第一二七話「アザゼル、お仕置き確定ね」
「つまり、リーファちゃんはこの拠点で待機、ってこと?」
干し肉をがじがじ囓りながら、サマエルさんが私に尋ねる。戦場だしおやつも食べられないのでストレスになっているのだ。私も早く帰りたい。
「はい。そしてわたくしがこの丘に居ることは、公式な発表としてナビール王国に伝えられるそうです」
「なるほど、釣り餌か」
その言葉は使わないようにしていたのに、アザゼルがぶっちゃけてしまった。まぁその通りなんだけど……。
「本音はどうだろうと、ナビール王国の宣戦布告理由はリーファちゃんに起因しているからね。あちらさんとしてはこの情報を無視して他を攻める訳にもいかないし、作戦としては上々なんじゃない? 問題があるとすると……ここに敵の戦力が集中して激戦区になる恐れがあるってことかな」
「そうなのですよね……」
あれよあれよと最前線でお仕事をすることになってしまったなぁ。どうしてこうなった。……いや、私が望んで異動したんだけど……。
「ダダさん、ナビール王国に従わされている地竜はどの程度居そうですか?」
私はすっかり打ち解けた地竜のオスにそう尋ねてみた。もしかしたらそれで今後の展開が分かるかも知れない。
「ドノクライ同胞ガ利用サレテイルノカハ、俺ニモ分カラン。タダ、我等ガ同胞タチハ幼子マデ含メレバ一〇〇程度ハ居ル筈ダ」
「ひゃ、一〇〇ですか……」
うええ、それを全部奇跡で解放するとかやりたくないんだけど……。何時になったら終わるのか先が見えないよう。
さて、丘の第一回防衛戦から早二〇日後の夕方。私は大型テントの中でサマエルさんと二人、お風呂代わりに身体を拭いていた。
「家の温泉が恋しい……」
「言わないでよリーファちゃん……。余計に恋しくなっちゃうじゃん……」
私の呟きに、サマエルさんが口を尖らせてそう文句を垂れる。戦場の兵士というのはこうして心が荒んでいくものなのだなぁ。
「なんかテントの外が騒がしいね」
「え? あ、ホントだ」
狩人であるサマエルさんのように耳が良い訳ではない私でも、外で何やら悶着していることに気付いた。これは……アザゼルの声?
「聖女リーファとサマエルは居るか?」
「い、いけません、アザゼル様!」
え、ちょ、外の女性兵士さんの制止を振り切ってアザゼルが飛び込んできたんですけど!
「ひゃあああああ!」
「お、いい悲鳴だねぇリーファちゃん」
慌てて身体を隠す私と、堂々としながらケラケラ笑うサマエルさん……ってちょっと、それどころじゃ無いでしょ! 私たち裸なんだから!
「で、アザゼル。乙女が裸でイチャイチャしているところに交ぜて貰いに来たん? シャムシエルが聞いたらそっ首刎ねられるよ?」
い、イチャイチャしてた訳じゃないんですけど……。というか何故にそこでシャムシエル?
「す、すまん二人とも! だが緊急の連絡だったのだ!」
「だったら外のフィーネさんに伝えればいいでしょう! 早く出て行ってください! 雷を落としますよ!」
そう喚くと、アザゼルは慌てて外に退散して行った。ま、まったく、後でデリカシーという言葉を一〇〇回清書して貰おうかな……。
「それにしてもリーファちゃん、男に裸を見られて悲鳴を上げるなんて、内面の女性化も進んじゃってるんじゃないの?」
「う、うぅ……、否定できない……」
精神と肉体とは基本的に切り離せないものだからなぁ。女性の身体に精神が引っ張られ始めているのかも知れない……。
「聖女様、サマエル様、失礼いたします。……まったく、アザゼル様にも困ったものですね。不埒にも程があります」
テントの外で見張っていた女性兵士のフィーネさんが、まだテントの側に居るであろうアザゼルの方を睨みつけながら入ってきた。不埒、かぁ。元々男性でありながら女性として暮らしている身としては耳が痛い。
「あの、フィーネさん……。アザゼルは何と言っていましたか?」
アザゼルも制止を振り切って飛び込むくらいだから、相当緊急の用事だったのだろう。まぁ許可無く女性のテントに入ってきたのはお仕置き確定だけど。
「『アイマー村の敵兵が進軍を始めた。見える限りでその数は五〇〇、地竜は一〇頭以上』……とのことです」
……なるほど、確かに緊急の用事だった。平手は一回で許してあげるか。
◆ひとことふたこと
いわゆるラッキースケベ。
ただし主人公がされる側という(笑)
サマエルが語っている通り、リーファちゃんは内面が女の子に近づいてしまっているようですね。
まあ外面を女の子として一年を過ごしているのでそれも原因の一つなのでしょう。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!