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~最終幕~

 広場は混乱に見舞われた。どうやら笠松が羽田処刑の時に壇上へ乗りだそうとして役員に拘束されたみたいだが、この混乱に生じて逃げだしたようだ。



 銃声は続く。その凶弾は鞠句会の人間を容赦なく撃ち続けた。だが摩耶子にはその狙撃犯が見える。



「貸しなさい!」



 彼女は老人の役員から猟銃を奪い取ると、すぐに標準を定め発射した。



「ごめんなさい。長門さん」



 館の窓から狙撃していた長門美千瑠は摩耶子の狙撃を喰らって敢え無く死んだ。摩耶子の目から涙がポトリと落ちる。どうやら彼女に感情移入していた自分でもあったようだ。しかし零れた涙はたったの一滴。それ以上はない。



「高橋さん! 大丈夫!?」



 金尾が摩耶子に駆け寄る。摩耶子は金尾の胸に飛び込んだ。そして――



「がっ!? ごれは!?」



 金尾は胸に刃物を突き刺されていた。



 すかさず摩耶子は金尾の胸や腹を複数刺した。そして倒れ込む金尾の頭を踏みつけて言い放った。



「これは私たち家族を巻き込んだ報い。そして貴女じゃ何にもならなかった証よ。貴女のような役にも立たない屑はもう舞台に立たなくていい。私が本物の女王となる。それをそこで見ていなさい」

「この……この恩知らずがぁ!!」



 摩耶子は金尾の顔面を蹴った。間もなく金尾は息を引き取った――




 混乱が落ち着き、人々が広場に集まる。丸谷がアナウンスを入れてく。こんな状況にも関わらず鞠句祭は継続されるらしい。



 摩耶子はテントの中で丸谷の息子と話を交わした。



「それで女王陛下は何と言っていたの?」

「ユバに裏切られた」

「ユバ様にだと!?」

「私はそれが許せなくて……つい……私は断罪されるの?」

「本当ならそうだろうが、ユバ様はここに向かっている。今ここで舞踊ができるのは君しかいない……君が女王陛下の替わりとなって一人で踊るしかないだろう。それで頼めるか? それを担ってくれるのなら、情状酌量の余地はある。ユバ様でもきっと慈悲を以て御許しにはなられる。それで受けて貰えるか?」

「舞踊をしてもいいのですか……? それで大丈夫なのですか……?」

「ああ、だが優秀な付き人をつけよう。舞踊ができるワケではないが、サポートとしてならばきっと君を支えてくれる」



 摩耶子の賭けは成就した。彼女は俯きながらも嗤っていた――




 暫くして恰幅のいい婦人が摩耶子の元へとやってきた。福沢という婦人だが、話す言葉に訛りはない。また愛想も良くて気持ちが和らぐようだ。



「素晴らしいわ。私が何もサポートしなくても貴女ならできる」

「本当ですか!? 嬉しいです!!」

「もしかしたら女王様はこんな貴女に嫉妬したのかもしれない」

「そうですか……だとしたら残念です」

「少し気になったことがあるのだけど、いいかしら?」

「はい?」

「貴女ってユバ様を見たことはあるの?」

「いいえ。ないですよ」

「そう……ユバ様は人智を超える生物でいらっしゃるわ。でも敬意を以て踊ってちょうだい。決して蔑んで恐れ慄く事のないようにね……」

「ええ、でも心配しないで。女王から全て聞いてはいます」

「貴女って頼もしいのね。宜しくお願いします。女王代理」




 そして再び広場で合唱が始まった。雪は激しく降り始めている。しかし誰一人帰ろうとする者などいない。鞠句の替わりに福沢が指揮を執る。そして摩耶子が壇上で歌に合わせた舞踊をしてみせた。



 焚火の前方に巨大な鍋が設置される。その鍋の中にはこの祭典の期間中に命を落とした伊丹、拓哉、羽田に長門、そして鞠句や他射殺された者の遺体が入って煮込まれていた。金尾の遺体もそこに例外なく入っている。また大きな蛙らしき遺体も3匹ほど。これをユバという生物に貢のだろうか?




 やがて遠方から何かの物体が見えた。それは巨大な蟲というべきか? 泥状のダンゴムシと言っていい7~8メートル大の生き物がやってきた。物体が焚火の近くにくると何十人もの役員達が物体の中へと煮込んだ遺体を放り込んだ。



 放り込まれた遺体はものの数分で裸になって吐き出された。その身体に損傷は全くなくなっていた。まさに「蘇生の儀」そのままである。



 摩耶子は微笑みながら舞う。気持ちいい。爽快。そのままに。



 踊らされるぐらいなら踊ってやれ――



 この異様なる景色を味わって狂喜乱舞し続けるのだ――




 笠松は鞠句館から遠い森の中へと逃げ込んだ。民族衣装でありながら、だいぶ着込んでいる状態だ。どこかで身を隠せれば、この極寒の中でもやりきれないということはない。そう思って寛ぎ始めたところ、背後から物音がした。それから前後左右それぞれ聞こえ始める。人間の足音ではない。



「おいおい……マジかよ……」



 笠松は十匹近くもの熊に囲まれていた。



 心なしかどの熊も嗤っているように見えた。そして彼は彼の最後を悟った――




 笠松ゼミの北海道旅行は1週間で終わる。笠松を除いた面々が何事もなかったかのように千葉の大学で各々の学生生活を過ごす。笠松は「探検しに行くよ」と言って出掛け、そのまま行方不明になったとされた。熊にでも襲われて食われてないといいが……と面々は心配しているが、誰も真実を知らない。ただこれまで通りの生活を続けている。



 しかし変わったことといえば「マユーバの会」という新興宗教組織のトップに一人の女子大生が就任する事となった知らせだ。この女子大生こそが高橋摩耶子という女子であり、ゼミとは無関係ながら笠松ゼミの北海道旅行に随行した者だ。そしてこの旅行に参加した学生達は皆「マユーバの会」に漏れなく入会している。



 そもそも笠松ゼミの旅行には不審な点がいくつかあった。その端的なものが、旅行に同行した金尾真知子という女だ。彼女はマユーバの会の前代代表を務めていた人間であり、北海道足寄町の地域振興課役員を詐称して笠松ゼミを足寄町へ呼び込んだとされている。



 笠松ゼミは笠松教授の行方不明だけでなく、こうした不可解な行動をとっていたことが判明した為に事実上解散となる。将来教鞭をとろうとしていた伊丹は急転直下で民間会社に就職し、またマユーバの会へ入会すらしている。その会社こそマユーバの会で重鎮を務める鞠句真澄が社長の株式会社マリクリ・ブランドだ。そしてマユーバの会の初代代表は彼女であったが、誰もこれを知らない。



 全てが全て何者かの思惑通りに動いているようだった、



 翌年の12月16日、千歳空港には約30人もの若い学生達が集まった。それを笑顔で出迎える高橋摩耶子を中心とした鞠句会の一行。



「どうも! 初めまして! 鞠句会役員の丸谷と申します! 鞠句会にご参加を頂けるとのこと、大歓迎を致します。3日間の短期間になりますが、どうぞこの期間限定の空間をお楽しみください! 我々はホストです! 何か申し出あれば、何なりと申し上げください!」



 摩耶子は微笑む。その内に秘めた狂気とともに。



 誰も真実を知らない。そして冬奇祭が滞りなく行われて、人々はまたも知らず知らずのうちに浄化されていくのだ――



∀・)『冬奇祭』最後までお付き合い頂き、まことにありがとうございました。最後の最後まで気味の悪い話になったんじゃないかと思いますが、読んで貰った人を不安に出来たら僕の勝ちです(笑)冬ホラー2020、他作品もぜひチェックしてみてくださいね★

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― 新着の感想 ―
[一言] 冬奇祭、コワイ……((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル 人間の心の闇と言いますか、猟奇的なお話というだけでなく、異界とかSFの気配もあって、薄ら寒い感覚が読後もずっと続くようなホラーでし…
[良い点] いえいえ! 気持ち悪いとかそんなことではなく、単に 「自分も彼女と同じで感情移入している」のか「自分は(一方的な目線で)彼女に感情移入している」のか自分にはちゃんと読み取れなかったというだ…
[一言] お疲れ様です。 ご回答ありがとうございました。 >どうやら彼女に感情移入していた自分でもあったようだ この文章自体は誤りと思ったワケではなく「どうやら~自分でもあったようだ」という繋がりが…
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