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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一〇六話「美女たちとのお茶会?」

「……どうしてこうなっているんだ」

「まーまー、美女たちに(かこ)まれてお茶とか役得(やくとく)じゃーん? 気にすんなって」

「気にすんなってー!」


 もにょるアザゼルの(かた)をケラケラ笑いながら叩くサマエルさんと、面白(おもしろ)がって彼女の真似(まね)をするアンナ。アザゼルの気持ちは分からんでもない。


「まあまあ、それじゃこの方が話に聞いたアザゼルさん? まさかお母さん、うちに()れてくるとは思ってなかったわぁ」

「……わたくしも思いませんでした」


 両手でティーカップを持ちながら私は天を(あお)ぐ。サマエルさんは一体何のつもりなんだろう? こんなことをしたってアザゼルは何も教えてくれないような気がするんだけど。


「で、なんでアザゼルが村に居たのか、おねーさんたちに話してみ?」

「ええと……」


 私は二度説明するつもりが無いらしいアザゼルの()わりに、サマエルさんと母さんに事情を説明した。


「なるほどねー、ってことはそもそも、アザゼルは仕事で死霊(しりょう)を守っていただけで、アザゼル個人としては村にもミスティちゃんにも興味(きょうみ)は無い(わけ)だ」

「まぁ、そうなるな。むしろ、良い洗剤(せんざい)を作ってくれるお前たちには感謝(かんしゃ)しか無い」


 ぐっ、と(こぶし)(にぎ)りしめて力説(りきせつ)するアザゼル。いや、この悪魔はどんだけ掃除(そうじ)が好きなんだ?


「……だが、それでも仕事は仕事。もし村を(おそ)えと命令されればそうするだろう。気は進まないがな」

「ふぅん……」


 お茶を(すす)りながらアザゼルが(つぶや)き、サマエルさんは何やら頬杖(ほおづえ)()いてニヤニヤ笑っている。


「『もし村を襲えと命令されればそうするだろう』ってーことは、この間村が襲われた(けん)は、アザゼルと関係が無いって事だね」


 ……あ。


 アザゼルはティーカップを(かたむ)けた姿勢(しせい)で「しまった!」という表情をして(かた)まっていた。つまり誰か他の実行犯が居るということを間接的(かんせつてき)にバラしてしまったのだ。サマエルさんかしこい。


 何処(どこ)(あきら)めたような表情で、アザゼルは深く溜息(ためいき)()いた。


「全く、この狡猾(こうかつ)な悪魔め……。その通りだ。先日村が襲われた件は、俺がやったのではない。誰がやったのかまでは教えられないがな」

「ま、そこまで教えて(もら)えるとは思ってないよ。あ、これはリーファちゃんが作ったお菓子(かし)ね。ご褒美(ほうび)にあげる」


 そう言って、テーブルに()られたクッキーをずいっとアザゼルへ()()すサマエルさん。アンナ向けに作った、砂糖使用の私謹製(きんせい)贅沢(ぜいたく)なお菓子です。


「薬とか入ってないだろうな」

「入っていません!」


 し、失礼だなこの悪魔! いくら私が魔術師でもそんなことしないよ!


 その後は他愛(たあい)も無い話をする。野菜は(かく)包丁(ぼうちょう)を入れると煮込(にこ)む時に味が()みこむとか、貝殻(かいがら)(くだ)いた粉末(ふんまつ)所謂(いわゆる)石灰(せっかい)()掃除(そうじ)に使うとシミが綺麗(きれい)になるとか、お茶の出涸(でが)らしを(かわ)かしたものを()き掃除に使うと(よご)れを吸着(きゅうちゃく)してくれるとか、今回の騒動(そうどう)に全く関係の無い話を力説してくれた。


 ……なんか生活感に(あふ)れた悪魔だな、アザゼル。一気に庶民(しょみん)臭くなったというか。普段(ふだん)どういう生活してるんだ。


「それにしても、シャムシエル様はどちらに行かれたのでしょうか? いつもでしたらもうお帰りになられている(はず)ですが」

「そうですね……、それほど見回りに時間が()かる筈も無いと思いますし、もしかすると村で何か用事を(たの)まれているのかも知れません」


 ミスティさんの心配も分かるけど、シャムシエルは天使ということもあって村の(みな)から(たよ)られているんだよね。だから普段から頼まれ事などされることも多く、あの生真面目(きまじめ)な天使もそれをきちんと遂行(すいこう)するのだ。


 とか話していたら、玄関(げんかん)で何かが()()さるような大きな音が鳴った。


「なんだ? ちょっと見てくる!」


 サマエルさんが立ち上がり、急ぎ玄関に向かう。私も(あわ)ててそれに続く。


「〈隠された剣(クォデネンツ)〉……?」


 玄関のすぐ外では、シャムシエルが持つ魔剣〈隠された剣〉が地面に突き刺さっていた。(おそ)らく(あるじ)の命令でここへ飛ばされたのだろうけれど、なんで――


「……まさか、シャムシエルが危ない?」

「そのまさかだと思うよ、リーファちゃん。たぶん村だろうね。アタシは先に行ってくるよ」


 時間が()しいとばかりに、一瞬(いっしゅん)背中(せなか)に一二枚の黒い(つばさ)()やしたサマエルさんが村の方へと飛び立った。私も追わないと!


「何があった?」


 家の中からアザゼルとミスティさんがやって来たので、私は二人に(こと)次第(しだい)を説明した。


 すると、アザゼルの顔色が変わった。明らかに(おどろ)いている。


「村が襲われているかも知れない、だと? ……どういうことだ……?」

「まだそうと決まった(わけ)ではありませんが……」


 どうやら、アザゼルも今回の事には関与(かんよ)していないらしい。何やら(くや)しそうに(こぶし)を固め、(ふる)わせている。


「……もし村が襲われているのならば、俺も行こう。今回は仕事ではないからな。傍観(ぼうかん)してやる義理(ぎり)は無い」

「え……、良いのですか?」

「ああ、気に入らんからな」


 そう言い(はな)ち、アザゼルもサマエルさんと同じ一二枚の翼を生やして同じ方向へと飛び()った。あの悪魔も知らない場所で好き放題(ほうだい)されるのは気に食わないらしい。


「……私も行って参ります。ミスティさんはこの家から(はな)れないように。いいですね?」

「わ、分かりました!」


 ここには結界(けっかい)()られていれば母さんも居るし、大丈夫だろう。


 私は長杖(ちょうじょう)と〈隠された剣〉を持ち、シュパン村の方へと()け出した。


◆ひとことふたこと


妹のためにクッキーを作れるリーファちゃん。もう女の子でいいんじゃない?(笑)

この地域では甜菜てんさいが栽培されている場所や精糖工場もあり、砂糖はそれほど貴重という訳ではありません。

安くはないものということには変わりないですけどね。

代わりに海から遠いため、塩は行商で手に入れるしかありません。こちらは貴重です。


アザゼルおばあちゃんの知恵袋劇場。

すっかりそういうキャラが出来上がってしまいました(笑)


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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