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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一一八話「また生真面目そうなのが一人やって来た」

「リーファ、ここに居たか。……顔が赤いが、どうかしたのか?」


 ()ずかしさにアザゼルを(にら)み付けていると、シャムシエルが一人の天使を連れ、上空から()()りて来た。女性だけど私よりも一〇センチほど高い長身ですらっとした身体を持ち、(ひたい)(おお)(かぶと)と全身の(よろい)萌葱色(もえぎいろ)統一(とういつ)されている。紅玉(ルビー)色の瞳と背中(せなか)できっちりと(まと)められた黄金色(こがねいろ)の髪からは神経質(しんけいしつ)そうな(めん)垣間(かいま)見える。


「い、いえ、何でもありません、シャムシエル。……そちらの方は?」


 私がそう(たず)ねた瞬間(しゅんかん)、萌葱色の鎧を着込(きこ)んだ天使は背筋(せすじ)()ばし、左手を(こし)の後ろ、右手を(むね)の前に持ってきて直立(ちょくりつ)した。


「お初にお目に掛かります、奇跡を(あやつ)神子(みこ)リーファよ。私は力天使(ヴァーチャーズ)ザアフィエル。これより能天使(パワーズ)シャムシエルと(とも)貴女(あなた)と行動し、犯罪者マスティマの確保(かくほ)に当たらせて(いただ)きます」


 ああ、例の監査(かんさ)役か。うーむ、シャムシエルに()()けて生真面目(きまじめ)そうな天使だな。


「力天使ザアフィエル様ですね。初めまして、リーファです。こちらは悪魔アザゼル。今回は悪魔サマエルと共にわたくしの護衛(ごえい)()いて頂いております。よろしくお願いいたしますね」


 私がついでにアザゼルを紹介(しょうかい)すると、ザアフィエルさんは神経質そうな顔を少しだけ(ゆる)めて見せた。


「ザアフィエルか、久しぶりだな。よろしく(たの)む」

「アザゼル様、お久しゅうございます。貴方(あなた)堕天使(だてんし)となられる前はお世話になりました」


 おや、二人は知り合いだったのか。まあ元はアザゼルも天使だったのだしそうであってもおかしくはないか。


「生真面目そうな所は変わらんな、ザアフィエル。お前は今回あくまでもマスティマを()らえることだけが目標(もくぎょう)であり、戦争には加わらんと聞いているが」

「はい、その通りです。私と能天使シャムシエルは二国間の戦いには加わりません。ですが、マスティマの関与(かんよ)(みと)められた時にはその(かぎ)りではありません。もしナビール王国が彼女を保護(ほご)しているのであれば、私たちも戦闘に加わりましょう」

(あらし)(あやつ)るお前ならば、翼竜(ワイバーン)()る騎士にとっては脅威(きょうい)だろうな」


 ザアフィエルさんは嵐を(あつか)う天使なのか。だとすれば確かに、航空(こうくう)戦力にとってはこの上なく厄介(やっかい)な相手だろうな。


「話は変わりますが、聖女リーファ、御前(ごぜん)の天使サリエル様より貴女に伝言(でんごん)御座(ござ)います」

「サリエル様……ですか?」


 ザアフィエルさんが言う通り七人居る御前の天使のうちの一人で、確かカナン軍においてはサンダルフォン様と共に(そう)司令官(しれいかん)であるメタトロン様の下に就く副司令……だったっけ?


「はい。内容をお(つた)えいたします。『今回の戦争において力天使マスティマと遭遇(そうぐう)した場合、彼女については可能な限り力天使ザアフィエルおよび能天使シャムシエルの手に(まか)せ、捕縛を第一にして頂きたい』……とのことです」

「それは……中々に(むずか)しいですね」


 マスティマは天使だけれども、(のろ)いを扱う悪魔でもある。はっきり言わせて(もら)うならば捕縛ではなく、彼女を抹殺(まっさつ)しなくてはならない。


 と言うのも、マスティマが誰かに呪いを掛けている場合、彼女が意識して解呪(かいじゅ)するか死亡しない(かぎ)りそれが()ける事は無いからだ。そしてあの狂気(きょうき)(はら)む天使が、(たと)拷問(ごうもん)されたとしても前者を行う(わけ)が無いのだ。だから彼女が死亡するまでは呪いを受けた者が苦しむこととなってしまう。


 私がそのことをザアフィエルさんに伝えると、彼女は眉根(まゆね)()せて考え()んでしまった。


「……確かに、聖女リーファの(おっしゃ)る通りです。彼女が死亡するまでは呪いに苦しむ者が出てしまう。ちなみに、奇跡で解呪することが可能と(うかが)っておりますが……?」

「はい、解呪は可能です。ですが、わたくしが呪いを受けた者の近くに居る必要が御座います」


 うん、奇跡はそこまで万能(ばんのう)じゃないし、解呪の奇跡を広範囲(こうはんい)で行えば流石(さすが)の私でも神気(しんき)枯渇(こかつ)してしまう。


「もしマスティマが今回の戦争に関与しているのであれば、ナビール王国の要人(ようじん)も呪いを受けている可能性があります。そうだとすれば、戦争が長引く(おそ)れがあるのです。それを許容(きょよう)することは出来(でき)ません」

「……なるほど、聖女リーファの仰ることは理解しました。後で貴女の意向(いこう)をサリエル様へ伝えさせて頂きます」

「よろしくお願いいたします」


 ザアフィエルさんはあくまで任務(にんむ)(ため)に動いているし、それ以上の判断(はんだん)は上に(ゆだ)ねるということなんだろう。


 それにしても、何故(なにゆえ)にそのサリエル様は捕縛に(こだわ)るのだろう。マスティマが自身の信念(しんねん)で動いているのは明白(めいはく)だし、これ以上何かを聞くことも無いだろうになぁ。


◆ひとことふたこと


ザアフィエルは嵐を支配する破壊の天使で、その力で悪しき者を懲らしめる役割を持っています。

出典は第3エノク書?このあたり曖昧ですね、すみません。

その使命から悪の天使ともとられることがあるようです、かわいそう。

名前の意味は「神の憤怒」です。大層なお名前をお持ちで……。


サリエルは御前の七天使の一人で、その手に持った大鎌で命を刈り取る死の天使でもあります。

この天使が活躍するエチオピア語エノク書ではサラクィエルという名前で登場しているのですが、ウリエルと同一視されるようなかなり重要な役割を持つ天使なのだとか。

名前の意味は「神の命令」です。ごっずおーだー!


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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