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第二章 その9 再会

 ジェン達は襲撃者を撃退後、袋小路の空き地から移動して町の郊外を目指すことにした。


 町の中心から少し離れた場所にジェン達の住む魔獣狩りの組織の屋敷が存在しており、一時的にスミカをそこに匿う事にしたのだ。合流したアオイも状況が状況なので渋々了承し、尾行を警戒して彼女とは一旦その場で二手に分かれる事にした。


 そんな訳で無事に屋敷にたどり着き、ジェンはちょっとばっかし汚れた汚嬢さんスミカを連れて屋敷内を歩いていた。


 屋敷の管理と維持は雇われた人間に任せられており、それがヌローワやクヨリなどで、それ以外にも多くの人たちが働いている。因みに雇われの人たちはほとんどが何らかの訳アリで、屋敷内ではお互いの素性を詮索しないのが暗黙のルールになっていた。


 なのでここに魔獣狩りの関係者以外が出入りするというのは、そんなにある事ではないのだが入り口からここまですれ違った使用人は見事に全員がスミカの事をスルーしたのだった。


 とはいえ、もちろん全員がそう振る舞うことはなく、汚れまくっている人間をスルーできない使用人もいる訳で、その人物がジェンを見つけ声を上げたのである。


「コラーッ! 何か異臭がすると思ったら、ジェンさんコレは何事でおじゃるか!」


 急ぎ足でジェン達の元にやって来たのは黒髪のおかっぱ頭にヘッドドレスを着け瓶底眼鏡をかけたメイド、ヌローワである。


 廊下の向こう側から慌てた様子でやってくると、スミカを見ながら説明を求めてきたのだ。


「ただいま、ヌローワ。買い物に行ってきたぞ」

「おかえりなさいでおじゃるって、そうじゃなくて、メモにないものを買ってきても困るでおじゃるよ!?」


 律儀に挨拶をしてからヌローワはスミカを見ながら言った。


「いやいや、この人は違うから。俺が人買いなんてするかよ」

「買ったのではない? じゃあ拾ったのでおじゃるか!? 生き物を育てるのは責任が伴うのでおじゃるよ!」

「責任って……犬や猫じゃないんだから」

「それが分かっててっ!? それじゃあ……ひょっとしてまさかっ! 攫ってきたでおじゃるか!? ああ何て恐ろしい事を……」

「誘拐なんてするかっ! 彼女はちょっと訳アリなんだよ」

「なんだ、そうでおじゃったか。まあジェンさんは絶対にそんな事しないって、ヌローワ信じてたでおじゃるよ」

「噓つけ」

「前のご主人ならやりかねないでおじゃるので、つい口から漏れてしまったでおじゃる」

「いや、前の主人最悪だな」

「根は悪い人じゃないでおじゃる。今は結婚して嫁の尻に敷かれて、すっかり大人しくなってるでおじゃるよ」

「おい、話が脱線してるぞ。それよりも彼女なんだがちょっとアレでな……」


 ジェンは改めてスミカに目を向ける。

 少しは慣れたが、それでもやはり彼女が近くにいるとちょっとキツイ。


「お客様って事で良いんでおじゃるね?」

「ああ、頼めるか?」


 どうやらその言葉だけでヌローワもすぐに察した様だった。


「任せるでおじゃる、えっと彼女の事はなんとお呼びすれば?」

「名前はスミカだ」


 そう言われるとヌローワはすぐに佇まいを改め、スミカに正面から向き合った。


「それではスミカ様、こちらへ。その様子では随分とご苦労をされた様子。疲れもあるでしょうし、湯浴みでもされてお寛ぎください」


 今までの態度は何だったのかというくらいの豹変ぶりで礼儀正しく接するヌローワにジェンは思わず呆気にとられる。


 それはスミカも同じだったようで反応に困っている様子だった。


「え、えっと、その、かたじけない」

「いえいえ、それではご案内します」


 おずおずとしているスミカの少し前をヌローワが先導する様に歩き始めた。


「一先ずここは安全だから、身だしなみを整えてくると良い。その後で色々話をしよう」

「あ、ああ、それでは少しだけ暇をいただく」


 スミカは軽く頭を下げて廊下の奥へと歩いていく。

 そうして二人を見送ったジェンは小声で感想を漏らした。


「おじゃるって付けなくても喋れるんじゃないか……」


 ポツリと漏れ出たジェンの呟きは、誰もいなくなった廊下に静かに飲み込まれていったのだった。


◇◇◇


 屋敷内にある応接室には二人の男性の姿があった。


 一人はジェンで立った状態のまま、もう一人は隊長で一人掛けのソファに腰かけている。


 ジェンが今日のこれまでの出来事を隊長に報告しているのだ。


「それで、ターゲットに逆に狙われてる依頼人をここまで連れて帰ってきたと?」

「はい」

「はあ……」


 隊長は大きくため息をついた。


 顔を下に向けている為、表情は窺えないがため息の大きさから呆れている様子が滲み出ている。しばらく沈黙が続いたが、やがて隊長は顔を上げジェンを見上げながら口を開いた。


「それが俺たちにどれだけのリスクを生んだのか、理解できているんだろうな?」

「わかってる――」

「『それでも放っておけなかった』だろ?」


 隊長とは長い付き合いなので、心の内を全てを見透かされていた。


 思わずジェンは、ばつの悪そう顔になる。


「全く……(しかしこれも運命なのかもな)」


 そんなジェンに対して隊長は小さく呟いた。


「ん? 何か言ったか隊長」

「いいや、お前には関係のない事だ」

「そうか。じゃあできれば早急にスミカの話の裏取りをしてもらえると助かるんだが」

「それは必要ないな」

「どうして? そこはいつもキッチリとやってる所だろ? 本当に復讐代行をするかどうか絶対に必要だって言ってるじゃないか」

「まあ、いつもならそうなんだが、今回に関しては必要ない」

「だからなんで――」


 ジェンが少し声を荒げかけたその時だった。

 応接室の扉がノックされたのだ。

 隊長がジェンに制止するようにジェスチャーで示し、扉の外の人物へと返答する。


「おう、入っていいぞ!」


 その声を聞いて、ゆっくりと扉が開かれ二人の人物が室内へと足を踏み入れた。

 おかっぱメイドのヌローワと湯浴みを終えさっぱりと綺麗になったスミカの二人である。


「失礼します。お客様をお連れしました」


 ヌローワが丁寧にお辞儀をし、つられるようにスミカも頭を下げる。


「し、失礼します!」


 そんな彼女の姿を見てジェンは目を見開いた。


 何故かスミカがメイド服を着ていたからである。

 そんなジェンの困惑をよそに隊長がスミカに対して声をかけた。


「別にかしこまらなくて良い。頭を上げな、スミカ」


 すると隊長の声を聞き、突然スミカの様子がおかしくなった。

 慌てて下げていた頭を勢いよく上げたのである。


「え、なんで? どうして、生きて……?」


 スミカは隊長の姿を確認すると小さく震えだした。

 明らかに動揺を隠せない彼女の様子に、ジェンの困惑が別方向に広がっていく。


「そりゃあ、死んでないからな。しかしまさか再び会う事になるとは思わなかったぞ。スミカ」

「コクロー兄さま……」

「にいさま? ええっ! マジで!?」

「おじゃるかっ!!」


 ジェンとヌローワはそろって驚きの声を上げたのだった。


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