~第5幕~
笠松達は食事があるというので、食卓へと向かった。そこでは色鮮やかな刺身の数々に加え、豪華な御馳走がずらりと並んでいた。この食卓はとても広い。笠松一行のみならず祭典の参加者全員が集っているようだ。
祭殿と思わしき最前列中央の席に色鮮やかな装束を纏った婦人が登場し、杯を掲げた。すると、会場にいる参加者の者達が彼女に合わせるように杯を掲げる。笠松達も遅れるようにしてそれに合わせた。
「純愛なる同志の皆様、寒い中ようこそお越しくださいました! 鞠句会会長、鞠句真澄です! 皆様のお蔭でこの冬も素敵な祭典を開く運びとなりました! ユバ様もさぞお喜びになることでしょう! この冬が開けて、そして春となり、新たな命が芽吹くことをユバ様の御心と想い、乾杯とさせて頂きます! 乾杯!」
会場中に「乾杯!」という声が広がった。
飲むとそれはいかにも濃厚な日本酒のようだ。「おい、学生達に未成年はいないよな?」と笠松が伊丹に尋ねた。「はい、皆成人済みである事を確認しています。あ、でも、そういえば磯部は今日が誕生日で二十歳になります」と伊丹が即答をした途端、伊丹の表情が変わる。そういえば会場に入ってから彼の姿がない。
笠松が「磯部君は?」と彼の身を案じた時に祭壇前でまた鞠句が現れた。
続いて色鮮やかな衣装の金尾と純白の衣装に身を包んだ磯部が登場した。
「磯部!?」
思わず拓哉が声をあげるが磯部は無表情のままだ。しかし彼は声をはりあげるようにして会場中へスピーチした。
「私はこの時を待っていました! この世に生を授かり、この素晴らしき人間の生涯を全うしたことをユバ様に感謝します! そして皆にその証を残します!」
老人の役員達が大皿に酒を盛る。それをゆっくりと磯部は飲み乾した。
役員達が去ると、磯部は呻き声をあげてのたうち回った。
大声をあげて磯部を救おうと乗り出した伊丹と拓哉は、その場で複数の参加者らに取り押さえられた。
異変はまだ続く。磯部はその皮膚を鱗のような状態に変え、そして体が溶けるようにして変形した。そして大きな蛙となった。
彼の変身が終わると、会場中は皆が両手をあげて拍手を送る。この地獄絵に耐えられない羽田は絶叫して会場を出る。笠松と長門、摩耶子は茫然としたまま。
再び20人ぐらいの役員が現れる。10人は巨大な鍋を運んで、10人は磯部だった巨大な蛙を取り押さえて、鍋へと放り込んだ。
さらに拍手が増す。この奇抜すぎる光景にとうとう長門は嘔吐してしまった。摩耶子はそれを介抱しようとするが、溢れる涙が止まらなかった。
祭壇前では鞠句が登場して「会場の一部で騒ぎが起きているようですけど」と前置きしつつも、再び乾杯の祝杯をあげた。
あれからどれだけの時間が経っただろうか?
長門を笠松と一緒に彼女の部屋のベッドまで連れてゆき、笠松と少しやりとりして部屋に帰ってきた事は覚えている。が、余り記憶に残ってない。そういえば取り押さえられた拓哉と伊丹はどこかへ連れ去れてしまったが……どうなったか。
もう放心状態で何が何だかわからなくなっていた――