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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第一章「聖女はじめました」
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第一二話「神様にちょっと力をお借りしました」

「……へぇ……」


 またまたいつの間にか近寄っていたサマエルさんが、胸に矢を()やして倒れたまま動かないシャムシエルを(のぞ)き込んだ後、感心したような()みを僕へと向けた。僕はというと無茶な術式の複数展開で頭がふらつき倒れてしまいそうだったけど、どうにか()()っていた。


「合格ですか?」

「そうだねー、アタシの負けだわ。どんな神術(しんじゅつ)も魔術も無視する必中の矢だったのに、まさかこんな手で(はじ)かれるなんてね」


 サマエルさんはおどけたように肩を(すく)めると、「ほれー、起きろー」とシャムシエルのお尻を蹴飛(けと)ばした。


「う、うーん……? ここは楽園(エデン)ですか……?」

「いや寝惚(ねぼ)けてんじゃないよ。気を失ってただけだっつーの。あと、そこに矢が刺さったままだと危ないよ?」

「え……? わわっ!」


 視線を落としたシャムシエルが(おどろ)き、(おのれ)胸甲(きょうこう)に突き刺さっている矢を慌てて引き抜いた。(やじり)先端(せんたん)は大きく(つぶ)れている。七本目の矢は強大な力で彼女の心臓を目指(めざ)したのだろうけれど、()たして身体に到達(とうたつ)することは無かったのだ。


「ど、どうして生きて……? 確か防壁(ぼうへき)はすべてすり抜けた(はず)では……?」

「確かに、サマエルさんの奥の手で僕たちが用意した神術、魔術の防壁はすべて意味を()さなかった。そういう(たぐい)の魔術だったし」

「でもこの子、あろうことか神様に直接術式(じゅつしき)のパスを(つな)いで、奇跡でアンタを守ったんよ。完全にアタシの負け」

「神に……直接……? 奇跡……?」


 種明(たねあ)かしを聞いて呆然(ぼうぜん)(つぶや)くシャムシエル。聖女の力こそあるものの、人の子が奇跡を起こしたのだからそんな顔にもなるというものだろう。


 聖女にされた時に一部術式を把握(はあく)していたため、奇跡の術式は構造(こうぞう)的に難しいものではないことは分かっていた。(よう)は術式に僕の神気(しんき)を繋ぐのではなく神の力を借りれば良いので、天におわす神に向けて入力元のパスを()ばせば良いのだ。あ、ホントに上に向かって延ばすワケじゃないけど。


 もっとも僕が出来る理由は、術式を理解できる魔術師である上に一度奇跡を身に受けたからなのだけれども。他の魔術師に「やってみて」って言ってもたぶん何処(どこ)にパスを延ばせばいいのか分からないので無理だろう。


「リーファは奇跡まで行使出来るようになったのか……。人の子としては規格(きかく)外の存在になってしまったな。……今回は助けられたが、あまり行使してはならんぞ」

「うん、強すぎる力は僕も使いどころを考えるけどさ、それ以外に何か問題が?」

「神の力という純粋(じゅんすい)な神気を受けてしまうことで、恐らくその身が聖霊(せいれい)に近づいていくだろうからな」


 え、えぇぇ……。


 人間()めるの嫌だし、よっぽどのことが無い(かぎ)り使わないでおこう……。


「それに、強大な力だ。人前で使えば利用される恐れがあるのは分かるだろう?」

「……うん、それは僕も分かるよ。気を付ける」


 何しろ天使でも神の代理としてしか行使出来ない力だ。こんな力があると分かれば僕を利用してくる(やから)が居ない訳がないだろう。


「……さて、じゃあ約束通りサマエルさんにお話を聞きたいですけど、場所を(うつ)しましょうか。うちに招待(しょうたい)しますよ」

「おー、いいね。三〇〇〇年以上()ってどのくらい世界が変わったのか、教えてちょーだいよ」

「あ、待ってください、この子を連れて行かないと」


 シャムシエルが気を失ったままの魔族の子を(かか)えてくれるようだ。魔族に偏見(へんけん)を持っているのだろうけど、きちんとそれと向き合う姿勢(しせい)()められるべきことだと思う。


 と、サマエルさんが封印のあった場所にしゃがんでごそごそ何かをしている。何だろう?


「サマエルさん? 何をしてるんですか?」

「んー? ないしょ。まだね」

「魔術組み上げてますよね? 術式見ていいです?」

「だーめ」


 うーん、けちんぼだ。


 まあ、今のところはこの人、いや悪魔に認められているので、僕たちの害となることはしていないだろう、たぶん。



「で、神様とパス繋いだ時、何か言ってた?」

「ええ、『一度だけじゃぞー?』って言ってました」

「あっはっは! 何ソレ! ちょーウケる!」

「ちょっと二人とも! 神に対して不敬(ふけい)ですよ!」

 わいのわいのと(さわ)ぎながら、僕たちは下山(げざん)を始めたのだった。


◆ひとこと


前回の「グラティア」のように、リーファくんの使う奇跡は魔術、神術との差別化として古典ラテン語かヘブライ語が使われます。

古典ラテン語が載ってるサイトがあってヨカタヨ。


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次回は明日20時半頃に更新予定です!

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