表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
103/184

第一〇三話「こんにちはリーファです、修道服を着ていますが魔術師です」

神父(しんぷ)様、おはようございます! 今日のお野菜を持ってきました!」


 キャベツの入った(かご)を片手にそう元気良く(かり)教会へ入ってきたリリが、私の姿(すがた)を見て(こお)り付いた。


「……リーファく……リーファちゃん、え、シスター始めたの……?」

「……シスターになったつもりは無いのですが、やはりそう見えますか、リリ」

「そうにしか見えない」


 ジト目で私を(にら)むリリ。うん、修道服(しゅうどうふく)を着て、椅子(いす)腰掛(こしか)け聖書を読む姿はシスターにしか見えないよね。ごめん。


「やあリリ、今日もありがとう。リーファには今日から教会の手伝(てつだ)いをして(もら)うことになったのだよ」

「あ、神父様。お怪我(けが)大丈夫(だいじょうぶ)でしたか?」

「なに、(かす)り傷だよ。あの程度(ていど)の剣ならば昔は()ていても(かわ)せたのだけれどもね。老いという現実は(きび)しいものだ」


 (さび)しそうに笑うデニス神父だけど……寝ていても躱せるって一体……?


 昔からこの神父様には(なぞ)が多いんだよねぇ。素手(すで)(りゅう)(たお)したとか、ヴィニエーラ帝国のルシファー皇帝(こうてい)陛下(へいか)(なぐ)り合ったとか(うわさ)()きないけれども、普段の(すき)が無い姿を見ればあながち(うそ)でも無いんじゃないかと思う。


「別にわたくしまで修道服を着る必要も無ければ、聖書の内容を記憶(きおく)する必要も無かったのですが……」

「いけないよ、リーファ。神に(つか)える者として形は大事(だいじ)なことだ。それに(まよ)える村民(そんみん)(しめ)しを(あた)える時に聖書を引用(いんよう)出来(でき)なければ(こま)るだろう?」


 う、うーむ、そういうものなんでしょうか、神父様。でも私、神に仕えている(わけ)じゃないんですけれども。そりゃまぁ、普段(ふだん)から神に力を借りているんだし、少しくらい恩返(おんがえ)ししても、とは思うけどさ。


「まぁまぁ、美味(おい)しそうな野菜ですね。ふふ、聖女様の(おっしゃ)った通り、この村では(しつ)の良い野菜が()れるのですね」

「あ、シスターミスティもおはようございます。はい、この村の畑は豊穣(ほうじょう)の女神様の御力(おちから)で、かなり収穫(しゅうかく)(りょう)も多くなったんですよ!」

「……女神……ですか?」


 ニコニコ笑って野菜を(なが)めていたミスティさんが、リリの一言(ひとこと)にピタリと動きを止めた。そして困ったように眉尻(まゆじり)を下げる。


 あれ、何か(あつ)を感じるのだけれども、リリ何か言っちゃった? そんな感じはしなかったけど。


「……その、女神というのは、どちらの女神様なのでしょう?」

「え? あ、えーと、今は……(おか)の上に居る、シャラさんという……」


 リリも何かを感じ取ったのだろう、顔を引き()らせ、(わず)かに後ずさりながらシャラの居場所を答えた。


「……そうですか。聖女様、後でご一緒(いっしょ)して(いただ)けますでしょうか?」

「は、はい、(うけたまわ)りました」


 なんだかミスティさんの様子(ようす)が変だなぁ。何も起きなければいいんだけど。




 村全体を見渡(みわた)せる西側の丘、そこにシャラの()()えている。彼女が生前(せいぜん)……という言い方は変だな。種の状態(じょうたい)になる前に、村を見渡せる場所へ()めて()しいと(ねが)ったためこの場所に生えているのだ。


「ん? リーファちゃんやないか。なんやそのけったいな格好(かっこう)は」


 現在は三、四歳くらいの幼女(ようじょ)姿である元女神のシャラは、私の姿を見るなりひなたぼっこを中断(ちゅうだん)し、半目でそんな風にのたまった。けったいな格好でごめんよ……。


「ええと……本日よりこちらのシスターミスティのお仕事をお手伝いすることになりまして」

「シスター……? ついにリーファちゃんはカナンの神に仕えることになったん?」

「いえ、()()きでお仕事のお手伝いをしているだけです。あくまでわたくしの本分(ほんぶん)は魔術師ですので」


 後ろで「成り行きでなくとも良いのですよ」と声が上がったけど、無視しておく。


「シスターミスティ、こちらが道すがらお話しいたしました、元豊穣の女神のシャラです。(ゆえ)あって今は精霊と成りましたが」

「……初めまして、シャラ様。わたくしはミスティと(もう)します。シスターとして唯一(ゆいいつ)にして絶対である、我らが(しゅ)に仕えております」


 ……ニッコリと微笑(ほほえ)むミスティさんだけど、その言葉は何処(どこ)刺々(とげとげ)しい。


「な、なんや? リーファちゃん、うち、なんか悪いことしたん?」

「い、いえ、シャラは特に何もしていないと思いますが……」


 基本優しい女神様なので、いきなり攻撃的な態度(たいど)を取られて子供らしく半泣きになるシャラ。私も訳が分からず戸惑(とまど)ってるよ。


「聖女リーファ、このような幼子(おさなご)が神を(かた)っていたのですか? そのようなことは(ゆる)されないと、きちんと教えておかなければ」

「……いえ、先程も申し上げました通り、シャラは見た目通りの子供では御座(ござ)いませんし、(まぎ)れもなく元は神格(しんかく)存在(そんざい)でしたが……」


 ……あー、そうか。このシスター、カナンの神を唯一として他を(みと)めない、排他的(はいたてき)信徒(しんと)だったのか。ここに()れて来たのは失敗だったな……。


「シスターミスティ、カナン神国(しんこく)では過去に他の神を異端(いたん)として認めていなかったという経緯(けいい)はわたくしも(ぞん)じておりますが、今ではそれを(あらた)めております。彼女が(いち)神格の存在であったことをお認めくださいませ」

「……それは……」


 不満そうに、ふいっと私から顔を()らすミスティさん。(くせ)なのかな、これは。


 やれやれ、ミスティさんはこういう人だったか。うちには悪魔も居れば魔族も居るし、大きなトラブルにならなきゃいいなぁ。


◆ひとことふたこと


修道服を着ているリーファちゃんですが、あくまでもシスターではありません。

シスターというのは神の伴侶となった存在ですからね。彼女にそんなつもりはないのです(笑)


ミスティのように他所の神を認めないというのは唯一神教において普通のことですよね。

だから古来より宗教間での争いは尽きません。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ