~第6幕~
目を覚ますと、ドアをノックする音が聴こえた。
ついそのまま「どうぞー」と返事を返した。
部屋に入ってきたのは金尾だ。
「金尾さん……」
「高橋さん、もう大丈夫?」
「いや、さすがに大丈夫なんて言えないですよ……」
「無理もないわよ。強烈だったでしょうからね……」
「磯部君はあのまま誰かに食べられちゃうのです?」
「いいえ、生まれ変わるのよ。新たな“磯部大志”としてね」
「それどういうこと?」
「貴女に会わせたい人たちがいるわ」
「私に?」
「貴女って両親を探しに来たのでしょう?」
「はい……そうですけど……」
「貴女って鹿児島出身よね?」
「はい、何でそれを?」
「彼らがそう話しているから」
「!?」
「来るでしょう? 本当なら」
ここまでの話を聞いて摩耶子は動かずにはいられなくなった――
伊丹は牢屋のような所に閉じ込められていた。尿意を持ってしまったのだが、ここでしてもいいものだろうか? すぐ近くにいる看守に尋ねてみた。
「なぁ、トイレがしたい。ここでしてもいいのか?」
「ここでするダ? 何をダ?」
「トイレだよ、トイレ! あ~小便! 小便だ!」
「しょっぺ? そらぁ、此処じゃだめダ!」
「じゃあ、する場所を教えろ!」
「だ~もう! ついてこいダ!」
明らかに年寄りの看守だ。この館に居る者は大半が高齢者。束になれば敵いもしないが、一個人対一個人となれば話は別だ。素手喧嘩で充分に勝てる。
伊丹は看守とともに外へ出た。雪は積もっているものの、なかなか広い広場だ。彼は小便をすぐに済ますと、その場で看守の老人の頭を殴って走り去った。
すぐに「逃げたぞ!!」と看守の声が響く。
この先に塀は見えない。森の中に入れば何とかやり過ごせる。そこからはどうにか考えてこのエリアを抜け出そう。そう考えて必死に息を切らして走る彼ではあったが――
ドン!
ドスの効いた大音とともに右足に激痛が走る。見ると片足が粉砕されていた。彼は撃たれたのだ。鞠句会の老人の扱う猟銃によって。
足音が聴こえる。ズシン……ズシン……と重く。どうやら複数の人間がこっちへと向かっているようだ。
「コイツが俺の頭を殴りやがったダ」
「そりゃ~オンメ~の不注意ダロ?」
「おい、そのブツ貸すダ」
「どうするダロ?」
「俺の頭痛を、倍返ししてやるダ!」
痛みに喘ぐ伊丹もさすがに黙ってはいられなくなった。
「おい! 待て! やめろ! もう逃げたりはしない! 殴ったりもしない! 頼むから命だけは助けてくれ! お願いします! お願いしますぅ!!」
看守だった老人はニヤつく。そしてその何発もの銃声が寒空へ響き渡った――