第一〇一話「傷つけずに戦うのは難しいのです」
私とリリがシュパン村に到着すると、広場近くにある仮教会の前では、リリの言った通り兵士さんたちが三人、剣を振り回して暴れていた。見た感じ確かに正気を失っているようで、口からよだれを垂らしている。これは危険だな、怪我人が増えていなければいいけど……。
「リリは安全な所に隠れていてください」
「う、うん! リーファく……リーファちゃんも気をつけて!」
人前なので聖女モードな私に対して呼び方を直したリリが、急いで近くの建物へと駆けていく。
さて、まずは兵士さんたちが正気を失っている原因を探らなくては。
「その流れを我に映せ、〈魔力探知〉」
私は気取られぬように遠間から、ベリアルがそうしていたように魔力片を植え付けられていないか確認する。
でも、魔力片のようなものは感じられない。となれば……
「もしや……薬物……ですか? しかし一体、何故?」
事情聴取の時に無理矢理自白させるために薬物を投与することがあるとは聞くけど、まさか使用の際に自分たちが中毒症状を起こしてしまった? ……いやいや、それは突っ込みどころが多すぎる。
だったらミスティさんも一緒に錯乱状態になっている筈。でもそうでないということは別の理由があるのだろう。
まぁ、今のところは原因を推測しても仕方が無い。とは言え、魔力片じゃなくて薬物となると、混乱状態を沈静化させる神術なり魔術、もしくは薬が必要だ。生憎私は対応する神術も魔術も覚えていなければ薬も持ち合わせていないので、一時眠らせて、後で師匠を呼んで対応して貰うしか無いか。
「こんな事ならラグエル様に教えて頂いておくのでした……って……」
私が神術に長けた御前の天使の一人を思い浮かべていると、三人の兵士さんたちが一斉にこちらを向いた。気づかれた! しかも三人同時に!?
三人はおぼつかない足取りで私の方へと近づいてくる。はっきり言って脅威ではないけれども、なんかコワイ。不死者のゾンビとかこんな感じなんだろうか。
「まあ、昨日の巨人みたいに逃げ回りながら対応しなくても良いので、楽ではありますが……。安らかなる眠りを与えよ、〈誘眠〉」
私の手にしている長杖から魔力の糸が伸びて、三人の兵士さんたちの頭に絡みつく。三人とも眠って――
「ない……? え、効いてない?」
そんな馬鹿な! 三人ともに抵抗された!? ばっちり決まった筈なのに!
「……ん?」
私は〈誘眠〉を掛けてからの三人の表情に違和感を覚え、よく目を凝らして見る。
……白目、剥いてる? なのに私の方へ向かってきている? ということは――
「直接操っているのですか!」
ベリアルは遠隔だったから魔力片のような媒介を要したけど、近くで操るならばそれは必要無いのだ。気づかなかった!
咄嗟に私は辺りを見回し、彼らを操る何者かの存在を探す。が、そんなに分かりやすい場所に居る訳も無いので見つかる筈も無い。
ならば、無理矢理にでも術者を辿ってやる。
「ふっ――」
私は右手で杖を翳し、近づいてきた兵士さんたちの一人が振るった剣を受け止める。へろへろな太刀筋なので受けるのは容易い。
とは言え三人も居るので、避けきるのは難しい。一人の剣が右肩を掠めた。痛いけど我慢だ我慢!
私は肩の痛みに構わず、空いている方の左手で相手の頭を掴んだ。このまま術を解析してやる! ……って、あら?
「……術を切りましたか」
私が解析しようとした瞬間、術者は兵士さんたちへのパスを切ったらしい。三人はバタバタとその場に頽れた。
「単純ですが、恐ろしい手でした。しかし――」
この村に、人を操る何者かが潜り込んでいるということか。
「お怪我をされているようですね」
「……え? あ、シスターミスティ……」
終わったと思ったら、すぐにミスティさんが布を片手にやってきた。タイミングが良すぎるし、ずっと見ていたのだろうか。
それとも、このシスターが……?
「動かないで下さい。今手当てをいたしますわ」
「……大丈夫です、それより神父様は……?」
「大事ありません。軽傷ですわ。既に手当てを済ませております。他に怪我をされた方もいらっしゃいません」
「そうですか……、良かったです。しかし、一体これは誰が何のために……?」
「………………」
ミスティさんは私の言葉に対して、何処か申し訳なさそうに俯いてしまった。やはり、このシスターには何かの事情があるようだ。
「シスターミスティ、ひとまずこのお三方を介抱してから、貴女にお話を伺っても宜しいでしょうか?」
彼女は何を言うこともなく、辛そうに頷いただけだった。
◆ひとことふたこと
直接操作と遠隔操作とでは、方式が異なります。
直接だとコードが付いている状態、遠隔だと無線デバイスがついているような状態でしょうか。
流石にリーファちゃんもミスティに疑いを持った模様。
果たして真相は?
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次回は明日21時半頃に更新予定です!




