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第二章 その18 報復の弾丸

 コクローが聖堂へと足を運んだ理由は情報を得るためだった。


 スミカの行動を注視していたコクローは、聖堂にある復讐代行の情報機関にヴィレーたちの情報収集を依頼していたのだ。

 本当はヌローワに使いを頼もうと思ったのだが、彼女は何故かジェンと出かけてしまっていて仕方なく自分で足を運んだのである。


「全く、裏の方の人手不足はどうにもならんな」


 聖堂の裏口から出てきたコクローは手に持っている二枚の紙を見ながら独り言ちる。

 一枚は頼んでいたヴィレーの情報、もう一枚は復讐代行の依頼だった。


 情報機関の担当者から丁度つい先ほど入った依頼だと手渡されたのである。


 依頼書に記載された標的を確認してコクローは少し苦い顔になった。

 どうにも覚えのある連中が復讐代行の対象だったからだ。


「因縁ってやつは巡って最後は自分に返ってくるもんなのかね……」


 本来ならこの件は部下に任せたい仕事ではあるが、どうも運命じみたものを感じ取ってしまった。

 日が暮れて周囲が少しずつ暗く染まっていく中、コクローは標的のいるという繁華街の外れに向かったのである。


◇◇◇


 ディンバイの飲食店が建ち並ぶ繁華街から色街へと続く道を四人組の男が歩いていた。


 既にいくらか酒が入っている様で全員が大声で喚きたてながらフラフラと蛇行している。


 色街が本格的に混みだす時間よりかなり早いので周囲にあまり他の人影は少ない。

 それよりも彼らの姿を見た町の人々が逃げ出しているというのが正しい。


 下手に何か絡まれでもしたら、ただでは済まないのを繁華街の住人はよく知っているのだ。

 それ故に誰も彼らに近づくものはおらず、四人組は我が物顔で道路の真ん中を闊歩している。


 なぜなら四人組の男たちは全員が警備隊の服を着ており、この辺りでは『最悪の四人組』という悪評が轟く非常に有名な連中だからである。


 更に言うと『最悪の四人組』とは魔獣狩りの屋敷に乗り込んできた連中の事だった。


「まったく、あれはいったい何だったんだ!」

「確かに撃ち殺したはずだったのによお!」

「そうだぜ、あの気持ち悪い感覚、思い出すだけで腹が立つぜ!」


 四人組のうち、三人が大声で愚痴っている。

 残った一人は黙ったままで、三人の愚痴を聞きながら歩いていた。

 他の三人に比べて明らかに冷静さが見て取れる。


「お前ら、つまりそれは幻覚を見せられたって事なんじゃないのか?」


 黙ったままだった一人が足を止めて、三人に向かい問いかけた。

 あの時、ただ一人状況を外から見ていたリーダー格の男だ。


「幻覚だって?」

「なるほど、そう言われれば……」

「魔獣狩りには不思議な術を使う奴がいると聞いた事があるな」


 リーダー格の男の問いかけに三人は納得したかの様に口々に喋り始める。


「だとしたら、奴は我々エリートの警備隊員に向かって無礼を働いたことになるだろう?」


 そんな三人に言い聞かせながらリーダー格の男が煽る様に言う。


「確かに……」

「先に仕掛けたのは奴だな」

「ああ、だからこそ俺たちは銃を使ったと言える」


 三人はお互いの顔を見合いながら合点のいった表情へと変化した。

 空気の変化を感じ取ったリーダー格の男は改めて他の三人に対し宣言する。


「つまりだ、あの男は――いや、魔獣狩りの連中は俺たち警備隊に対して戦争を仕掛けたって事になる。ならば今晩、アイツらに対し先制攻撃するのはどうだ?」


 リーダー格の男の発言内容は完全に訳のわからない論理だった。

 だがその発言を聞いた三人は、何故か自分たちの正当性を確信したらしく互いが好き勝手なことを喋り始める。


「素晴らしいアイディアだ!」

「まさか奴も今晩、いきなり襲われるとは思っていない筈だしな!」

「そういえば、あの屋敷には何人か女がいたよな?」

「確かにいたぜ。これから女を抱きに行くつもりだったが、それは必要ないんじゃないか?」

「男は血祭りに、女は犯した後にぶち殺す」

「警備隊に楯突いたらどうなるかの見せしめだな」


 仲間の発言を黙って聞いていたリーダー格の男は邪悪な笑みを浮かべた。

 あの時、一番プライドを傷つけられたのは彼だったからだというのも多少はある。


 だが実は男が仲間を煽る一番の原因、真相は違う。


 未だに警備隊の本部に戻らず、こんな場所に飲みに来ていたのは、彼が副支部長から受けていた密命を果たせていないからだ。

 数日前に極秘裏に副支部長から魔獣狩りに対して何らかの弱みなり情報なりを持って来いと言われていた。

 だから色々と準備をして魔獣狩りの使用する屋敷まで乗り込んだのに、部下の三人の暴走の所為で追い返されてしまったのである。


 このままでは自分は失敗の責任を取らされてしまう。

 それだけは絶対に許せなかった。


 だからこそ今度はコイツらを囮にしてでも、どうにか密命を果たさなければならない。

 それが出来れば自分はこんな奴らを置いてまた一つ上へと出世できるのだから。


 そんな理由があり、魔獣狩りの屋敷を退散した後に彼らを食事に誘い、一服盛ったのだ。

 冷静さをなくして暴力的な心を増幅させるという非合法な薬を。


 完全に準備は整っていた。

 後は、再び魔獣狩りの屋敷へと乗り込むだけ。


 リーダー格の男がそんな事を考えながら、他の三人を見ていた時だった。

 彼らに対してどこからともなく湧き上がってきた黒い靄が纏わりつくのが見えたのである。


(なんだアレは?)


 ふと、疑問を浮かべたリーダー格の男は黙ってその様子を眺めてしまった。

 その結果、直後に起きた事を止める事ができなかったのだ。


 それは唐突な出来事だった。

 突然ヒートアップしていた部下たちが銃を抜いたのである。


「この銃で、今度こそあの男を!」

「ああ、そうだ! アイツの頭を!」

「こうやって撃ち抜いてやるぜえっ!」


 口々に喚きながら三人はそれぞれが仲間に向けてお互いに銃口を向けあうと、同時に引き金を引いたのである。


 渇いた銃声が響いた。


 お互いに頭を撃ち抜きあった三人は、一瞬にして物言わぬ骸となり、ドタリバタリとその場に崩れ落ちていく。


「え?」


 状況が把握できず、リーダー格の男は啞然としたまま、その場で立ち尽くす事しかできなかった。


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