第一〇〇話「明日は一日魔剣が降るでしょう」
100話到達です!
日頃よりお読み頂き感謝申し上げます!
しかし100話目にしてこのタイトルである(笑)
先日、うちの家はリフォームを完了し、やっとサマエルさんとシャムシエルの部屋も出来た。ドワーフの建築士さんたちが来ている間、私はずっと聖女モードで過ごさなければならなかったので窮屈だったよ。
アンナも「自分の部屋が欲しい!」と言ったので用意はしてあるものの、母さんは「まだ早い」と言って与えておらず、変わらず母さんの部屋で過ごしている。まぁ、まだまだ母さんや私に甘えているのでもう少しの間はこれでいいのだろう。
さてアザゼルと対峙した翌日、珍しくシャムシエルは「今日は仕事を休む」と言って自分の部屋に引き籠もってしまった。あの生真面目な天使がサボりとか、今日は槍どころか魔剣が降ってくるんじゃなかろうか。
「シャムシエルさん、心配ねぇ」
「……そうだねぇ」
私は母さんの仕事部屋で薬の調合の手伝いをしながら、ぼんやりと昨日、一昨日のことを考えていた。
シャムシエルが何やら私たちに言えない事情を抱えているのは分かる。そしてそれが、ミスティさんに関することであることも。
しかし、あのシスターに一体何があるというのだろうか? ちょっと他の人より神に対して敬虔というだけで、普通のシスターに見える。そんな彼女を、シャムシエルは気をつけろと言っていた。
……まさか、あのシスターもアザゼルの仲間の悪魔? いやいや、だったらシャムシエルが話せない理由など無い筈。それに神に対して敬虔な悪魔とか訳分からん。
「リーファちゃん、上の空ね。調合の時にそれは危ないわよ」
「……ごめん」
母さんの言う通りだ。調合では危険もあるのだから、ぼうっとしていたら死ぬ可能性だってある。まぁ今作ってる薬の調合でそんなことは無いけど。
「シャムシエルさんとミスティさんとの間に何があるのか、確かに気になるわよねぇ」
「うん……」
昨日の巨人の死霊、そしてアザゼルという悪魔の襲来については、母さんだけでなく陛下にも報告している。そしてミスティさんのこともだ。陛下からは「ベンカーから兵を向かわせるのでその女をまだ問いたださなくて良い」と聞いている。そういう筋のプロに任せろと言うことなんだろうな。
「今頃は兵士さんたちが事情聴取してるのかな」
「恐らくねぇ。一体全体、どういう事情があるのかしら……と、あら? 結界内にお客様ね。リリちゃんかしら」
「あ、私が出るよ」
作り方を教わるために手伝いこそしていたけれども、そもそもこの薬は母さん一人でも調合出来るものだ。なので私は手が離せない母さんに代わり、リリが来るであろう玄関の方へと向かった。
「アナスタシアさん!」
と、私が玄関に向かう前に、私の幼馴染であるハーフエルフの少女リリが血相を変えて飛び込んできた。なんだなんだ。
「リ、リリ? どうしたの?」
「リーファくん! 村に来た兵士さんたちが大変なの!」
え、それってシスターの事情聴取に来た兵の皆さん?
「大変って、どう大変なの? 落ち着いて」
私が肩を掴んでリリを宥めると、彼女は小さく深呼吸し、真剣な表情で私を見つめ返した。その間に一区切りついたのか母さんもやって来る。
「教会に来た兵士さんたちが、突然暴れ出して……、デニス神父も怪我をしてるの。私は急いでアナスタシアさんに知らせるよう、お母さんに言われて……」
兵士さんたちが、暴れ出した?
それは明らかに正気を失っているだろう。小さいとは言えカナン神国がバックに居る教会に対して狼藉を働くとか、正気の沙汰では無いからだ。
「……分かったわ、リリちゃん。だけど今丁度薬の調合をしていて、手が離せないの。だから――」
「うん、分かってる。リリ、私が行くよ」
私はすぐに準備を整えると、リリと一緒にシュパン村へと出発した。
◆ひとこと
リフォームの間、ドワーフの建築士たちは毎日朝から夕方まで建て替え工事をしていました。
そのためリーファちゃんは聖女モードを続けて気疲れしていたようです。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!