第一一七話「イケメン悪魔に弄ばれたっ!」
※リーファちゃんの一人称に戻ります。
アロイスさん率いるケルステン州第三部隊は、臨時の特別任務として私という聖女を守りながら、西ケルステン山地の東側を北へと進軍していたが、夕刻も近いので野営の準備に入っているところだ。
ケルステン州とシュターミッツ州は東西を西ケルステン山地で阻まれているけれど、北部に一部通行できる谷があるのでそこを通って行く予定である。徒歩は疲れるけど、戦争で馬車とか許されないだろうし我慢だ我慢。
「それにしても、アザゼル。今回は助かりました」
「なに、お前には恩があるからな、聖女リーファよ。借りは必ず返させて貰うさ」
そう言って一緒に薪拾いをしながら私の脇をしっかりと守ってくれるイケメン悪魔。うーん、頼もしい。私が女だったら放っておかなかったんだろうけど、生憎中身は男だ。ちなみにもう一人の頼もしい護衛であるサマエルさんは現在上空で警戒をしてくれている。
出発前、留守にする自宅と村を守って貰えないかアザゼルとシェムハザに相談したところ、なんとアザゼルは私と共に来てくれることになったのだ。
シェムハザは「村は責任を持ってお守りします」と言ってくれて、毎日見回りもしてくれるらしい。マスティマが何かを起こす可能性もあるし心強いことだ。
「そう言えばアザゼル、貴方の奥様は人間だとお伺いしましたが」
「ん? ああ、何度も娶っているが、すべて人間だったな。もう全員神の御許に召されているが」
へぇ、何度も結婚してるのに、全員人間だったんだ。人間への執着があるんだろうか。
「天使と悪魔にはほぼ寿命はありませんし、お別れは辛くないのですか?」
「それはまあな、毎度毎度辛いものはある。けれども、俺はそれでも人間に魅力を感じているんだ」
「それは何故なのでしょうか?」
「人間はエルフなど長命の存在に比べ、圧倒的に人生は短い。しかしその短い人生の中で必死に何かを成し遂げようとする。天使や悪魔には決して無い、その生き様が眩しいんだ」
アザゼルは薪を拾う手を止め、遠い目をしながらそう言った。今までに出会った人間のことを思い出しているのかも知れない。
「俺やシェムハザは神に背いて人間と子を成し堕天使となったが、後悔はしていない。人間と共に生きて、彼らを見守っていたいんだ」
「シェムハザもそうだとは伺っておりますが、貴方がたのような存在は他にもいらっしゃるのですか?」
「ああ、同じような理由で堕天使となった者は俺が堕ちた三二〇〇年前でも二〇〇人ほど居たぞ」
へえ、子を成した、となるとアザゼルたちの子孫も現代に生き残っていたりするんだろうな。彼らは天使なんだろうか、悪魔なんだろうか、それとも人間なんだろうか。
「……大体、何を考えているのかは分かるが、俺の息子たちはれっきとした人間だったぞ」
「そうなのですね」
おっと、考え込んでいたら心が読まれてしまった。この辺りを考えてしまうのは魔術師の性なのだろうな。それにしても悪魔(いや天使?)と人間の子は人間なのか。天使はあくまでも神が創る存在であり、悪魔も天使が堕ちて成る存在だから、なのだろうか。
「なんだ? 天使や悪魔との逢瀬に興味があるのか? 俺だったら最後の妻が逝ったのはもう八〇〇年ほど前だし、番になっても良いが」
「い、いえ! 結構です!」
真顔で何を言い出すんだこの悪魔は! 私は男に興味は無いんだよう……とか言ってしまうとあらぬ誤解を受けそうなので言えないんだけどさ!
「はっはっは、冗談だ。可愛い反応をするな、聖女よ」
「う、うぅ~~~~」
聖女モードを一瞬忘れて、恥辱に思わず唸ってしまったよ! アザゼルは機嫌が良さそうに笑ってるし、なんか悔しい……。
◆ひとことふたこと
サブタイから精神的BLの匂いが!()
同じような天使200人というのはつまり、アザゼルのナンパ計画に乗った天使たちのことですね。
この世界では天使と人間の合いの子でもネフィリムは生まれないようです。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!