表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第一章「聖女はじめました」
13/184

第一三話「母と悪魔の罠に掛かった憐れな僕であった」

本日も1時間おきに投稿します!

(明日からは1日1話です)


よろしくお願いいたします。

 下山(げざん)途中に師匠の姿が無かったので心配していたけれども、村の広場に仕掛(しか)けられた魔力吸収(きゅうしゅう)術式(じゅつしき)(いじ)っている姿を見て、一先(ひとま)ずほっとした。村人の姿は(いま)だに無い。


「ただいま、師匠」

「あらあら、おかえりなさい、リーファちゃん。……そちらの方は、まさか?」

「うん、封印されていたサマエルさん。シャムシエル(いわ)く、(はる)か昔に堕天(だてん)した元超(えら)い天使様だって」

「紹介が(ざつ)だな……」


 え、そうかな。シャムシエルが頭痛を(こら)えているようなリアクションしてるけど、何かマズかった?


 ちなみに当人……じゃなくって当悪魔のサマエルさんは瞳を(かがや)かせながらキョロキョロと村を見回(みまわ)している。村程度でこの様子なら、王都とか行ったらショックで(つばさ)が白くなっちゃうんじゃないだろうか。


「サマエルさんですね、私はこの子の母親で魔術の師匠、アナスタシアと申します。娘がお世話になりました」

「お? リーファちゃんのママ? これはこれはごてーねーに。堕天使サマエルです。さっき封印から目覚(めざ)めました」


 さっきまで命のやり取りをしていたとは思えぬ、何ともほんわかしたムードだ。この(あた)り、母さんの()せる(わざ)と言った所……って娘じゃないってばスルーするところだったよ!


 それにしてもサマエルさん、今大陸共通語(しゃべ)ってたな。大陸の歴史で言えば三〇〇年ほど前から使われ始めた新しい言語なのになんで喋れるんだろう、三〇〇〇年以上眠っていた(はず)なのに不思議(ふしぎ)だ。


「で、師匠は何してるの? 見た所、術式に手を加えているところみたいだけど」

「あぁ、これね、反転(はんてん)術式にしてみました」

「反転術式って……逆の効果を持つ魔術にしたってこと?」


 逆の効果ということは……ああ、力を与えれば村のみんなに吸収した力を返せるのか。


 でもそんな大量の魔力、どこから引っ張ればいいんだろう。


「……ん?」


 なんか師匠がニコニコと僕を見て微笑(ほほえ)んでいる。(いや)な予感。


 まさか、僕の魔力で?


「いやいやいや、いくら僕が聖女の力を(もら)ったからといって、村のみんなに分け与えられるほどの魔力量は無いでしょ……」

「でもでも、リーファちゃん? 自分の限界を知っておくことは重要だとおねーさん思うなー。ここは一つ、やってみるのもいいんじゃない?」


 う、なんかサマエルさんまで参戦(さんせん)してきた。この人にも下山する時に僕の事情を話してあるので、元男の魔術師現在聖女だということは(すで)に知られている。


「そうそう、サマエルさんの言う通りよぉ。戻しすぎないようリミッターもかけてあるから、存分(ぞんぶん)にやっちゃいなさい?」

(いた)れり()くせりで涙が出るよ……反転術式とはいえ、この子から()い取ることは無いんだよね?」

「ええ、その魔族ちゃん……というより、パスが通っていたのは死霊(しりょう)の方ね。そっちへのパスはすべて切られてるから。他の仕掛けはすべて解除済みだし、この術式から死霊の方へ魔力が流れることも無いわよ」


 流石(さすが)は師匠、もう仕掛けを全部見つけてしまったらしい。仕事早いなぁ。(あこが)れる。


 仕方ない、やるか。村のみんなを元に戻さないといけないし、覚悟(かくご)を決めよう。


「師匠、僕が倒れたら家まで運んでよ?」

「リリちゃんのおうちで休ませて貰えばいいじゃない」

「リリは今僕の正体を知らないから、たぶんそれ無理……」


 言っても信じて貰えるか(あや)しいものだ。


 幼馴染(おさななじみ)が聖女はじめました、だなんて。



 長杖(ちょうじょう)の頭を術式へと向け、ふぅ、と一息()く。


 今回の(しゅ)目的は村のみんなへ力を与えることだけれど、自分の限界を確認することも忘れてはいけない。どれだけの力をどれだけの時間与え続ければ限界を(むか)えるのかきちんと理解するためにも、力加減(かげん)重点(じゅうてん)をおいて魔力を流すことにした。


「それじゃ、いくよ!」


 長杖というパスを経由(けいゆ)して、僕の身体から術式の方へ一定量の魔力を流し続け始める。これはなかなかに集中力の()る作業だ。鍛錬(たんれん)に良いかも知れない。



 流し続けること五分ちょい、リミッターが作動したので魔力の供給(きょうきゅう)を止めた。


「終わったみたいねぇ」

「……倒れなかったね」


 マジでか。かなりの量を流したというのに。っていうか村人と兵隊さんたち、森の動物たちを足した総魔力量より僕個人の魔力量の方が高いってことなのか。


「リーファちゃん、まだいけそうな雰囲気(ふんいき)はある?」

「うーん、結構(つら)くはなってきてる。身体も(だる)い」

「じゃあ、一先ず限界に近い所までは見えたみたいね~」


 両手を合わせて喜ぶ師匠。きっと弟子(でし)の成長が見られて(うれ)しいのだろう。


 しかし、身体が怠いけど胸のつかえが取れたような不思議な感覚がある。僕はそこまで魔力量の限界を気にしていたのだろうか。


「アナスタシアさん!」

「あらあら、リリちゃん? 早いお目覚(めざ)めね~」


 僕たちの方へ()け寄ってきた姿があると思えば、幼馴染のハーフエルフ、リリだった。と、気が付けばリリだけでなく、他の村人たちも家々から飛び出してきている。


「あの、アナスタシアさんが助けてくれたんですか!? 身体が弱って倒れていた所に力が戻る感覚があったんです! ありがとうございます!」

「いえいえ~、でも、力を分け与えたのは私じゃないわよ~。お手柄(てがら)はリーファちゃんだから」

「え? リーファ……ちゃん?」


 ちょ、師匠! リリが(きつね)につままれたような顔をしてるじゃない! 先に事情を説明してよ!


「あ、あのさ、リリ。実は僕、リーファなんだ。(わけ)あって女の子の身体になっちゃって……」

「………………」


 あ、ダメだ。説明したけど理解が追い付いていない。っていうかリリ、(たましい)が抜けたような顔をしてる。


「ほうほう、ではそこの女の子が村を救ってくれたのですか!」


 師匠は師匠で村長さんに事情を説明している。その話を(はた)から聞いていた人たちからも、僕の方へと畏敬(いけい)の眼差しが向けられているような……。


「聖女」

「聖女だ」

「聖女だ!」

「え」


 なんか「聖女」の大合唱が始まった。主語が無いけど、たぶんその対象は僕だ。


「ちょ、ちょっと……?」

「良かったねぇ、リーファちゃん。これで名実共に聖女じゃん、やったね!」


 動揺(どうよう)する僕の(かた)に、ポン、と手を()せるサマエルさん。顔を見ると、今にも()き出しそうになっている。絶対面白がってるよこの人! いや悪魔!


 (ほう)けている幼馴染、聖女の大合唱、笑いを(こら)える悪魔、(ほこ)らしげな天使、僕をニコニコ見守る師匠。


 僕はそれらを吹き飛ばすように(さけ)んだ。


「僕を、聖女と、呼ばないでぇぇぇ!」


◆ひとこと


あわれリリちゃん(笑)

それはともかく、反転術式は逆の効果を持つ魔術、神術を行使出来ます。

それならリーファくんも聖女化の奇跡を逆転させれば? と思っても術式の一部しか理解してなかったので無理なのです。残念。


--


次回は本日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] さっそくここでタイトル回収ですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ