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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一〇九話「そんなこと出来る筈が無いだろう!」

 名も無き山の名も無き道をどれくらい登っただろうか。かなり標高(ひょうこう)も高くなっており、寒さが(あた)りを支配している。私はコートを着込(きこ)んでいるからいいけど、三人は大丈夫(だいじょうぶ)だろうか。


「あそこだ」


 アザゼルが指を()したそこには――


「暗くて見えません」

「まぁ、そうだろうな。あそこには古代の神殿(しんでん)がある」

「古代の神殿?」


 こんな所にそんなものがあったのか。こんな状況(じょうきょう)でなければ心躍(こころおど)っているのだろうけれど、生憎(あいにく)そんな気分ではない。


 アザゼルの案内で建物の入り口をくぐると、(おく)の方に(とびら)が見えた。


「あの奥に、今回の誘拐犯(ゆうかいはん)が居る。俺が案内出来るのはここまでだ」

「……分かりました」


 私はアザゼルを置いて一人通路を進み、扉を開いた。




 扉の奥の部屋では(かべ)松明(たいまつ)()けられており、結構(けっこう)明るく、中の様子(ようす)をしっかりと()らしていた。


 部屋の奥には祭壇(さいだん)が一つ。その上にはアンナが()かせられている。今すぐ()()りたいが、そうもいかない。


 何故(なぜ)ならば、その左手前あたりに見覚(みおぼ)えの無い悪魔が立っており、足元(あしもと)で倒れている母さんとミスティさんにサーベルを()きつけているからだ。


 悪魔は人間で言えば三〇代後半くらいの男性で、アザゼルよりは()が低そうだけれども身につけた(よろい)の上からでも分かるくらいに体格(たいかく)は良い。きっちりと髪をオールバックにしており、(するど)眼光(がんこう)は見る者を萎縮(いしゅく)させてしまいそうだ。黒い(つばさ)はアザゼルとは(ちが)一対(いっつい)だけである。


「約束通り一人で来てくれたか、聖女リーファよ」

「……一人で来なければ人質(ひとじち)の命は無い、と言ったのは貴方(あなた)がたの方でしょう」

「そうだったな」


 さして感慨(かんがい)も無い様子で答える(見た目は)中年の悪魔。この悪魔がアザゼルに指示(しじ)を出したり、村を(おそ)ったりしていたのだろう。


()ずは自己(じこ)紹介(しょうかい)をしておこうか。私の名はシェムハザ。見ての通り悪魔だ」

「……そうですか」


 はっきり言ってこの悪魔の名前とかどうでも良いんだけど。三人を誘拐した犯人なのだし、長い付き合いになることは無いだろう。


「それで、人質の解放(かいほう)条件は何ですか?」

早速(さっそく)だな、聖女リーファよ」

「当たり前です。早く三人を解放してあげたい。そのためにここへ来たのですから」

「……そうだな。では、これを」


 何か(ふく)みのある感じで、シェムハザは私の足元に向かって何かを(ほう)り投げた。小さな金属(きんぞく)音が鳴り(ひび)く。


 見ればそれは何の変哲(へんてつ)も無いナイフだった。少しだけ(やいば)が長いことくらいが特徴(とくちょう)か。


「……これで自害(じがい)でもしろと(おっしゃ)るのですか?」


 私の軽口(かるくち)に、無言(むごん)でシェムハザは祭壇の上を指さした。


 ……まさか?


「……あの魔族を殺して(もら)う。それがこの二人の解放条件だ」

「なっ!?」


 アンナを殺すことが、母さんとミスティさんの解放条件だって!?


「何のおつもりですか! 私に妹を殺せと仰るのですか!?」

「そうだ」


 憤慨(ふんがい)する私にも、あくまで冷静に(うなず)くシェムハザ。冗談(じょうだん)じゃない! そんな事が出来るか!


「何故そのようなことをしなければならないのですか! 理由を言いなさい!」

「………………」


 シェムハザは答えない。ただの(おさな)紅魔族(ロートトイフェル)の娘であるアンナの命を(うば)うことで、一体彼らに何の()があると言うのか?


「出来ぬのならば、まずは貴様(きさま)の母親を殺す」

「くっ……」


 私に、母親と妹の命を天秤(てんびん)にかけろと言うのか。頭の中が怒りで真っ白になる。



 ……いや、冷静になれ。


 何故コイツはわざわざ私に手を(くだ)させるんだ? 私が来るまでにアンナの命を奪うことなど、コイツには容易(ようい)であった(はず)だ。


 もしかして、この状況にこそ意味があるのか?



 だったら、もう躊躇(ためら)うことは無い。


 私はナイフを手に取り、アンナが寝かせられている祭壇へ近づく。シェムハザの居る場所を通りすがったけれども、彼は微動(びどう)だにしなかった。こちらが何をしても対応出来(でき)るということなんだろう。


 でも、一瞬(いっしゅん)(すき)さえあれば良い。


「ふっ――」

「なにっ!?」


 私はナイフをアンナへ振るう事無く、シェムハザの顔面(がんめん)へと投げつけた。まさかこんな愚行(ぐこう)(おか)すとは思っていなかったのだろう、彼は咄嗟(とっさ)に手にしたサーベルでそれを受けてしまった。


 そのままシェムハザにタックルを仕掛(しか)ける。よろめいただけだったが、これで良い。


「来なさい、〈隠された剣(クォデネンツ)〉! 私と相対(あいたい)する悪魔を()()いて!」


 そう(さけ)んだ瞬間(しゅんかん)、開いたままだった扉の向こうからアザゼルの(おどろ)く声と、空気を斬り裂く音。


「くっ! 自動攻撃の剣か!」


 (ちょう)高速で飛来(ひらい)したにも関わらず、シェムハザはサーベルを使い(たく)みにそれを受ける。しかし相手は身体を持つ者が振るっている(わけ)では無い、剣そのものである。剣技(けんぎ)常識(じょうしき)が通じないようで、斬撃(ざんげき)を受けることで精一杯(せいいっぱい)のようだった。


 家を出る前、〈隠された剣〉の(あるじ)をシャムシエルから私に切り()え、私の後を一定の距離(きょり)(はな)れてついて来るように命令しておいたのだ。自動攻撃してくれる剣であれば、一人剣士が居るのと変わらないからね。


 今のうちに母さんを起こしにかかる。(つえ)無しとは言え、〈隠された剣〉と魔術師二人ならば対抗(たいこう)出来る筈だ。


「お母様、起きてください!」

「んん……リーファちゃん、もう朝……?」


 ああもう寝惚(ねぼ)けてるよ! そんな状況じゃないんだってば!


 でも母さんは目を(こす)(まわ)りを見回した瞬間、どういう状況かを把握(はあく)したようだ。すぐに立ち上がり、こちらはまだ気を失っているミスティさんを引き()ってアンナの近くへと移動する。


 さて、状況は変わった。これから反撃(はんげき)の時間だ!


◆ひとことふたこと


シェムハザは前述したアザゼルの200人ナンパ計画に乗っかった天使たちの代表です。

グリゴリという堕天使の軍団で代表の一人を務めていました。

名前は、シェム(名前)とアザ(強い)の合体語です。


三章ではクォデネンツ大活躍ですね!(笑)


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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