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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一一九話「サマエルさんはお怒りです」

 さて、力天使(ヴァーチャーズ)ザアフィエルさんが加わったアロイスさん(ひき)いる一個大隊(だいたい)は、大きなトラブルも無く西ケルステン山地北部の谷を西進(せいしん)し、三日後にはシュターミッツ州に入ることが出来た。輜重隊(しちょうたい)を守りながらの行軍であるため進軍(しんぐん)(おそ)めだけれども、ナビール王国の主目標である私が前線へ向かっているという事実が重要なのだろう。


「っていうかさ、相手は竜騎士(りゅうきし)なんでしょ? シュターミッツ州を飛び()えてリーファちゃんを(ねら)ってくるって可能性はあるんじゃないの?」


 細かいところによく気がつくサマエルさんが地上に降りてアロイスさんに質問している。確かにその可能性はあるよねぇ。だとすればシュパン村の方が心配だ。


「ご懸念(けねん)は全くもってその通りだと(ぞん)じます。しかしながら、有事(ゆうじ)のシュターミッツ州および南北の州では上空のあちこちに対空魔術機雷(きらい)展開(てんかい)されるのです。迂闊(うかつ)に入った竜騎士は風の(やいば)で切り(きざ)まれることとなります」


 そう言えば、そんな話を聞いたことあるなぁ。空に対してあまりにも対抗(たいこう)手段(しゅだん)(とぼ)しい我が国が、航空(こうくう)戦力を(ゆう)するナビール向けにそんな魔道具(まどうぐ)(つく)ったという話。本当だったのか。


「うわ! それ早く言ってよ! 危ないじゃん!」


 背筋(せすじ)をぶるりと(ふる)わせるサマエルさん。そりゃね、上空を警戒(けいかい)する担当(たんとう)だから他人事(ひとごと)じゃないもんね。アロイスさんが(あわ)てて平謝(ひらあやま)りしてる。魔術機雷の類(たぐい)その特性(とくせい)から巧妙(こうみょう)隠蔽(いんぺい)魔術も()けられているから、たぶんサマエルさんでもぱっとじゃ見つけにくいんだよねぇ。


「も、(もう)(わけ)御座(ござ)いません! ですので降りて(いただ)きました! どの(あた)りが機雷の範囲(はんい)かは機密(きみつ)事項(じこう)なので申し上げられませんが、もし領内(りょうない)で敵軍と遭遇(そうぐう)した場合はその地点が問題無いかどうかをお教えいたしますので!」

(たの)むよーホントもー」


 まあ、サマエルさんの気持ちは分かる。知らずにサマエルさんのスピードで飛んでいたら、一瞬(いっしゅん)(いく)つもの魔術機雷に掛かって全身ズタズタになっちゃうだろうしね。


「サマエルさん、アロイス様にも人前(ひとまえ)ではっきりとお(つた)出来(でき)ることとそうでないことがあるのだと思います。あまり()めないであげてください」

「わかったよー、リーファちゃんの顔に(めん)じて(ゆる)したげるー」


 ぶー()れながら引き下がるサマエルさんに、(むね)()で下ろしているアロイスさん。やれやれ、世話の焼けること。


「ちなみに、ナビール王国も魔術機雷の存在は知ってるの?」

「はい、牽制(けんせい)の意味も(ふく)めて意図的(いとてき)に情報を流しております。魔術機雷が存在することについては()わば我が国からナビール王国への不信(ふしん)(あらわ)れでもあるのですが。もっとも()の国から我が国へは難民(なんみん)が多数流出(りゅうしゅつ)しているため、事実、我が国からの印象(いんしょう)は良くありません」

「まー、難民を(よそお)ったスパイの可能性もあるだろうしねー」

実際(じっさい)にそういった事件もありました。それ以来、国境(こっきょう)警備(けいび)はより一層(いっそう)厳重(げんじゅう)になり――」


 そんな風にアロイスさんがサマエルさんへ説明をしていると、三()の兵が前方から近づいてきた。真ん中は(よろい)微妙(びみょう)に違うし、あれはシュターミッツ州の部隊の兵かな?


「お話し中、失礼いたします! 私はシュターミッツ州第六部隊より伝令(でんれい)として参りました、ユングであります! 階級(かいきゅう)曹長(そうちょう)であります!」

「ケルステン州第三部隊隊長のアロイス・ハイドリヒ・フォン・リーフェンシュタール、階級は中佐(ちゅうさ)だ。伝令の内容を(もら)えるか」


 うーん、流石(さすが)アロイスさん。仕事の時はキリッとしているね。先程までサマエルさんに対して狼狽(うろた)えてた人と同一人物とは思えない。


「はっ! こちらになります!」


 伝令さんが(ふところ)から取り出した(ふみ)を読んだアロイスさんは「……なるほど」と(つぶや)いた。他の部下の前でもあるため、流石に内容を朗読(ろうどく)してくれる(わけ)ではないらしい。


「伝令、ご苦労(くろう)だった。後方(こうほう)へは我が隊から伝令を出すので、貴官(きかん)はザイツまで(もど)られよ」

「はっ! 感謝(かんしゃ)いたします!」


 アロイスさんの(はか)らいで、伝令さんはすぐに来た道を引き返して行ってしまった。大変だなぁ。


 ザイツはこの先にある大きな町だ。恐らく王都からザイツへの魔術通信による命令を受けて後方部隊へ伝令を送った、というところかな。


「……少々、状況(じょうきょう)が変わりました」


 アロイスさんが苦々(にがにが)しい表情で(つぶや)いた。その顔から(さっ)するに、伝えられた内容はあまり良いものではないというのが想像出来る。


「状況……ですか?」

「はい。……(くわ)しい話は今日の野営(やえい)時にお伝えすることになります」


 そう言って、アロイスさんは急ぎ伝令の用意を始めた。相当(そうとう)悪い状況なのだな、これは。


 そして夕方、野営時にアロイスさんから伝えられたことは、私たちを(おどろ)かせるのには十分な内容であった。


◆ひとこと


サマエルはそれこそリニア並のスピードで飛ぶので、空中に罠を張られると弱いのです。

ベリアルの待ち伏せでもそれで引っ掛かったとかなんとか。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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