第一〇四話「汚れがよく落ちて手荒れもしにくく環境に優しい食器用洗剤、好評発売中です」
それから数日何が起きるともなく、私はミスティさんと帯同する生活を続けていた。
とは言え私は大々的に寄付を募ることには相変わらず反対なので、地道な布教活動のお手伝いになる訳なのだけれども、そもそも私は魔術師なので彼女ほど信心深い訳でも無い。そのため、普段は仮教会における掃除や料理などの雑務に徹しているのだった。
「リーファ、そろそろ時間だからシスターミスティと上がって良いよ。今日もお疲れ様」
相変わらず仮教会内で聖書を読み耽っていた私に、デニス神父が労いの言葉を掛けてくれた。もうそんな時間か。これから帰って魔術師側の仕事をしなければ。
「神父様。はい、分かりました。まだまだお手伝いが出来ず申し訳御座いません」
私はまだ聖書の内容を半分も覚えられていない。普段から読んでいる訳ではないからなぁ。普段読んでるのは魔術書だし。
「良いのだよ、リーファ。君はシスターでも無いというのに君なりのやり方でこの教会に貢献してくれているのだし、気にすることはない。感謝するのは私の方だよ」
「はい、ありがとうございます」
うーん、流石デニス神父。この心の広さは見習いたい。
神父様に挨拶をしてからミスティさんと仮教会を出る。さて、帰ったら薬の調合のお仕事だ。あー忙しい。
「……ん?」
広場の向かい、リリの自宅でもある雑貨屋に入って行く人物を見つけ、私は目を疑った。いや、それは人ではない。
「ア、アザゼル……!?」
まさかのアザゼルが、村に侵入、しかも雑貨屋へ入って行った? 何をするつもりだ、あの悪魔!
「どうかなさったのですか、聖女リーファ?」
「いえ、悪魔アザゼルが、雑貨屋に入っていく所を確認しました。シスターミスティも一緒に来て下さい」
ミスティさんも狙われているのならば、私の側から離れない方が良い。
「え、えぇ? 雑貨屋に、あの悪魔が……?」
私たちは雑貨屋へ急ぎ足で向かう。この時間はリリが店番をしている筈だ。彼女が危ない。
「ほう……、これは食器用洗剤なのか。汚れが良く落ち、しかも環境に優しい……?」
「はい、手荒れもしにくくて王都でも人気なんですよ。近くの森に住んでるアナスタシアさんという魔術師の方が作っています。私の幼馴染のお母さんなんです」
「なるほど、これは買いだな」
雑貨屋では、側でリリの説明を受けながら、ぶつぶつ呟きつつお店のカゴに洗剤の瓶を放り込むアザゼルが居た。
「………………」
え、何この光景。予想してなかったんだけど。
「あの……アザゼル……ですか?」
「む、聖女リーファか。こんにちは」
「こ、こんにちは」
なんか先日やり合った悪魔に、ふつーに挨拶をされた。多分今の私、傍から見ると目が点になっていると思う。
「ええと……お伺いしたいのですが、何をされているのですか……?」
「いや、買い物だが」
買い物だが、とか言われても困るんだけど。なんで普通に買い物してるか聞いてるんだけど。
「あ、お客様、この子がその幼馴染なんです! 彼女もこの洗剤を作ってくれているんですよ!」
「ほう、そうだったのか。なかなかやるではないか、聖女リーファよ」
「え、あ、はい、ありがとうございます」
褒められたので思わず照れてしまい、しどろもどろに頭を下げる私……じゃなくて!
「あの、アザゼル。何故この村を狙っていた貴方がここで買い物をしているのか、と聞いているのですが」
なんで私が申し訳ない思いでこの悪魔にこんな説明をしているのか。ちょっと涙が出てきそう。
「ん? あぁ、まずは勘定を支払うから外で待っていろ」
「お会計ですね、承ります」
私を放置して、さっさとリリのところへ商品を持って行くアザゼル。取り残される私とミスティさん。
「……一旦、外に出ましょうか」
「宜しいのですか? あれを放置して?」
「はい……、大丈夫でしょう……」
頭痛を堪えつつ、私はミスティさんの背中を押しながら店の外へ出た。
◆ひとこと
まさか当作とは思えぬサブタイトル。
アザゼルの素はこんな感じでした(笑)
--
次回は明日21時半頃に更新予定です!