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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一二九話「卑怯という言葉の使いどころを教えてあげたい」

 向かってから五分程度(ていど)で、アザゼルはシャムシエルとザアフィエルさんを()れて(もど)って来た。


「リーファ、マスティマが敵軍に居るというのは本当か?」

「はい、シャムシエル。あちらに見える敵軍の、中心に居る大きな地竜(ドラゴス)に乗った隻腕(せきわん)の女性がそうです」


 私がそう指し(しめ)すと、二人は目を()らして西方(せいほう)(のぞ)み、「間違(まちが)い無い」と声を(そろ)えて(つぶや)いた。


「しかもその(となり)には人質(ひとじち)らしき少女が居るな。テオドール殿(どの)、あの少女に心当たりは?」


 シャムシエルも気付いたらしい。そして人質(竜質(りゅうじち)だけど)であることも(さっ)したらしい。


「いえ、御座(ござ)いませんが……サマエル殿の言うことでは、地竜の王女ではないかと」

「……なるほど。ならばこちら側に初戦の地竜が居る以上、慎重(しんちょう)にならなければいけないな」


 うん、このまま竜質を無視(むし)して攻撃を仕掛(しか)ければ、先日仲間に引き入れたダダくんたち地竜三頭の反感(はんかん)を買いかねない。いや、買うだろう。間違い無く。


 そんな風に状況(じょうきょう)を確認していると、馬に乗った敵軍の騎兵(きへい)が一()、こちらへと()けてきた。(おそ)らくは戦いの前の通告(つうこく)に来たのだろう。


 応対(おうたい)したこちらの兵士さんが何やら(ふみ)(あず)かり、この場の責任者(せきにんしゃ)であるテオドールさんの元へと持ってきた。


「ナビール側は何と?」


 私の質問に、テオドールさんは小さく溜息(ためいき)()いた。どうも彼が(あき)れるようなことが書いてあったらしい。


「『(いつわ)りの聖女リーファを引き(わた)せ。さもなくば貴殿(きでん)()は地竜に蹂躙(じゅうりん)されることになろう。なお、我が軍には先日貴殿等が卑怯(ひきょう)にも強奪(ごうだつ)した地竜族の王女を(あず)かっている。抵抗(ていこう)すれば彼女の無事(ぶじ)保証(ほしょう)出来(でき)ない』……だそうです」

「人質をとっているのに卑怯とは、どの口が言えたのか分からんな」

「まぁ、ナビールはいつもこのような感じです」


 (かた)(すく)めるアザゼルとテオドールさん。私も同感です。


「で、どうするん? 出来ることと言ったらリーファちゃんを引き渡すか、人質に(かま)わず応戦(おうせん)するかの二(たく)のようなものだけど」

「……冷徹(れいてつ)に意見を言わせて(いただ)きますと、後者ですが。しかしそれをしてしまうと、エーデルブルート王国の汚点(おてん)にも成りかねませんな」


 サマエルさんの軽口(かるくち)に、(こま)ったように頭を()くテオドールさん。地竜はテオドールさんを(ふく)め、部隊の(みな)さんには本来関係の無い存在(そんざい)ですものね。でもそうだとしても、未来に禍根(かこん)を残すようなことはしたくないよね。


「なら、リーファちゃんを引き渡す?」

「それはもっとあり()ませんな。第一に敵の要求(ようきゅう)は飲んではいけない。次の無茶(むちゃ)な要求が来るだけです」

「なら、抵抗するしか無いよね。とは言え最初からアタシはそのつもりだけど」


 そう言って、サマエルさんはいつも通り何処(どこ)からか魔弓(まきゅう)魔弾の射手(フライシューツ)〉を取り出した。地竜の(はだ)()くかどうかは分からないけど、普通の動物だったら射貫(いぬ)かれたところで身体が(はじ)け飛ぶヤバい弓だ。


「サマエルさん、もしやあの人質を連れている敵将(てきしょう)らしき人物を射貫くおつもりでしょうか?」

「うん、そのとーり」

「マスティマが隣に居ます。恐らくそれを見越(みこ)して隣に(ひか)えているのでしょう。将を射殺(いころ)したら、彼女が王女殿下(でんか)に手を()けかねません」

「まーそこは()けだよね。でも完璧(かんぺき)な手は思いつかないよ。何かを犠牲(ぎせい)にしないと進めない時もあると思うよ、リーファちゃん」


 うう……、でも、誰の代わりに犠牲になるかと言ったら、私の()わりな(わけ)で。それを許容(きょよう)するのは判断(はんだん)に苦しむんだよ……。


「あの、サマエル様、(よろ)しいでしょうか」

「うん? 何? ザアフィエル」


 (めずら)しくザアフィエルさんがサマエルさんに物申(ものもう)している。アザゼルは()(かく)、この力天使(ヴァーチャーズ)様とサマエルさんとの間には(つな)がりは無かったらしいのだ。


「サマエル様は高速で飛翔(ひしょう)することを得意(とくい)としておられると(うかが)いました。それは悪天候(てんこう)でも変わらないと考えて良いでしょうか?」

「うん……? どういう意図(いと)の質問なのか分からないけど、普通に飛べるよ? そんなの()れてるし」


 慣れでどうにかなるのか。師匠なんてそよ風レベルでもバランスを(くず)すって言っていたのに。流石(さすが)は生まれた時から飛べる存在だ。


「なるほど。ならば……私に良い(あん)が御座います」


 そう言ってザアフィエルさんが(かた)った作戦に、私たちは「それだ!」とばかりに食いついたのだった。


◆ひとこと


またも人質をとられて悩まされるリーファちゃん。

有効な手ですからね、仕方ないです。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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