表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/78

 9



 王太子様、頑張って(?)ます。

 

 



 「クレメンティーヌ、名残惜しいけど今日は失礼するよ」

 「いえ、此方こそ色々とご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

 「迷惑だなんて。私達はいずれ夫婦となるんだ。夫が妻を心配するのは当たり前だよ。それとクッキー美味しかったよ。本当に……美味しかった。ありがとうクレメンティーヌ」

 「あっ、いえ、その不出来なものをお出しして申し訳ありませんでした。美味しかっただなんて、お気遣いま……」

 「気遣いでも世辞でもない。クレメンティーヌが私の為に作ってくれた、その気持ちがあのクッキーをより美味しくしたんだ。だから、また作ってくれるかい?」


 もうどうしたら良いのか。

 ちょっとした悪戯心で作ったクッキーなのに、こんなに喜ばれてしまって……罪悪感が。

 ああ、もう降参だ。

 作る、作りますよ!


 「……あんな不出来なものでもよろしいのですか?」

 「私の中では今まで食べた菓子の中で一番なんだけどな」


 本当に嬉しそうに笑う王太子様。

 ゲームの笑顔と全然違う、年相応の笑顔が眩しい。

 至近距離でその笑顔を見た私は胸があまく疼くのを止められない。

 だって、やっぱり似てる。

 私にだけ見せてくれた笑顔にそっくりだ。

 最近はその笑顔を見るのが辛くて避けてたけど。

 ……最期の時も、私を抱きしめながら見せてくれた笑顔に。


 「クレメンティーヌ?まだ気分が優れないのか?何ならこのまま王宮に来て侍医に診てもらうかい?」


 思いに耽ってしまった私を気分が悪いと思ったらしく、そんな事を言い出した王太子様。

 こんなにクレメンティーヌを心配してくれるのに、心変わりするなんて。

 ゲームをしてなかったら信じられなかっただろう。


 「いえ、体調は悪くありませんわ。申し訳ありません」

 「体調が悪くないのなら良いのだけど。……少し残念かな?」

 「残念?」

 「うん、残念だよ。このまま一緒に王宮に連れて行けなくなってしまったから。王宮に連れて帰りたい、そうしたら一晩中でも付きっきりで看病するのに」


 あ、あま〜い!


 顔がまた熱くなってきた。

 今まで生きてきて、こんな台詞言われた事ないしっ!

 何度も言う様だけど、王太子様のお顔は私の好みのど真ん中なのだ。

 しかも今日のお茶会での王太子様は一点の非も無く、終始クレメンティーヌを気遣い優しかった。


 ……意地悪で作った微妙なクッキーも、一瞬も躊躇う事も無く口にしたし。


 ヤバい。

 ほんの数時間しか一緒に居なかったのに気持ちを持っていかれそう。

 これまで頑なに避けてきたせいで恋愛事に全く耐性がない私には、この王太子様は荷が重い。

 平常心を保てなくなった私はまたもや、赤くなっているだろう顔を俯いて誤魔化すしかなかった。


 「クレメンティーヌ?」

 「………………」


 ひぇ、覗き込まないで!


 「……真っ赤になって。今日のクレメンティーヌはいつもと違うね、とても可愛らしい」


 もう!お願いだから黙って!

 でないと走って此処から去りたい衝動に負けそう。

 くれはなら間違いなく逃げる。

 でもクレメンティーヌは婚約者の王太子様をお見送りしなくちゃいけないから。


 頭が沸騰したみたいになって何も話せない私の手を、そっと取った王太子様は指先に口付けた。


 「……次に会えるのを楽しみにしてるよ。今日はありがとう。ゆっくり休んで」

 「此方こそありがとうございました。ではまた」


 ……もう頭だけでなく全身真っ赤に違いない。

 これ以上は無理!

 

 礼儀とか無視して、そそくさと王太子様から手を引き抜き、何とか別れの言葉を紡いだ私。

 うん、頑張った。

 これが精一杯です。

 評価下げたらごめんね、クレメンティーヌ。


 くすり、と笑った気配を感じたけれど、王太子様はそのまま馬車に乗って帰って行った。


 どっと疲れた私に気付いたソフィアが支えてくれ、そのまま私の部屋まで連れて行ってくれた。

 そして私はクレメンティーヌの部屋に入った途端に崩れ落ちた。


 「な、何あれー!あんなの想定外なんだけど!」


 へたりと床に座った私は本音を叫んだ。


 「クレハ様、お行儀が悪いですよ。とりあえずソファーまで頑張って下さいませ」

 「……頑張りたいのは山々なんだけど、足に力が入らない」

 「そこまでですか?確かに今日の殿下はいつもよりクレメンティーヌ様に構っておいででしたが、婚約者なら普通かと。美辞麗句を仰らない分、控えめです」

 「……あれで控えめ?無理、無理だわ。私には糖分過多で恥ずかしすぎ。現実逃避して走り去りそうなのを必死で我慢してたのに!」

 「慣れて下さい。走り去るなど以ての外です。社交の場ではもっと過度な美辞麗句もエスコートもございます。クレメンティーヌ様のお身体で、公の場での失態は看過出来ません」

 

 ソフィアの目がマジだ。

 これは許してくれなさそう。


 でも慣れる?慣れれるもの?

 死ぬまで彼氏が居なかった私が、婚約者として振る舞う?

 しかも何でか会う回数も滅茶苦茶増やされたし。

 その度にあんな感じなのを慣れろと?

 

 ……断罪回避より難しいかもしれない。

 早くもぶち当たった難題に頭を抱えた。


 

 

 



 次回の投稿は10/27(火)です。


 前回の後書きで曜日が間違っていました。

 ごめんなさいm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ