第一二三話「古竜も神の奇跡の前では無力なのだ」
※リーファちゃんの一人称に戻ります。
「部隊長、緊急の報告です。奴らが動き出しました」
アイマー村から東にある丘の拠点で私たちが今後の動きについて会議をしているところに、慌てた様子の兵士さんが飛び込んできた。動き出したって……ナビール軍が? 丁度今、「向こうも援軍が届くまでは行動すまい」という予測を立てていたところなんだけれど……。
「動き出した、とは? 報告は正確にしろ」
強面のテオドールさんがギロリと兵士さんを睨むと、彼は「申し訳ありません!」と慌てて直立し、詳細を語った。はっきり言ってコワイ。
まぁ、詳細は簡単だ。アイマー村を攻め落としたナビール軍が東、つまり我々の居る方向へと進軍を始めたということ。
けれども、その兵数は初戦の先鋒隊だけ。つまり援軍が到着してから動き出したという訳ではないらしい。
「これは……予想の斜め上を行ってくれたな。いくら地竜を駆っているとは言え、あの兵数でなんとかなると思っているのか? こちらには魔術師隊が居るのだぞ。それに……」
テオドールさんはちらりと私の方を見る。うん、分かっております。被害を極小にするには私が出張らないといけない。
「聖女様、早速先程打ち合わせた通りに兵を展開したいと思いますが」
「はい、そのようにお願いいたします」
「承知しました。では各隊の隊長は予定通りに動け。我々第一隊も聖女様を守りながら行動する」
テオドールさんの号令で、各隊の隊長さんたちが散っていく。
「サマエルさん、アザゼルも、打ち合わせ通りにお願いします」
「あいよー」
「承知した」
私が頭を下げると、サマエルさんはいつも通り緊張感の無い返事、アザゼルは……だから頭をポンポンするのはやめい。
……さて、ここからが正念場だ。上手くやらないと。
護衛のアザゼルと二人で丘の上から見下ろすと、敵部隊は先頭の地竜隊を頂点とする三角形の陣形を採り、結構なスピードでこちらへ進軍していた。あれは魚鱗の陣形って言うんだっけ? 確か完全に前方を意識した陣形だったと思う。
「先頭は地竜か。まぁ、堅固な地竜を後ろへ下げても仕方ないだろうしな。予想通りといったところか」
「はい、これで作戦通りにいけそうです」
アザゼルにそう返してから、私はゆっくりと長杖を持ち上げ、詠唱に入る。と言っても、テオドールさんたちに話した広範囲殲滅の奇跡を使う訳ではない。あんなものを使って多くの命を奪ったら私の寝覚めが悪くなる。
「主よ、迷える子羊に聖なる示しを与え給え――〈神の雷〉!」
奇跡の術式が完成すると、その瞬間、轟音と共に先頭の地竜から十数メートルの地点で巨大な雷が落ちた。
予想通り先頭の地竜隊がたたらを踏んで止まり、彼らの後ろの兵たちが混乱して陣形が乱れた。よしよし。
私が合図代わりに天を仰ぐと、上空のサマエルさんが心得たとばかりに頷き、術式の展開を始めた。
「さあさ小鳥さんたち、鳥籠にお入んなさい、〈閉鎖空間〉!」
サマエルさんの結界魔術が発動し、敵側先頭の地竜隊三騎と数名の兵士、そして私たちと十数名の兵士が閉鎖環境に閉じ込められた。おー、突如出来た見えない壁に阻まれて相手さん方が滅茶苦茶混乱している。いいね。
「さて、アザゼル。地竜の所へ向かいますので、引き続き護衛をお願いいたします」
「無論だ。お前は命に代えても守ってやる」
真顔で返すアザゼル。うーん格好良い。私が本当に女の子だったら惚れている。女の子じゃないからそれは無いんだけど。
「では、第一隊の皆様も手筈通りにお願いいたします。どうか油断無きよう」
私は後ろに控える弓兵の皆さんにそう伝えると、アザゼルと共に丘の下側へと向かったのだった。
◆ひとこと
いくら堅固な地竜とはいえ、雷を食らったら真っ黒焦げなのです。
防御に自信があるからこそ強大な力に恐怖することを見越して、リーファちゃんは〈神の雷〉を使ったのですね。
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