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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一〇七話「何のための騒動か、考えればすぐ分かることだったのに」

「ぐ……うぅ……」

「シャムシエル!」


 村の西(がわ)、山への入り口付近(ふきん)でシャムシエルは倒れていた。胸甲(きょうこう)(へこ)みが出来(でき)ている。どんな力が加わればこうなるのやら。


 彼女の(わき)には、何やら土塊(つちくれ)の山が(うずたか)()もっている。なんだこれ?


「主よ、暗き(あし)灯火(ともしび)を今一度(かがや)かせ(たま)え、〈復活(レスレクティオ)〉!」


 一先(ひとま)ず土塊のことからは意識を(はず)して、傷を(いや)す奇跡を行使(こうし)し、気を失っていたシャムシエルを起こした。


「う……、リ、リーファか……?」

「シャムシエル、何があったの?」

「ゴーレムだ」


 彼女は意識(いしき)をはっきりさせようと頭を振りながら、短くそう答えた。ゴーレム……って、あの魔術師が傀儡(くぐつ)として生み出すゴーレム? そんなものがここに居たのか?


「ゴーレムが村を目掛(めが)(おそ)ってきた……ってところ? ゴーレムの素材(そざい)は?」


 魔力により生み出されたゴーレムには元となった素材が必ずある。それは土だったり、石だったり、鉄だったり、あるいは動物の肉だったりすることもある。素材によって呼び方も(こと)なれば、強さも変わってくるのだ。


「土だ。近くに居た村人たちを避難(ひなん)させている間に、〈隠された剣(クォデネンツ)〉を飛ばして時間(かせ)ぎをしていたのだが、上手くいったようだな」

「無茶するなぁ……」


 なるほど、脇にあった土塊の山はゴーレムのなれの()てだったか。(もろ)いマッドゴーレムとは言え、素手(すで)でゴーレムと(わた)り合ったって(わけ)でしょ? 流石(さすが)脳筋(のうきん)天使だ。


「ところで、サマエルさんとアザゼルがここに来なかった?」

「ああ、もう少し山を登った所で残りのゴーレムと戦っている(はず)だ。まさかアザゼルが手を貸してくれるとは思っていなかったが」


 ふむ、一匹ではないのか。まぁあの二人ならマッドゴーレム(ごと)き問題無く倒せそうだけど。


 それにしても、また西から来たな……? 一体何が起きているんだろう?




 シャムシエルと二人で山を登ると、意外や意外、二人は苦戦していた。


 というのも……。


「ええい、次から次へと! アザゼル、まだ術者(じゅつしゃ)は見つかんないの!?」

「無茶を言うなサマエル! この状況(じょうきょう)で探せるか!」


 上空からサマエルさんが弓で射撃(しゃげき)、地上でアザゼルがサーベルを振るうも、倒しても倒しても地面から次々と()き上がってきているのだ。ゴーレムの叩き売り状態になっている。


「……とまぁ、このような有様(ありさま)だったのでな。流石に私も手に()えず、剣を飛ばしたというわけだ」

「……なるほど、そういうことでしたか」


 何故(なにゆえ)にシャムシエルがマッドゴーレム如きで救難(きゅうなん)信号を出したのか分からなかったけれども、これなら納得(なっとく)だ。ちなみにアザゼルが居るので聖女モードに切り()えてます、はい。


 アザゼルがゴーレムを生み出している術者を(さが)そうとしているけれども、手が回ってないのか、ふむ。


「シャムシエル、アザゼル、広範囲(こうはんい)に魔力探知(たんち)を行いますので、守って(いただ)けますか」

承知(しょうち)した」

「む……、聖女様は魔術も使えるのか。分かった」


 シャムシエルとアザゼルは、(たく)みに剣を振るいゴーレムの心臓(しんぞう)部である(かく)()りつけていく。魔術で構築(こうちく)されたゴーレムの核だけど、所詮元は土で出来ているため、少し衝撃(しょうげき)が加わっただけで簡単(かんたん)にその機能(きのう)を停止してしまう。


 よし、この二人が守ってくれるならば安心出来る。私の膨大(ぼうだい)な魔力を使って索敵(さくてき)してしまおう。


「その流れを我に(うつ)せ、〈魔力探知(マナサーチ)〉」


 探知範囲を思いっきり広げる。範囲内にゴーレムの核がうようよいるな。さて……。


「……居ました。動かない反応が一つ」


 結構(はな)れた場所にある()の後ろに(かく)れているようだ。居場所さえ分かればこっちのもの。


「サマエルさん! あそこの樹です! (うら)側に隠れています!」

「はいよー!」


 私の指示で、サマエルさんが(つばさ)から魔力を放出(ほうしゅつ)させて一気に樹の向こう側に移動し、弓を引き(しぼ)った。


 ところが彼女は、「へ?」と()けた声を上げ、(つが)えた矢を(もど)し、そのまま樹に近づく。何か予想外のものを見つけたらしい。


 そしてサマエルさんが樹から何か布のようなものを()がしたかと思うと、途端(とたん)(まわ)りのゴーレムたちがすべて土塊へと(かえ)った。お、終わったのか。


 サマエルさんは何やら先程剥がした布と水晶玉(すいしょうだま)がくっついた短杖(たんじょう)らしき物を持ってきた。まさか……?


「誰も隠れてなかったけど、魔道具(まどうぐ)()いてあったよ」

「ゴーレムを生み出す魔道具ですか……」


 ゴーレムというのは基本的に単純(たんじゅん)な命令しか遂行(すいこう)出来ないので、魔術師の迷宮(めいきゅう)の番人程度(ていど)にしか(もち)いられないんだけど、こういった使い方も出来るのか。味方を攻撃する問題が解決(かいけつ)出来れば、戦争に使えそうだな、これ。


「しかし、一体何のためにこのような仕掛(しか)けを……?」

「そりゃリーファちゃんよ、村を襲うためじゃないの?」

「でしたら、もっと村の近くで使えば効果もあったでしょう」

「……確かにそうだねぇ。だとしたら、陽動(ようどう)?」


 陽動かぁ。私たちがこちらに来ることを見越(みこ)して、この仕掛けを(ほどこ)した?


 だとしたら、(ねら)いは……。


「……そういうことですか! サマエルさん! 急いで家に(もど)ってください!」

「え? ……あ!」


 私の言葉で、声を上げてすぐに飛び立ったサマエルさんだけでなく、シャムシエルとアザゼルも気づいたらしい。顔から血の()が引いている。


 そうだ、これを仕掛けた何者かは私とミスティさんを引き離すことが目的だったのだ。




 家に帰った私たちに、サマエルさんは苦々(にがにが)しい表情で紙切れを見せた。


 そこには「三人は(あず)かった」とだけ書かれていた。


◆ひとこと


ゴーレムのような存在は各神話に登場しますが、ゴーレムという名前はユダヤ教がルーツです。

神聖な儀式の折に泥人形に紙を貼って生み出した、とされています。

名前の意味はヘブライ語で「胎児」。何をもってこの名前を付けたのでしょうね?


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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