another story 1ー1
本編とは直接関係ありませんので、読むのを飛ばして頂いても大丈夫です。
もう一話、続きます。
時々、この類の話を入れる予定です。
……個人的な欲求で書いていますが、ご了承下さい!
「特例を認める。君はすぐに昇級試験を受けなさい」
「は?」
「君程の腕を新人の鍛錬で消費するのは、騎士団の損失だ。指導する側にまわってもらう」
王宮騎士団に入団して三日目。
総騎士団長はそう言った。
私はラグドール・フェルマー。フェルマー辺境伯家の嫡男だ。領地の側には国内最大のダンジョンがあり、その奥は魔物の多い森がある。
魔物の森の監視と何年か毎に起こるダンジョンのスタンピード、魔物の大量発生の討伐を担っている。
辺境伯家の騎士団は屈強な者しかなれない。心技体、全てが備わっていて初めてなれる。そうでないと、死と隣り合わせの討伐は出来ないからだ。王国騎士団が選抜し派遣される者と領地内で騎士団として雇用された者、どちらも素晴らしい騎士達だ。
それでも魔物の討伐では何人か死傷者が出る。だからこそ、辺境伯は心身共に強くあらねばならない。怯む事無く騎士達を率いる為に。
フェルマー辺境伯家には代々受け継がれた決まりがあった。家督を継ぐものは必ず王国騎士団に入団すること。それは派遣されて来る王国騎士達を率いる為に必要だという。スタンピードの討伐では連携が必要不可欠。小さなミスが即、死に直結するからだ。
領地内の騎士団は幼い頃から知っていて気心も知れているが、王国騎士団の騎士達は知らない者ばかり。それを上手く纏める為にも知らねばならない。全くもって正しい。だからフェルマー辺境伯家の嫡男は、文句を言う事無くその決まりを受け入れてきた。
貴族家の嫡男は基本騎士団に入団しない。王都の学園を卒業したら、父親の側で領地経営を学ぶ。そうして、代替わりをし爵位を継ぐ。
だが、次男、三男達は違う。公爵家位になれば複数の爵位を持っていて、それを継がせて貰える事もあるが、大抵そんなものは無い。自身の力で生きる術を手に入れなければならない。だから騎士団や魔法庁などに入る事が多い。そこで功績を挙げれば、一代限りではあるが爵位を貰える事もある。上司の娘婿になる者もいるらしい。
まあ、とにかく嫡男で騎士団に入る者はフェルマー辺境伯家ぐらいだという事だ。しかも辺境伯の嫡男という事は伏せなければならない。辺境伯家の嫡男ともなれば忖度が行われる可能性が高くなる。それは本意ではない。
で、無事入団試験に受かり、今に至るのだが……。
どうしてこうなった?
「長けている者に教わるのは道理。それが例え新人であろうと関係ない。その技術を教われる事に感謝こそすれ、侮るなど愚かな事でしかない」
すっきり、きっぱり言い切るか、普通?
……流石、総騎士団長と言うべきか。
「君の指導の時は是非参加したいと思う」
総騎士団長に教えるとか、遠慮したい。
それに、この総騎士団長は私より遥かに強い。うちの親父と同じかそれ以上だろう。距離は十分あるのに肌がピリピリして、俺の生存本能が危険を告げている。これが魔物なら必ず撤退するレベルだ。
私の疑惑の眼差しで思考を推測したらしい総騎士団長は、楽しそうに笑う。
「君には私には無い技術がある。それを会得したいんだ」
きらきらと瞳を輝かせる総騎士団長は、新しい玩具を見つけた子供みたいだ。これ位、貪欲でなければ総騎士団長は勤まらないのかもしれない。
「私で先輩方のお役に立てるのでしたら」
「うん、素直で良いね。じゃあ早速だけど、試験の申込みをしに行こう」
……見た目よりせっかちらしい。
踵を返した総騎士団長に付いて行こうとした時、すれ違った誰かが「調子にのるなよ」と呟いた。
ほう?売られた喧嘩は必ず買うのがフェルマー辺境伯家だが?
ちらりと声の主を確認する。
うん、覚えた。
そして先に歩いていた総騎士団長に追い付くべく足を早めた。
「馬鹿だねぇ。相手と自分の力量を計れないなんて。……討伐に行ったら、すぐ死ぬね」
最後は背筋が震える程の冷たさを含んでいた。怖えな、おい。親父となまた違った怖さだ。
「ふはっ、本当に素直だねぇ。ブライアンとは全然違う。鳶が鷹を生んだかな」
「総騎士団長殿は父を、私の素性をご存知でしたか」
「うん。ブライアンとは騎士団で同期だった。それにフェルマー辺境伯家の入団は、騎士団幹部に知らされる事になっているんだ」
ブライアンは親父の名前だ。それにしても親父と同期とは。……やりにくいな。
「そう、敬遠しないで欲しいな。ブライアンは元気かい?」
「殺しても生き返りそうな位には」
「ははは、相変わらずなんだね」
先程の冷たさ等なかったみたいに朗らかに笑う総騎士団長。
「話は変わるけれど、どのみち君は多くの目を引き、嫉妬ややっかみを買う。出来るだけ入団の際、精査しているが厄介な老害が屑を無理矢理ねじ込んでくるんだ」
「かの御老体ですか」
総騎士団長は苦虫を噛み潰したような顔をする。そこはかとない殺気が漂っているのは気の所為だろうか。
「辺境伯領地にも被害が?」
「まあ、怪し気な輩は父が片っ端からしごくんで、早々に尻尾を巻いて逃げ出します。うちの領地は基本が強さなんで、そんなにはないです」
「まあ、ブライアンは本能で人を判別するから大丈夫だ。諜報活動が出来るような中途半端な輩では、ブライアンに勝てはしないだろうしね。何しろ私が総騎士団長になれたのは、ブライアンが辺境伯を継ぐ為、団を辞めたからだ。ブライアンが此処にいれば、間違いなく彼が総騎士団長だから」
「ご謙遜を。父から総騎士団長の武勇伝は聞いております」
総騎士団長は父を持ち上げてくれるが、側にいればよくわかる。団長が纏う気は強く清廉で、威圧してないというのに肌を刺すようだ。
親父も強い。
質実剛健を体現した様な人間で、日々の訓練も欠かさない。だからと言って筋肉莫迦ではなく、冷静な判断力や柔軟な思考、更には広い視野を持つ。力と真っ直ぐな気性で騎士達に慕われ、纏め上げている。
だが、この隣に居る御仁は父の強さを遥かに凌駕するだろう。
魔物と闘う時、決して忘れてはいけない事がある。
それは相手の力量を正しく理解すること。
それを怠れば、見誤れば瞬時に己が命は刈り取られる。辺境伯の跡取りとして、幼い頃から討伐に参加してきた俺は、そうして命を落とした騎士達を何人も見てきた。だから、常に相手の力量をはかってしまう。
この騎士団長は別格だ。
もし、このレベルの魔物が現れたなら、即時撤退し、領内最高レベルの騎士達を総動員するだろう。それでも勝算は五分。
……絶対出会いたくないな。
「何を聞いたのか知りたいところだけど、それは次回の楽しみにとっておくとしよう」
脳内で団長を倒すのにはどうしたらいいのか考えていた俺は、その言葉で目的の場所に着いたことを知る。
「書類を貰ったら記入し、私の執務室においで。それまでの事は各々に話を通しておくから」
「了解しました」
騎士の礼をとり、後ろ手にひらひらと手を振り、受付に声を掛けて砦に入っていく総騎士団長を見送った。
俺は久々に興奮する自分を止められなかった。自分より強い魔物に会うのより、もっとわくわくする。相手は総騎士団長だから、直接の指導や手合わせは無理だろうが、訓練を見ることは可能なはずだ。
途轍もない強さを持つ相手から、学ぶことは沢山あるだろう。
俺は足取りも軽く受付に向かう。
これからの騎士団での日々は楽しくなりそうだ。
それを木陰から恨みがましく覗く人物がいたけれど、全く気にならなかった。
まあ、あれにも愉しませて貰えるといいな、なんて思っていた。
俺は失念していた。
此処は辺境ではなく、相手は魔物ではないということを。
人は……。
純粋な力だけが強さではなく、目的の為には手段を選ばない狡猾さを持っているものがいるということを。
次回の投稿は7/31(土)です。
大変申し訳ありません。
昨日意識が戻り、今日ICUを出ました。
普通の生活に戻るまで暫くかかりそうです。
体力、気力が戻り次第再開出来れば……と思っています。




