第一〇二話「疑念が私の中で渦を巻く」
兵士さんたちが眠っている間に、私はミスティさんから事情を伺うことにした。陛下からは兵に任せよと言われているけれども、また同じことになってしまっては敵わない。
私たちは仮教会の中に場所を変え、二人で向かい合って座っていた。シスターミスティはと言うと、先程からずっと俯いたままだ。
「単刀直入に伺います。あの兵士の皆様が暴れていた事には、シスターミスティ、貴女が関係していますね?」
「…………はい」
彼女は驚くほど簡単に関係を認めた。やっぱり、この騒動を起こした何者かとの因縁があるのだろう。
「一体、何故あのような事になっていたのか、理由についてお話を頂けますでしょうか?」
「それは…………」
ミスティさんは答えるべきかどうか迷っているようだった。でも、私も村の安全の為にここでは厳しく行かなければならないので、詰問しておく。
「……わたくしは、狙われているのです」
「………………」
狙われている、か。
「貴女を狙っているのは誰か、心当たりはありますか?」
「……はい、悪魔です。一度遭遇した時、アザゼルと名乗っておりました」
やはりそうか。あの悪魔とこのシスターがここで繋がった。
しかし、この神術も使えなさそうなシスターがアザゼルと対峙してよく無事だったものだ。その時は誰かが一緒だったのだろうか? 私がそう思っているだけで、何かしらの力を持っているのかも知れないけれども。
「そのアザゼルという悪魔は、何故貴女を狙っているのでしょう?」
「それは…………」
口ごもり一〇秒ほど躊躇っていたミスティさんだったけど、ふいっと私から瞳をそらした。
「……あの悪魔との関係について、これ以上のことは申し上げられません」
「そうですか……」
うーむ、頑なな姿勢を見せ始めた。こちらに情報を渡すつもりは無いらしい。
ならば話題を変えて、昨日アザゼルが言っていたことについても聞いてみようかな。あの悪魔は試練と言っていたから、そこに何か――
……あの女には気をつけろ。私から言えるのはこれだけだ。
「………………」
「あの……、聖女リーファ? どうかなさったのですか?」
「あ、いえ、申し訳御座いません。少し考え事をしておりました」
首を傾げるシスターに、私は作り笑いを返して誤魔化す。まだこちらの手の内を明かすタイミングではないだろう。
一体、シャムシエルは何に気をつけろと言ったのだろう?
まさか、この人があの三人を操っていたのだろうか? この神に対して真っ直ぐな信仰を向ける彼女が? あり得ない。
けれども……シャムシエルの言う通りに怪しいのには間違い無い。偶然彼女に対して事情聴取をする筈だった兵士の皆さんが操られたとしたのだったら、出来すぎている。いや、逆に、そう思い込ませることも狙いなのか?
「……うーん」
一体、彼女は白なのか、黒なのか。分からなくなってきた。
しかし、彼女の周りで騒動が起きるならば、今回のように誰かが巻き込まれる可能性だってある。何らかの対処は必要だろう。
仕方ない、ここは一肌脱ぐしか無いか。
「あの、シスターミスティに一つ提案が御座います」
「何でしょう?」
手を合わせて私の言葉を待つミスティさん。私は一旦息を吐き、彼女を見据える。
「この先、再び貴女を襲う何者かが現れないとも限りません。いえ、必ず現れるでしょう。その時にこの村が脅かされるのは、わたくしとしては看過できません」
「……はい」
ミスティさんはばつが悪そうに俯く。そりゃね、悪魔に狙われているのはお気の毒だけれども、それで周りが巻き込まれるのは問題だ。
だったら、監視下に置いてしまえばいい。
「これからシスターミスティには、わたくしの自宅で寝泊まりをして頂こうと思います」
「え、ですが、それはそれで聖女リーファ、貴女に迷惑が……」
「いえ、先日申し上げました通り、自宅には結界が張られております。その上こちらには能天使が一人、元御前の天使である堕天使が一人居ります。貴女を守るには十分な戦力ではないかと」
最近のシャムシエルの態度にはちょっと心配だけど、まあ家族を守る為にはちゃんと行動してくれる筈だ。
「そして、シスターミスティの活動には、わたくしもご一緒させて頂きます。勿論、わたくしも普段の仕事が御座いますのでそちらも行動を共にして頂きますが、その程度の拘束は仕方ないと思ってください」
ぽかんと口を開けて私を見つめるミスティさん。まぁそうなるよね。つまり四六時中護衛します、と言っているようなものなのだから。
「……宜しいのですか? 貴女はその、神に仕えている訳ではないのでしょう?」
「神に仕えてはおりませんが、この村には恩が御座いますし、貴女の信念も理解出来ない訳では無いのです。それに――」
私は小さく肩を竦める。
「これも、神のお導きなのでしょう」
◆ひとこと
気を付けろ、と言われた人と一緒に行動するリーファちゃんはお人好しですね~(笑)
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次回は明日21時半頃に更新予定です!