第一二五話「だって地竜がかわいそうなんだもん」
結界内で地竜たちを従えていた竜騎士を含む敵兵をテオドールさんが直々に率いる第一隊で捕えた後、私たちは地竜たちと共に丘の方へと下がった。「地竜を連れて陣地へ下がるのは危険ではないのか?」という意見もあったけれども、あのままの状態でサマエルさんの結界が解かれると私たちは敵の真っ只中になってしまうし、地竜たちにとって私は「雷を落とす怖い奴」というイメージになっているようなので、まぁ大丈夫でしょう。
「地竜を大人しくさせ、敵兵も捕えられたとは……。感服いたしました、聖女様」
「いえ、万事上手く行き良かったです。わたくしはこのまま地竜たちにお話しを伺おうと思いますが……」
「なるほど、承知しました。私は残った敵に対しての指揮があります故、何かありましたら伝令を寄越してください」
テオドールさんはそう言って近くの兵士さんに呼びかけた後、副官さんを連れて前線へと戻って行ってしまった。呼びかけられた兵士さんは残っているので、この人を伝令として寄越せという事なんだろう。
「さて、ダダさんと仰いましたか? わたくしの名前はリーファです。色々とお話を伺いたいのですが、宜しいですか?」
「アア、分カッタ。俺ニ分カル事ナラ答エヨウ」
三頭のリーダーらしきダダくんに問いかけると、契約を解いてあげたお陰か割と好意的な答えが返ってきた。俺……ってことはオスなのかな? いや、まぁいいんだけど。
何故地竜たちがナビール王国に従わされているのかダダくんにお話を伺ってみると、ナビールが色々と人道に反したことをやらかしていることが分かった。
「つまり、元々ナビール王国には不干渉だった貴方がたの王のご息女が、ナビール軍に人質……ならぬ竜質として囚われている、ということですか?」
「ソウダ、誘拐サレタペル様ノ身ヲ案ズルナラバ、忠実ナ僕トナルヨウ魔術ヲ施サレタノダ」
「そうですか……」
私が古竜語を知らない他のみんなに通訳をしてあげると、サマエルさんとアザゼルが何とも言えない表情で同時に溜息を吐いた。
「そりゃー……何というか、やってることが下衆だねぇ、ナビール軍」
「まさに悪魔の所業、だな」
こういった下衆の行いを昔は「悪魔の所業」などと言ったのだけれども、悪魔本人に言われてしまうナビール軍よ。ちなみにこの言葉、今は悪魔に対する差別語なのでエーデルブルート王国ではあまり使われていない。今の話には関係無いけど。
「聖女リーファ、今そのペルという地竜の王女が何時囚われたのかなど幾つか尋ねて貰っても良いか?」
「はい、分かりました」
アザゼルはダダくんが分かる情報は全部集めておきたいらしい。そのペル様が連れ去られたのはいつだったか、何故連れ去られたのか、地竜側は警戒していなかったのか、等このダダくんでも分かりそうな質問を次々繰り出してみる。
「……なるほどな。元々は不干渉とは言え友好的な関係だったナビール王国にペルという地竜の王女が連れ去られたのは最近。つまり、エーデルブルート攻略に翼竜が使えなくなったタイミングで代わりに地竜を使おうと考えてそういった行動に出たのだな」
「……そういうことですか」
翼竜が戦力の中心であるナビール王国の軍は、エーデルブルート王国の対空魔術機雷によってほぼ無力化されてしまっている。そこで、地上戦でも使えそうな地竜を有効活用しようとそんな所業に手を染めたという訳か。
「でもさー、アタシがナビール軍のエラい人だったら、一度手に入れた地竜の戦力は手放さないと思う。奴ら、王女様を解放する気は無いだろうねー」
「同感だな。第一、解放した瞬間に地竜が敵対関係となるだろうしな」
でしょうね。それでも王女様に危害が及ばないように、地竜たちは彼らナビール軍の言いなりとなっていたのだろう。
そこまで考えて、私はテオドールさんが伝令として側に置いてくれた兵士さんの方に向き直った。
「ライナー様、この陣地に王都への通信用魔道具は用意されているのでしょうか?」
「通信用魔道具ですか? はい、御座います」
やっぱりあるか。だったらやることは一つだ。地竜たちの事情について王都に連絡を入れなければ。
私は地竜から聴いた情報と、それを王都へ連絡したいという旨、あともう一つ大事なことを急いで文として認めてから、テオドールさんに送って貰うよう伝令のライナーさんに手渡した。私は中佐よりも偉い特務少将とは言え、ここでの責任者はテオドールさんだからね。勝手に王都へ連絡は出来ない。
伝令のライナーさんは敬礼した後、前線の方へと走って行った。見た感じテオドールさんは情報のやりとりについて非常に厳しいようなので、すぐに返信をくれるだろう。
「リーファちゃん、部隊長さんに何送ったの?」
「先程伺った内容と、それを王都へ報告して欲しいという旨の連絡です。あとは――地竜の王女様を救い出すことを、王都へ進言することについて、ですね」
私が文に認めた内容をサマエルさんとアザゼルに説明すると、二人は「やっぱりそうか」といった調子で肩を竦めた。
「やれやれ、ウチの姫様も大概お人好しだな」
「ホントにねー」
な、なんだよう、二人とも……。
◆ひとこと
「悪魔の所業」という言葉はリーファちゃん(?)が一度使ってたり。
第八二話のサブタイですね。
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