杖というパスを経由して、僕の身体から術式の方へ一定量の魔力を流し続け始める。これはなかなかに集中力の要る作業だ。鍛錬に良いかも知れない。
流し続けること五分ちょい、リミッターが作動したので魔力の供給を止めた。
「終わったみたいねぇ」
「……倒れなかったね」
マジでか。かなりの量を流したというのに。っていうか村人と兵隊さんたち、森の動物たちを足した総魔力量より僕個人の魔力量の方が高いってことなのか。
「リーファちゃん、まだいけそうな雰囲気はある?」
「うーん、結構辛くはなってきてる。身体も怠い」
「じゃあ、一先ず限界に近い所までは見えたみたいね~」
両手を合わせて喜ぶ師匠。きっと弟子の成長が見られて嬉しいのだろう。
しかし、身体が怠いけど胸のつかえが取れたような不思議な感覚がある。僕はそこまで魔力量の限界を気にしていたのだろうか。
「アナスタシアさん!」
「あらあら、リリちゃん? 早いお目覚めね~」
僕たちの方へ駆け寄ってきた姿があると思えば、幼馴染のハーフエルフ、リリだった。と、気が付けばリリだけでなく、他の村人たちも家々から飛び出してきている。
「あの、アナスタシアさんが助けてくれたんですか!? 身体が弱って倒れていた所に力が戻る感覚があったんです! ありがとうございます!」
「いえいえ~、でも、力を分け与えたのは私じゃないわよ~。お手柄はリーファちゃんだから」
「え? リーファ……ちゃん?」
ちょ、師匠! リリが狐につままれたような顔をしてるじゃない! 先に事情を説明してよ!
「あ、あのさ、リリ。実は僕、リーファなんだ。訳あって女の子の身体になっちゃって……」
「………………」
あ、ダメだ。説明したけど理解が追い付いていない。っていうかリリ、魂が抜けたような顔をしてる。
「ほうほう、ではそこの女の子が村を救ってくれたのですか!」
師匠は師匠で村長さんに事情を説明している。その話を傍から聞いていた人たちからも、僕の方へと畏敬の眼差しが向けられているような……。
「聖女」
「聖女だ」
「聖女だ!」
「え」
なんか「聖女」の大合唱が始まった。主語が無いけど、たぶんその対象は僕だ。
「ちょ、ちょっと……?」
「良かったねぇ、リーファちゃん。これで名実共に聖女じゃん、やったね!」
動揺する僕の肩に、ポン、と手を載せるサマエルさん。顔を見ると、今にも噴き出しそうになっている。絶対面白がってるよこの人! いや悪魔!
呆けている幼馴染、聖女の大合唱、笑いを堪える悪魔、誇らしげな天使、僕をニコニコ見守る師匠。
僕はそれらを吹き飛ばすように叫んだ。
「僕を、聖女と、呼ばないでぇぇぇ!」
◆ひとこと
あわれリリちゃん(笑)
それはともかく、反転術式は逆の効果を持つ魔術、神術を行使出来ます。
それならリーファくんも聖女化の奇跡を逆転させれば? と思っても術式の一部しか理解してなかったので無理なのです。残念。
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次回は本日21時半頃に更新予定です!




