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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一二〇話「上空の竜は居ないけれども」

地竜(ドラゴス)ですか? 本当に?」

「……はい、聖女様。伝令(でんれい)から受け取った内容には、そう書かれておりました。『州南西部にて地上からナビールの部隊が越境(えっきょう)。当部隊は翼竜(ワイバーン)ではなく地竜を()っており、シュターミッツ州第一部隊がこれに接敵(せってき)防衛(ぼうえい)中、状況(じょうきょう)劣勢(れっせい)』と」


 信じられない。地竜と言えば飛ぶことこそは出来(でき)ないものの、非常に堅固(けんご)な身体を持つ古竜(エンシェントドラゴン)の一種だ。


 そして古竜であるが(ゆえ)気位(きぐらい)も高く、人間を乗せて戦争に参加するなどということはあり()ない話なのだ。


「地竜かー。あれは並の武器じゃ傷も付けられないだろうねぇ。アタシは毒矢で瞳を(ねら)うけどさ」


 うん、そんな(はな)(わざ)が出来るのはサマエルさんだけだからね? 普通は大砲(たいほう)妨害(ぼうがい)魔術の使える魔術師でも用意しなければ対抗(たいこう)は難しいでしょうよ。


「それで、アロイス様。この隊としては如何(いかが)なさるのでしょうか?」

「それについてなのですが……この先にシュターミッツ州の要衝(ようしょう)でもある、ザイツの町があることはご存知(ぞんじ)でしょうか?」

「はい、(ぞん)じております」


 ザイツは東西南北の街道が集まる我が国でも有数の大きな町だ。昔シュターミッツ州が公国だった(ころ)の首都でもある。肥沃(ひよく)なシュターミッツ州で()れる作物は、この町と各街道を通じてエーデルブルート王国西部の食糧(しょくりょう)(ささ)えているのだ。


「そのザイツの町で、兵の再編成(へんせい)を行います。そして……大変(もう)(わけ)御座(ござ)いませんが、聖女様には別働隊(べつどうたい)として我が隊の目的地であるディースブルクの町へ急ぎ向かって(いただ)くことになりました」

「………………」


 アロイスさんは王都からの命を(つた)えただけなのだろうけど、私が沈黙(ちんもく)してしまったことに気まずさを(おぼ)えたのか、瞳を()らしてしまった。


 意味が分かった。最前線ではないとは言え、私が急ぎ向かう理由。それは(おそ)らく兵の鼓舞(こぶ)(ため)だけでは無いだろう。


 恐らく、対地竜の為の後詰(ごづ)めなのだ。何しろまともに兵がやりあっても勝てない相手ならば、聖女の奇跡で対抗(たいこう)してしまえば良い――と、恐らく(きゅう)王弟(おうてい)()面々(めんめん)声高(こわだか)(さけ)んだとかそんなところか。最前線へと送られないのは、恐らくだけど陛下(へいか)のお力添(ちからぞ)えあってのことだろう。


「……王都はわたくしの力を、当てにされているのですね」

「い、いえ、しかし! これは必ずしも陛下の御意志(ごいし)という訳ではなく――」


 私が嘆息(たんそく)すると、(あわ)ててアロイスさんが陛下のフォローに入った。うん、分かってます。陛下の御意志じゃないことは分かってるんです。


「それについては理解しております、アロイス様。お心(づか)感謝(かんしゃ)いたします。……はぁ、当初は最前線に出ないというお話でしたが、現実になりそうですね」


 なんだかなし(くず)し的に戦争へ参加させられているなぁ。一回こういった実績(じっせき)を作ってしまうと、今後も戦争があった時に呼ばれかねない。神国(しんこく)を通じてその(あた)りはしっかりと根回(ねまわ)しをしておく必要があるな。


 でも、今回ばかりは仕方(しかた)の無い話かも知れない。シュターミッツ州の食料庫(しょくりょうこ)はシュパン村にも多大(ただい)影響(えいきょう)(およ)ぼしているのだ。私個人としても看過(かんか)は出来ない。だったら――


「アロイス様、お(たず)ねしますが……ディースブルクと最前線との間に、東側から見下(みお)ろせる(おか)のような場所は御座いますか?」

「丘のような場所……ですか? はい、防衛拠点(きょてん)として一箇所(かしょ)御座います。……まさか?」


 私の言わんとしていることが理解出来たのだろう。アロイスさんの顔色が変わった。


「はい。そこまで後退(こうたい)して頂ければわたくしが地竜を(むか)()ちます。どうかそのように進言(しんげん)をお願いいたします」


 シュターミッツ州中央西部のディースブルクを占領(せんりょう)されると、肥沃な土地を(うば)われてしまう。ならばそこで食い止めなければならないのだ。


 それに私は(つたな)いけれども古竜(こりゅう)語を話せる。何故(なにゆえ)に地竜がナビール王国の味方をしているのか、それを(たず)ねることは出来るだろう。


「……サマエルさん、アザゼル。勝手に決めてしまい申し訳御座いません」


 私はそう言って護衛(ごえい)の二人に頭を下げた。私が戦うということは、自然、この二人にもとてつもない負担(ふたん)()いてしまうということなのだ。


「いいよ、リーファちゃん。たぶん、村や家族のためにもそこで止めないとって判断(はんだん)したんだよね?」

(かま)わん。俺はお前を守るだけだ。それは変わらん」


 うう、二人とも格好(かっこう)良いなぁ。こうなりたいなぁ。でもアザゼル、私の頭をポンポンするのやめてくれない? 中身が男の身としてはちょっと悲しくなってくるんです。言えないけど。




 そうして翌日(よくじつ)夕方にザイツへ到着(とうちゃく)した我々は王都への進言が(みと)められ、すぐに新しく騎馬(きば)小隊として再編成されて、(さら)にその翌日にはディースブルク方面へと急行することになったのだった。


◆ひとことふたこと


ドラゴス、というのはオリジナルの竜です。

どんな竜なのかはそのうちリーファちゃんが解説してくれるでしょう。


アザゼルに頭をポンポンされてリーファちゃんは戸惑っているようです。

背後でサマエルが笑いを堪えていたとかなんとか。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

みなさま良いお年を!

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