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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一一四話「この人が来ると碌な事が無いんだよねぇ」

 マスティマが起こした誘拐(ゆうかい)事件から一週間ほど()ったものの、今のところ何が起きたということも無い。


 (こと)次第(しだい)は話せる部分だけ神父(しんぷ)様に話した上で、私は相変(あいか)わらず教会でお手伝(てつだ)いを続けていた。まぁ、ここで働くシェムハザが()れるまでだけど。


 ちなみにアザゼルは酒場で料理の(うで)を振るっている。かなり評判(ひょうばん)が良いらしく、私も一度食べに行ってみたいものだ。


「リーファ、時間だから上がって良いよ」

「あ、はい、神父様。それでは失礼いたします。シェムハザも」

「ああ、ではな、聖女リーファよ」


 なんというか、聖書を読み(ふけ)る悪魔というのも奇異(きい)姿(すがた)だな……。シェムハザは元々神への反抗(はんこう)とかで()ちた(わけ)では無く、アザゼル同様(どうよう)人間の女性と恋に落ちたことが理由らしいし、特に主に対して思う所も無いのだろう。


 私は教会を出て、いつも通り森への道へと向かう。最近()まっていた仕事もやっと一段落(ひとだんらく)したので、今日は少しのんびりしたい。


 ……と思った矢先(やさき)(いや)なものを見てしまった……。ベンカーの町への道に(つう)ずる村の東口から来たのだろう、私をエーデルブルート王国の聖女に仕立(した)て上げた騎士のアロイスさんが兵を引き連れ急ぎ足でやって来たのだ。


「聖女様!」

「アロイス様……? そのように兵をお連れになり、シュパン村に何か御用でしょうか?」

「いえ、用事は用事ですが、聖女様にですね。丁度(ちょうど)良い所でした」

「わたくしに、ですか?」


 えーなんだろう。この人の持ってくる話なら(いや)な予感しかしないんだけど。


「実は今朝方(けさがた)、ベンカーの詰所(つめしょ)に王都より魔術通信で連絡がありまして……」

「……あぁ、ベンカーにも通信用魔道具(まどうぐ)設置(せっち)されたのですね」


 通信用魔道具は製造(せいぞう)コストが高く、今まではヴァールブルクのような大都市にしか設置していなかったのだけれども、ベリアルの件があったから情報連携(れんけい)(みつ)にするために配備(はいび)を急いだんだよね。お(かげ)早馬(はやうま)を飛ばさなくても良くなったらしい。


 うちの通信用魔道具も王都からの借り物であり、王都にしか通信は出来ない。まぁ、複数の場所へも通信出来(でき)るようなものは目玉が飛び出るほど高価なんだけど。


「ええ、それでですね、陛下(へいか)よりの勅命(ちょくめい)ということで(まい)りました。聖女リーファ様を連れ、至急(しきゅう)シュターミッツ州の防衛(ぼうえい)に当たれとのことです」

「……え?」


 防衛、だと? それもシュターミッツ州の?


 それって……?


「まさか……戦争ですか?」

「その、まさかで御座(ござ)います。昨晩(さくばん)、ナビール王国より宣戦(せんせん)布告(ふこく)がありました」


 ……危惧(きぐ)していたことが、現実になったかぁ……。


 でも、おかしいな。戦争の可能性は把握(はあく)していたけれども、私を動員(どういん)する? ケルステン州の防衛なら分かるけど、シュターミッツ州は隣州(りんしゅう)で聖女リアの管轄(かんかつ)(はず)。聖女を積極的(せっきょくてき)に戦争へ利用すると、カナン神国(しんこく)(だま)っていないと思うのだけれども。


「……聖女様、今回の動員なのですが、理由があるのです」


 言ってもいないのにアロイスさんがそのことを切り出した。顔に出てしまっていたか。


「理由、とは?」

「ナビール王国の宣戦布告理由、それは――『聖女を(かた)るリーファという者を持ち上げる貴国(きこく)に対し、神罰(しんばつ)を与える』……だというのです」

「……神罰、ですか」


 ……もしかしなくても、これはマスティマが()んでいるんじゃないだろうか? 飢餓(きが)(ああえ)ぐ国民の不満が高まっているところに付け()ったとか、真実はそんなところなのかも知れない。断定(だんてい)は出来ないけれども。


「聖女様が『(けもの)』を神の御許(みもと)へお送りした実績(じっせき)をお持ちなのは、国民に広く知られており、ナビールの言い分が馬鹿げているのは(みな)重々(じゅうじゅう)承知(しょうち)では御座います。しかし……」

「……はい。ここでわたくしが姿を(あらわ)さねば、矢面(やおもて)に立つシュターミッツの皆様の不満が高まる。それに、(きゅう)王弟(おうてい)()の者たちがわたくしを前線へ送るよう(さわ)いだ、と言ったところでしょうか?」

「はい、まさに」


 ナビールの言い(ぶん)としては「聖女を騙るリーファが戦争の原因だ」と言っているようなものだ。そこで私が出て行かねば、私を聖女に()した国王陛下の面子(めんつ)も立たないのかも知れない。


 仕方ないか、ここは(はら)(くく)るしかない。


「お話は理解いたしました。至急自宅へ(もど)準備(じゅんび)いたします。……戦争への参加は初めてですので、アロイス様、何が必要かを道すがらお教え(いただ)けますでしょうか?」

「はっ! なんなりと!」


 私が理由で、私も戦争に参加、かぁ……。


 まさかこうなるとは思ってなかったなぁ……。


◆ひとこと


疫病神扱いされているアロイスさんである。かわいそう。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 可哀想なアロイスさんww いや、もしかして彼は試練を運ぶ天(
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