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第一章 その8 復讐の完了と撤退の選択

「うーお尻ちべたい」

「じゃあ何でそんな事をしたんだ」

「いや、ちょっと格好つけようかと」

「その所為で逆に格好つかなくなってるだろ」


 アオイが尻をさすりながら氷の椅子から立ち上がる。


 見栄え重視で、実際にやればどうなるか考えていなかったらしい。


「それよりも首尾はどうなの?」

「問題なく片付けた」

「ほうほう、褒めて遣わす」

「そりゃどうも。そんでコイツの正体は?」

「どこぞの誰かに雇われた暗殺者。つまり同業」

「……なるほど。それでまだ生きてるのか?」


 ジェンは氷で壁に貼りつけられている仮面の暗殺者へと視線を向ける。黒髪の人物は顔に仮面をつけ給仕服を身にまとっており、廊下の隅には見覚えのない短剣が二本落ちていた。


「もちろん生きたまま捕らえてるわよ。一応情報は欲しいしね」

「その割には全く生気が感じられないんだが……」


 ジェンは無造作に暗殺者に近づくと、そっと仮面に触れた。すると仮面はあっさりと外れ、その下の顔が露わになったのである。


 顔色は土気色。瞳孔は開ききり、舌をだらしなく口の外へと露出させていた。


「どう見ても死んでるぞコレ」

「えっ? うそっ!」


 アオイが慌てて暗殺者を確認するが、男の呼吸は間違いなく止まっており、ジェンの見立て通り死んでいた。


 余裕だったアオイの顔が一気に険しいものへと変化する。


「どういう事なのかな?」

「何が?」


 不思議そうな声を上げるアオイにジェンが問い返す。


「確かにコイツをこうしたのは私なんだけど、あくまでも動きを封じる為であって殺してない」

「となると……コイツは最初から死んでたって事になるが?」

「……っ! ターゲットの首は?」

「えっ?」


 アオイが慌てた様に動き出した。パーティー会場の扉付近にあるはずの、最初に暗殺者が放り投げたターゲットの首を探すためだ。


「やられた……」


 アオイは悔しそうに呟いた。彼女の視線の先は床に向かって伸びており、見つめる先にはターゲットの首が落ちている。


 綺麗に縦に真っ二つに割れて頭が半分だけになっていた。


 どこを探しても落ちているのは半分だけであり、もう半分は周辺には見当たらないのだ。


 つまりそれは……


「持っていかれたって事だな」

「そうね」

「でも出入り口はここだけだろ? 一体どこへ?」

「厳密に言えばここだけじゃないわ。もう一つある」


 そう言ってアオイは部屋の中央を見た。そこにはポッカリと開いた穴があり、さっきまでジェンが魔獣と戦っていた場所へと繋がっている。


「……子供たちを移動させてきた地下の通路か! 俺が上に戻ったタイミングで入れ替わりに下へと移動したのか?」

「ええ多分ね。そうやって逃げたんだわ」

「追うか?」

「やめておきましょう。向こうも追われたくないから頭を半分だけ残したんでしょうしね」


 一応今回の復讐代行において主導権はアオイにある。彼女が追わないと判断した以上、ジェンもそれに従う事にした。


 と、そこで現場を見渡していたジェンはある事に気が付いた。


(こんな凄惨な現場を作った奴が、子供たちのいたあの舞台を通っていった?)


 ジェンの背中を冷たい汗が伝い落ち、すぐに部屋の中央へと向かう。


 穴の上から舞台を覗くと、子供たちは全員が無事だった。舞台の壁にある扉が開いており、暗殺者の姿はどこにもない。


「アオイ、先に下に行くぞ」

「わかった。私も撤収の準備ができたらそっちに行くわ」


 ジェンはアオイの了解をとると、再び舞台の方へと飛び降りた。


 音もなく舞台上へ着地するとそのまま子供たちの元へ歩いて移動する。


 子供たちは、突然現れたジェンに一瞬驚いた様だが、すぐにさっき自分たちを助けてくれた人物だと気が付き、安堵した様だった。


「確認したいんだが、誰かそこから出ていったか?」


 念の為、ジェンは子供たちに暗殺者の事を問いかけてみた。


 だが子供たちは全員が不自然に動きを止め、そろって首を横に振る。


(これは口止めされたな)


 これ以上の情報は出ないと判断したジェンは、詮索を諦める事にする。


 それと同時に丁度アオイが上階から舞台へと降りてきた。すぐにジェンの傍へとやってくると小声で耳打ちし始める。


「(何だか外が騒がしくなってきてる。多分警備局だと思うから、ややこしい事になる前にここを去りましょ)」

「(警備局って、いくら何でも早すぎないか?)」

「(情報にない取り決めが警備局と主催者の間であったのかもしれない。まあ、あくまでも想像だけど)」

「(じゃあこの子らはこのままでも大丈夫かな?)」

「(地下人じゃないなら大丈夫だと思うけど……)」


 ジェンとアオイは子供たちの方へと視線を移す。七人いる子供たちのうち、間違いなく地下人なのは一人。ドミという男の子だけ。


 それ以外の子たちも服装がかなりみすぼらしく恐らく地下人だと思われる。仮に地上人だとしても「半地下」と呼ばれる、いわゆる貧困層なのは間違いないだろう。


「(どうする?)」

「(アンタが考えなしに助けようって言うからでしょ)」

「(あ、ズルい! そっちだって同意しただろ?)」

「(その後にどうするかくらいは考えてると思うじゃない!)」


 アオイの指摘通り確かにジェンには考えがなさ過ぎた。こんな場所に連れてこられて魔獣の餌にされそうになっている時点でこの子たちは世間から見捨てられたも同然なのだ。


 そもそも、このパーティーの存在が知れたのは、前回生き残り見世物にされた殺されたという子供が観光に来ていた別の町の上流地上人の子だったから。護衛からはぐれて一人でいたところを人攫いにあい、このパーティーに参加させられたのだ。


 そこでその子がキメラマイマイに食われていれば、この集いが露見する事はなかっただろう。だが前回は珍しくキメラマイマイが全ての獲物を食い殺さなかったのだ。


 キメラマイマイに手足を溶かされ、さらに毒で喋る事もできなくなった子供はその後、別の人間たちの手により残酷なショーで命を奪われた。その時に記録された資料が偶然親の手元に届き、その結果復讐を依頼されたのである。


 子供の命を直接奪った連中の元へは、既にジェンの仲間が向かっている。復讐の依頼自体は今日中にでも恙なく終了するだろう。


 ジェン達も当初の目的は既に達成している。


 本来は救う予定のなかった子供たちを助けた事で余計な荷物を背負ってしまったのもまた事実であり、今後の事を選択しないといけない。。


 残された時間が刻一刻と減っていく中、ジェンは決断を迫られるのだった。


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