~第1幕~
高橋摩耶子は九州地方の田舎町で生まれ育ち、人並みに生きて育った女子大生だった。特に成績が飛び抜けて優秀でもなければ不出来でもない。何か特別にやっていたかと思えばそうでもない。特に何かを習っていたワケでもなければ、部活もしてない。何となく気の合う友達と青春を過ごし、家族と旅行してはしゃぐ時もあった。
彼女の地元は彼女が現在居住する千葉から遠い鹿児島の田舎町だ。地元に帰るのもお金が掛かるということで「昨年は帰らなかったけど今年は帰ろう」と思った矢先だった。
彼女の両親は行方不明になったのだ。北海道のとある地域へ夫婦で旅行すると言ったきり。音信不通となった。行方不明となってもう3カ月は経つ。
最近になって摩耶子にも彼氏が出来た。野坂拓哉という同学年の男子だ。その彼と話をして両親に紹介する話もしていたところだった。
そしてここにきて妙な都市伝説が世に囁かれている。北海道の針九里村という村にて世にも奇妙な祭りが行われると言う話だ。しかし参加した者は二度とそこから帰れないという。いかにも誰かが思いつきそうな怪談話だ。
しかし摩耶子はその話が妙に気になってしまった。そしてそれは身近な者から聞いた話とリンクしたのだ。
「北海道のその村に行くって本当?」
「妙なトコにくいついてくるなぁ~」
「うん、だってその村の名前、私の両親がメモに書き残していたから……」
「え? それってマジかよ?」
「ほら、スマホに残っている」
摩耶子は彼氏の拓哉へ彼女の両親が残したメモをみせた。そこには確かにこう記されていた。『北海道の針九里村という村にいってきます』と。
「このメモを見つけたのは警察の人なのだけどね、このメモって……私に対して書いたものなのか、誰に対して書いたものなのかわからないの」
「……これが本当にそうなら、俺のゼミ生じゃないけど俺らの先生は間違いなく君に興味を持つと思う。それにしても、奇妙だな。摩耶子が自分で書いたとかでないよね?」
「ごめん、冗談でも本気で怒るよ?」
「わかっているって……じゃあこの画像を後で俺のスマホにも送って。先生にも伝えておくよ。俺のゼミ旅行がまさか摩耶子にも絡むとはなぁ」
「嬉しくないの?」
「え? いや、そんなことはないよ! ほら、おいで」
拓哉は摩耶子をそっと抱き寄せた。11月もそろそろ終わる関東地方はどこか寒い。彼女は彼の優しいエスコートに純粋な気持ちで引かれていた――
拓哉は笠松教授の民俗学懐疑をテーマとしたゼミの一員であった。笠松のゼミでは、ゼミ生である磯部大志が北海道奥地の出身で針九里村と言われそうな村に心あたりがあると話し、それが元で北海道奥地への旅行を敢行することとなった。その話を恋人である摩耶子に話したこと、それもまた運命だったのか――