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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一二八話「再びのナビール軍は、秘密兵器を持って来た」

皆様(みなさま)、お待たせいたしました。(おそ)くなりまして(もう)(わけ)御座(ござ)いません」


 サマエルさんと私がすぐに身支度(みじたく)調(ととの)えて西方(せいほう)見渡(みわた)せる(おか)の上へと向かうと、(すで)にテオドールさんを(ふく)め各隊の隊長さん方が(そろ)っていた。流石(さすが)訓練(くんれん)されている軍人だ。招集(しょうしゅう)()かってから集まるまで迅速(じんそく)だね。


「いえ、丁度(ちょうど)今し(がた)集まった所です。早速(さっそく)ですが状況(じょうきょう)の確認をしましょう」


 テオドールさんはそう言って、西の方へと視線(しせん)を向けた。私も(はる)か西方を望むと、そこには確かに敵の一個大隊(だいたい)が左右を前線として大きく広がった鶴翼(かくよく)(じん)展開(てんかい)し、夕日を()に我々の居る東の丘へとゆっくり前進していた。


「まさか夕方に()()って来るとはな。(やつ)らは夜目(よめ)()く訳でもあるまいし、何のつもりなのやら」


 テオドールさんの言葉の通り、魔術の明かりもあるので夜間は攻める側にとって特に都合(つごう)が良い訳では無い。敵の方が斜面(しゃめん)の下側なのだし、視界(しかい)が悪い状態(じょうたい)でこちらが矢を()かければ一方的に戦えることを考えると、こちらにとって都合が良い状況なのだが……。


「そう考えると、何か奥の手を持っているのかも知れませんね。実は夜目が利く状態になっているなど」

「まぁ、奥の手の可能性は十二分にありますが、夜目が利いたからと言ってもこちらが有利なのは変わらないでしょうし…………む? あれは一体……?」


 テオドールさんが(いぶか)しむような声を上げたかと思うと、敵軍の中心辺りを指さした。私もつられてそちらに視線を向ける。


 そこには、一際(ひときわ)大きな地竜(ドラゴス)騎乗(きじょう)した、隻腕(せきわん)の女性……のように見える。(よろい)も着けておらず黒いドレスで、なんとも場違(ばちが)いな姿(すがた)だ。


「あれは……」

「マスティマ、だな」


 目を()らしてもその女性の顔が見えない私に代わり、アザゼルが答えを教えてくれた。ああ、やっぱりあの悪魔が関与(かんよ)していたのか。


「あー、確かにミスティだった(ころ)面影(おもかげ)はあるけど……なんとも変わり()てた容貌(ようぼう)になってるねぇ。(すさ)んでいるというか」


 サマエルさんも見えるらしい。流石は悪魔の上に狩人(かりゅうど)である。


「アザゼル、シャムシエルとザアフィエル様を(むか)えに行って(いただ)けますか?」

承知(しょうち)した」


 私のお願いに一瞬(いっしゅん)で一二枚の黒い(つばさ)を広げたアザゼルは、さっさとシャムシエルたちが(ひか)えている後方(こうほう)へと低空飛行で向かった。マスティマが介入(かいにゅう)していることが分かったので、天使の二人にも動いて(もら)わなければ。


「聖女様、マスティマというのは……例の天使、ですか?」

「はい。先日お話しいたしました、カナン神国(しんこく)の天使です。どうやら彼女がナビール王国に介入していたというのは事実のようですね」

「なんと……。ではこの戦い、天使をも相手にしなければならぬという訳ですか」


 テオドールさんはいつもの(こわ)い表情のまま身震(みぶる)いをしている。天使などとは戦ったことが無いからだろうねぇ。でも、ちょっと訂正(ていせい)しておきたい。


「マスティマは(くらい)こそ天使ですが、堕天(だてん)している身です。悪魔と考えた方が良いですね。強力な(のろ)いの魔術を使いますので、迂闊(うかつ)に近づかぬようお気を付けください」

「呪い、ですか……。しかしそうなると、どう攻略(こうりゃく)したものか。厄介(やっかい)ですな」

「そんなん、矢を射かけちゃえばいいんじゃない? なんならアタシが――」


 (なや)めるテオドールさんに対して西方を(なが)めながら呑気(のんき)調子(ちょうし)でそう言いかけたサマエルさんが、言葉を切った。


「……アイツ()……、そういうことか……」


 何やらサマエルさんが不愉快(ふゆかい)そうな声を上げた。普段(ふだん)はあまり聞かないような、()き捨てるような感じの声だ。


「そういうこと、とは? 何か分かったのですか?」

「リーファちゃん、マスティマの左(どなり)を見てみな」


 左隣、というと、同じように地竜を()る、上等な鎧を着込(きこ)んだ将軍(しょうぐん)らしき男性が居る。


 そして彼は、黒い(なわ)のようなもので(しば)られた女の子を一緒(いっしょ)(くら)へ乗せていた。遠間(とおま)でよく見えないけれども、小柄(こがら)だし一二、三歳くらいだろうか? マスティマの姿と言い、この戦場にそぐわないような存在(そんざい)である。


 そして女の子の頭には左右に一対(いっつい)(つの)のようなもの、そしてお(しり)には太い尻尾(しっぽ)が生えており、人間で無い存在であることが分かる。見たことが無い亜人(あじん)だけど、一体何の種族(しゅぞく)だろう。


「あれは十中八九(じっちゅうはっく)、地竜の王女様だろうね」

「えっ?」


 地竜の王女様って……ダダくんが言ってた、ナビール軍に(さら)われたっていう王女様?


「地竜族の王女殿下ですのに、亜人なのですか?」

(すぐ)れた古竜(エンシェントドラゴン)人化(じんか)の術も使えるんだよ。まぁ、この状況で人化している理由も無いだろうし、たぶん魔術契約(けいやく)か何かで強制(きょうせい)されたりしてるんじゃないかな」


 そ、そんな術が使えたのか、古竜って。私もまだまだ知らないことが多いなぁ……。


 しかしそうなると――


人質(ひとじち)……ならぬ、竜質(りゅうじち)、というわけですか」

「たぶんね」


 つまり「我々に攻撃を仕掛(しか)ければ王女様の命は無いぞ」という意思(いし)表示か。(おそ)らく私たちが地竜を傷つけずに引き入れたことを知り、竜質が有効だと判断(はんだん)したのか。それと同時に、今度は地竜たちが裏切(うらぎ)れないようにしているのだろう。


 さて、そうなると……本当にどうやって戦えばいいのか、私にも分からないな……。


◆ひとこと


シャムシエル「アザゼル殿……頬に手のひらの跡がついているが、どうしたのだ?」

アザゼル「気にしないでくれ……」


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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