第一一五話「元を正せばベリアルのせいなんだけれども」
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アロイスさんと一緒に自宅へ戻ると、丁度母さんが陛下から連絡を受けていた所だった。
「リーファちゃん……、落ち着いて、聞いて欲しいのだけれど……」
「お母様、大丈夫です。アロイス様より伺っております」
青ざめた顔の母さんが私に説明しようとしたけど、それを止める。母親として『獣』の時のようにまた戦地へ送るのが辛いのかも知れない。
「すまぬな、リーファよ。本来ならばカナン神国の聖女でもある其方を戦地へと送ることは出来ない筈なのだが……今回ばかりは余も立場というものがあってな」
心底申し訳なさそうに通信越しでそう仰る陛下。ナビールの宣戦布告は元を正せば昨年秋にブルーメの町の小麦が全滅したことにある。その責任を被った陛下としては私を送り出すことについて免れ得ない状況だったのだろう。
「いえ、陛下。ですが、畏れながら一つ確認をさせて頂けますでしょうか。カナン神国は私の参戦について、どのような反応を示しているのでしょうか」
「……事情を説明したところ、判断は委ねる、と返答があった」
判断は委ねる、か。神国としては私の参戦について止めることはしないけど、責任も持たないよ、と言っているんだな。まぁ、向こうの立場としてはそうなるだろう。
「ナビール王国は『神罰』と言っているようですが、マスティマも逃亡の際、同じ言葉を使っておりました。彼女も関係があるのではないでしょうか」
「……やはり、其方もそう思うか。だとすれば神国の一天使が戦争に介入したことになるが……」
陛下が言葉を切る。まあ、確たる証拠が無いし、調査しようにも内政干渉になってしまうからね。
「たっだいまー」
「うむ? 誰か来ているようだな。お客様か?」
おっと、玄関からサマエルさんとシャムシエルの声。ベストタイミングで帰ってきたな。
「ただいまーママさん……おっと、王様とお話し中か、ごめん」
空気を読んで黙るサマエルさん。そしてシャムシエルが「何かあったのか?」と小声で聞いてきたのできちんと説明すると、二人とも驚きに瞳を見開く。
「戦争かぁ……。『獣』の時と違って相手は人間や亜人だよ? リーファちゃん大丈夫なの?」
「わたくしは後方支援になると思いますので。……その認識ですが、合っておりますでしょうか?」
「うむ、対人戦闘の訓練もしていない兵を最前線に送るようなことは出来んな」
一応陛下に確認を取ったけど、やっぱり私は後方支援で合っていたようだ。ああ良かった。杖持って特攻しろって言われたらどうしようかと思ったよ。対人はほとんど経験無いしね。
「だが……こちらが撃ち漏らした分が後方に来た場合、リーファを守らねばならぬ。そこで悪魔サマエルよ、頼みがある」
「……あー、王様の言いたいこと分かった」
うん、私も分かった。私の護衛に付いて欲しい、ってことなんだろう。
「……うむ、リーファの護衛を頼まれてくれるか、悪魔サマエルよ」
「ま、可愛い妹分の為ならね。気は進まないけど、やってやりましょ」
そう言って、私に向かってウィンクして見せるサマエルさん。本当に頼りになる姉御だこと。
「そして、能天使シャムシエルよ。貴女には御前の天使ラグエルより伝言だ」
「……伺います」
シャムシエルもこれから伝えられることについてはある程度予想しているのだろう。神妙な顔つきで通信用魔道具に向き直った。
「『エーデルブルート王国に滞在中の力天使ザアフィエルを監査役として遣わせるので、聖女リーファと共に行動し合流せよ。ナビール王国にマスティマの関与が認められたならばその真意を確認し、聖女リーファの家族に危害を加えた罪を名目として捕縛せよ。その場合の生死は問わぬ。なお、決して二国間の戦闘には加わらぬように』……だそうだ」
ああ、やっぱり神国もその可能性に至っていたんだね。
「承知いたしました、とお伝え下さい」
シャムシエルは神国の伝言の意図を理解したようで、はっきりとした答えを返した。私とは異なり、シャムシエルは完全にカナン神国に属する存在だ。だから同盟国でもない他国同士の戦闘行為に加わることは絶対に許されないのだろう。
「でもさー、マスティマがナビールの兵に守られてたらどーすんの?」
サマエルさんの冴えた突っ込みが入った。そのケースは十分にあり得るなぁ。
「裁量は監査役に委ねることになるとは思います。ですがその時はつまり、罪を犯した天使が干渉していたということです。犯罪者を匿っていることになりますので、こちらも遠慮をする必要は無いでしょう。もっとも、事前に警告は入れますが」
「あー、なるほどね」
確かに、犯罪者なのだから警告を無視して匿うようならば神国としても容赦しないか。まぁ、その後面倒な事になりそうだからそうならないといいけどねぇ。
さて、いきなり戦争に行くことになった私たち三人は、急いで準備を整え、リリやシャラたちへ碌に挨拶も出来ぬまま出発することになったのであった。
◆ひとことふたこと
ザアフィエルはエノク書に登場する天使です。
どんな天使なのかは後述しますね!
リーファちゃんは対人について「ほとんど」と言っていますが、盗賊相手などと戦ったことはあります。
後は一章で出てきた獅子の亜人とかですね。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!




