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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一二六話「救いたい気持ちだけじゃ成し遂げられないもどかしさを感じてしまった」

 テオドールさんへ(ふみ)を送ってから一時間も()たないうちに、名も無き(おか)での防衛(ぼうえい)戦は、敵の撤退(てったい)により終止符(しゅうしふ)が打たれた。ナビール側は地竜(ドラゴス)(ふく)む多数の捕虜(ほりょ)提供(ていきょう)してしまった(ため)、大損害(そんがい)だっただろうね。


 この場は戦場ではなくなった為、後方(こうほう)の安全地帯に(ひか)えていたシャムシエルとザアフィエルさんもやってきた。「空から見下(みお)ろしていればいいんじゃないの?」と思ったんだけど、天使が控えていることが知られると相手方へのプレッシャーとなってしまうのでカナン神国(しんこく)からの干渉(かんしょう)と言えなくも無いのだそうな。なんとも(むずか)しいことだ。


「お(つか)れ様だな、リーファ。何も手伝(てつだ)いが出来(でき)(もう)(わけ)ない」

「いえ、それは仕方(しかた)の無いことですので気にしておりませんよ、シャムシエル。(とら)えた兵や地竜に少しだけ話を聞きましたが、今のところマスティマに関する情報はありませんね」


 私が二人にそう(つた)えると、ザアフィエルさんは「そうですか……」と少し思案(しあん)顔を見せた。


(いち)兵卒(へいそつ)単位では知られていない可能性は高いですね。この時点で関連(かんれん)が無いと判断(はんだん)するのは性急(せいきゅう)でしょう。引き続き我々も従軍(じゅうぐん)させて(いただ)きます」

「はい、分かりました。この部隊の責任者(せきにんしゃ)へはそのようにお伝えしておきます」


 流石(さすが)監査(かんさ)役。あくまで客観的(きゃっかんてき)視点(してん)状況(じょうきょう)判断(はんだん)しているなぁ。


 ちなみに地竜については捕虜共々(ともども)丁重(ていちょう)(あつか)って(もら)うよう取り(はか)らっている。心配していた彼らの分の糧食(りょうしょく)は、ここから西のディースブルクから送って頂けるそうな。流石は王国西部の食料庫(しょくりょうこ)と言われる町だ。


「聖女様、お疲れ様でした。頂きました文への返信が出来ず申し訳御座(ござ)いません」


 情報のやり取りをしていた私たちの元へ、申し訳なさそうなテオドールさんがやってきた。別に気にしてないのに。


(かま)いませんよ。逆に、わたくしの方こそ戦闘中に判断の難しいお話をお送りしてしまい申し訳御座いませんでした」

「いえ、実は情報自体は(すで)に王都の方へ送っているのですが……向こうからは聖女様に直接お話を()きたいとの事でして、お手数ですが通信隊の方へご足労(そくろう)(ねが)えませんでしょうか?」

「……わたくしに直接、ですか? はい、承知(しょうち)いたしました」


 別に私から聞いても情報は同じような気もするけど……。まぁいいや、言われた通りにしておこう。




「取り()えず初戦は上手くいったようだな、リーファよ」

「……わたくしをご所望(しょもう)なのは、陛下(へいか)でいらっしゃいましたか」


 通信用魔道具(まどうぐ)の向こう側から聞こえてきた馴染(なじ)み深い声に、私は少しだけ(あき)れの()じった声を出してしまった。そりゃね、軍を越えて国の最高司令官(しれいかん)でもあるし、王都から直接通信してもおかしくは無いんだけど。


「まぁそのように呆れるでない。奇跡の力により地竜をナビールから解放(かいほう)したこと、率直(そっちょく)評価(ひょうか)しているぞ。グラーツ部隊長もご苦労だったな」

「は……はっ! 勿体(もったい)無きお言葉でございます!」


 あ、テオドールさんが(ちょう)緊張(きんちょう)してる。緊張のあまりただでさえ(こわ)い顔がもっと怖くなってる。子供が見たら泣いちゃいそう。


「さてリーファよ、早速(さっそく)だがナビールに(とら)われている地竜の王女を救いたいという件について話をさせて(もら)いたいが……正直(しょうじき)(きび)しい話だな」

「…………そう、ですか」


 まあ、そんな気はしていた。戦時(せんじ)下における兵というのは戦略(せんりゃく)単位、つまり隊や部隊単位で動いているのだ。直接エーデルブルート王国に関係がある訳ではない目的の為にそれらを()()むことは出来ないのだろう。


「流石に直接関わりの無い地竜を救う為に作戦行動を()る訳にもいかんのだ。確かに地竜の王女を解放出来れば、ナビールから我が国へ()()余力(よりょく)はもう無くなってしまうのだが、救い出すということは我()がナビール王国に攻め入らなければならん。向こうには対空魔術機雷(きらい)設置(せっち)されていないため、翼竜(ワイバーン)()竜騎士(りゅうきし)までも相手にしなければならないからな。リスクが高すぎる」

「……なるほど、その点については失念(しつねん)しておりました」

其方(そなた)は戦略について門外漢(もんがいかん)の魔術師だからな。仕方あるまい」


 うーん、そうなると地竜は助けられないんだろうか。ちょっと可哀想(かわいそう)だなぁ。


「まぁ、いきなり地竜の王女を(すく)い出すことは難しいと思うが、少しずつ地竜を解放して相手の戦力を()いでいく方法なら、ある」

「………………」


 含みのある陛下の言葉に思わず沈黙(ちんもく)してしまう私。


 うん、聴かなくても分かるのですけど、その方法。


◆ひとこと


リーファちゃんも一時的とは言え一人の軍人、しかも敵からしてみれば標的です。

大局に影響を与えるような行動は許されないのですね。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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