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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一〇八話「シャムシエルの苦悩を、私は分かってやれない」

「ふぅ……、ふぅ…………」


 ミスティさん、母さん、アンナが(さら)われたその夜、私は案内の悪魔に付き(したが)い西の山を登っていた。(すで)にサマエルさんが封印されていた場所よりも標高(ひょうこう)の高い位置まで来ており、私は(つか)れで足取(あしど)りも重くなっていた。


「……おぶって行くか?」

「……結構(けっこう)です」


 案内であるアザゼルの言葉に、私はぴしゃりとお(ことわ)りを返した。彼は「そうか」とだけ答え、再び(あた)りに沈黙(ちんもく)(もど)る。


 何故(なぜ)こんな事になっているのか。そう、(こと)は一時間ほど前に(さかのぼ)る。




「………………」

「………………」

「………………」


 三人が攫われ、サマエルさん、シャムシエル、私の三人は手掛(てが)かりも見つけられないままに夜を(むか)え、疲弊(ひへい)したまま沈黙の支配するリビングに集まっていた。


 アザゼルはと言うと、「心当たりがある」と言いつい先程出て行ってしまった。まぁ、彼に命令を(くだ)している者の犯行ならば、居場所の見当(けんとう)も付くのかも知れないね。


「……アンナ、(さび)しがってないかな……」

「そうだねぇ……」


 サマエルさんも心配なのだろう。いつもアンナが大事にしているお人形を(いじ)っている。私が(つく)ってあげたものだ。


 (かた)やシャムシエルはというと、どうしたら良いのか分からない、そういった表情を()かべてただ(すわ)っていた。


「……あのさ、シャムシエル」

「…………なんだ、リーファ」


 少し(こた)えに()があった。(おそ)らく私の言いたいことが分かっているんだろう。


「シャムシエルは、本当はこうなるんじゃないかってこと、分かっていたんじゃない?」

「………………」


 答えは返ってこない。図星(ずぼし)なのか、それとも答えられないのか。


 最近のシャムシエルはいつもこうだ。何をおいても明確(めいかく)な返答をくれない。もしかしたら彼女まで誘拐犯(ゆうかいはん)(つな)がっているのではないか、とさえ勘繰(かんぐ)ってしまう。


「シャムシエルはさ、何を(かく)しているの? ミスティさんに気を付けろとは言われたけど、具体的(ぐたいてき)にどう気を付けたらいいのか、彼女の正体(しょうたい)が何なのか全く分からない。(だま)っていないで教えて(もら)えないと分からないんだよ」

「………………」

「ねえ、シャムシエル、お願いだから――」

「リーファちゃん、そこまで」


 矢継(やつ)(ばや)詰問(きつもん)する私を、サマエルさんが(するど)口調(くちょう)で止めた。少し怒っているのかも知れない。


「天使にとって規則(ルール)っていうのは最も重要なことなんだ。それを(やぶ)ると長い長い間幽閉(ゆうへい)されたり、神に(そむ)くような規則違反(いはん)の場合は堕天使(だてんし)にされることだってある。シャムシエルだって言いたいのを我慢(がまん)しているんだよ」

「規則って……、でも、だって……!」


 私はそこまで言ってから、サマエルさんの言葉を頭の中で反芻(はんすう)し「ごめん」と(つぶや)いた。(のぞ)まずに()ちるというのは、彼女たち天使にとって()(がた)屈辱(くつじょく)なのだろう。


 シャムシエルは相変(あいか)わらず何も言わず、再び沈黙が支配する。


 そんな中、玄関(げんかん)のドアベルが鳴った。母さんたちが帰ってきた? と一瞬思ったけど、それならばドアベルを鳴らす必要は無い。


 私たちは三人で玄関に向かうと、やはりというかなんというか、そこにはアザゼルが居た。


「アザゼル……、三人の居場所は分かりましたか?」

「……ああ」


 そうか。となると、やっぱりこれはアザゼルに命令を下している者の犯行なんだね。


「それで、な。そこへ()れて行けるのは、聖女リーファよ、お前だけだ」

「………………」


 何となく、そんな気はしていた。誘拐(ゆうかい)ならば向こうが良い条件となるように仕向(しむ)けるだろうしね。


「三人を返して貰うための条件は何ですか?」

「それは現地(げんち)で話すそうだ。そこまでは俺が案内する。夜の山道(やまみち)()くので、足元に気を付けてくれ」


 私は急ぎ出掛(でか)ける準備を始めた。山道ということだし、火を使わない魔道具(まどうぐ)のカンテラやコートを用意する。長杖(ちょうじょう)は……持たせて貰えないだろうな。


「その……リーファ……」


 急ぎ準備を進める私の背後(はいご)で、シャムシエルの声がした。何かを(つた)えたいんだろうけど――


「……無理しないでください、シャムシエル。こちらはこちらで、なんとかいたします」

「…………すまない」

「ですが、その()わり――」


 私はぴっと指を立て、項垂(うなだ)れるシャムシエルに一つのお(ねが)いをしておいた。


◆ひとこと


彼女たちのような天使にとって規則のような約束事はとても大事なものなのです。

約束を破る、嘘を吐くことは神に背くでもあるからです。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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