第一〇五話「アザゼルへの事情聴取開始(買い物袋つき)」
「さて、何故村を狙っていた俺がここで買い物をしているのか、だったな」
会計を終えて店の外に出てきたアザゼルが、待っていた私とミスティさんの元にやって来てそう切り出した。しかし左腕に洗剤やらたわしやら入った布袋がぶら下がっていて、何とも緊張感に欠ける。
「まず、お前は勘違いをしている。俺は村を狙ってなどいない」
癖なのか顎をさすりながらそう答えるアザゼル。村を狙っていない?
「いえ、アザゼルよ。貴方は村へ向かう巨人の死霊たちを守っていたではありませんか」
「それは、そういう仕事だったから、だな」
なんだと?
仕事、と言ったか。ということは、誰かがアザゼルに命令したということだ。確かに、死霊たちを呼び出したのが他の誰かならばその可能性はあったな。
「……ということは、シスターミスティを狙っているというのも、あなたの任務だから、ですか?」
そう尋ねたら、アザゼルは「大きなヒントを与えてしまったな」と苦笑した。やはりこれは何かしらの手掛かりとなりそうだ。
と、くいくいっと私の修道服が引っ張られた。ミスティさんだ。
「あの、聖女リーファよ。先程から気になっては居たのですが……貴女はアザゼルと初対面ではないように見えますが、どちらで知り合われたのでしょうか?」
「え、あ……」
しまった、ミスティさんには伏せていたのにバレてしまった。
まぁ仕方ない、説明するか。
「先日、巨人が現れたとシャムシエルが教会へ飛び込んできたことがあったでしょう。その時に現地で遭遇しました。彼が村へ向かう巨人の死霊たちを守っていたのです」
「なんと、そうでしたか」
私の説明に納得したように頷き、そしてキッとアザゼルを見据えるミスティさん。この人がこんな態度を見せるのも珍しい。
「悪魔アザゼルよ、一体何処の何方が何のためにわたくしを狙っているのか、教えて頂けますか?」
「………………」
ミスティさんの言葉に、アザゼルは苦笑したまま無言で肩を竦めるだけだった。やっぱり答えるつもりは無いらしい。
「ま、今は俺も仕事ではないので、ここで何かを起こそうというつもりは無い。やると言われれば抵抗するが」
「……いえ、それは好都合です」
「だろうな」
こんな村のど真ん中で事を起こされてはたまったものではない。ここは大人しく帰って貰おう。
「では、俺は巣へ帰ることにする。では聖女リーファ、また――」
「あれ、アザゼルがいるー」
アザゼルが飛び立とうと一二枚の黒い翼を広げた瞬間、のんびりした声がやや遠間から聞こえた。これは間違いなくサマエルさんだな。ちょうど今日の狩りから戻ってきたところなのだろう。
「……サマエルか」
「なんでここにいんの?」
「また一から説明するのか?」
サマエルさんに質問され、不満そうに私を見るアザゼル。いや私に振られても。
そんなアザゼルと私のことを交互に見るサマエルさんが、何やら面白いことを思いついたようににんまりと笑った。あ、嫌な予感がする。
「丁度良いや、アザゼル。アンタちょっとウチまで来なさい」
「は? いや、俺は帰って家事が――」
「いいから、ほら!」
強引にアザゼルの右手を引っ張り、森の方へと歩き出したサマエルさん。アザゼルも観念したようで、翼を引っ込めてしまった。
残された私とミスティさんは、どうしたものかと顔を見合わせるだけだった。
◆ひとこと
アザゼルは押しに弱いらしく、サマエルの強引さに負けてしまいましたね。
敵対している同士とは思えません(笑)
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