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視点がころころ変わります。
読みにくくて、ごめんなさい。
暫く、短めです。
「で、どうなんだ?この森で間違いないのか?」
「ああ、間違いない」
端的に答えるも、光輝の内心は焦燥に駆られていた。それを知ってか知らずか、赤髪の美丈夫はのんびりとした様子でワイバーンを操っている。それが気に障る位に光輝は焦っていた。
くれはが作った魔道具のピアスは光輝の耳で間違いなく彼女の魔力と共鳴している。このピアスはくれはの魔力が込められていて、くれはが生きて魔力がある限りそれに共鳴するのだ。だから、くれはの生存は疑っていない。
だが、生存しているという事しかわからないのだ。
くれはが今どんな状態なのかは全くわからない、それが光輝を追い詰めていた。考えたくはないれど、大怪我をしている可能性もある。
それに。
突然たった独りで連れ去られ、精神的にも負担が大きいはずだ。前世と同じく、またあんな状態になったら……。
「ヴィクはやっぱり根暗ね。そんなんじゃ、出来る事も出来ないわよ?少しでも可能性を増やしたいなら、ジメジメするの止めなさいよ」
深く暗い思考の沼に入り込みかけていた時、可愛らしいが棘のある声に無理矢理引き揚げられる。
「アリスン、言い方」
柔らかく嗜めるソロンに納得いかないらしいアリスンは、尚も光輝に噛み付く。
「だって!一番辛いのはクレイちゃんなのよ!なのに……」
最後の方は唇を噛みしめ言葉を濁すアリスン。歯痒いのは光輝だけではない。アリスンはくれはを本当に可愛がっている。だから彼女が心底クレイの身を案じてくれているのはわかっていた。
「まあ、今回はアリスンが正しいな」
艶のある低い声が割って入る。飄々としていながらも、若干咎める色が混じっていた。
「嬢ちゃんならきっと、どんな状態だったとしても最後の最後まで諦めたりしないからな」
「そうですね、彼女ならそうすると思います」
「当たり前よ!クレイちゃんなのよ!」
「だな。この“灼熱煉獄”相手にこっちが根負けするまで勝負を挑んだ猛者は、後にも先にも嬢ちゃんだけたからな。はははっ!」
S級パーティ“灼熱煉獄”に依頼するには、ある条件を満たさなければならない。それはたった一つだが、とてつもなく難問で、それを成し得た者は極僅かしかいない。
彼等の一人と勝負し「降参」と言わせる事。
“灼熱煉獄”はパーティとして名を馳せてはいるが、実は一人一人が恐ろしく強い。三人がパーティを組むまでは、それぞれソロの冒険者だった。
たった一人でも、中級ダンジョンを踏破できる程の力量を持つ彼等にはパーティは足手纏にしかならなかったかららしい。
そんな彼等が出会ってしまえば、パーティを組むのは自然の流れだった。互いが互いを認められる相手だとひと目で理解したらしい。
しかも、三人の特技ははそれぞれの特技を最大限に活かせるものだった。
ラグドールは見た目と違い魔法に優れている。勿論、剣技も国の騎士団長レベルだが、それに加え多彩な攻撃魔法を駆使する。時には闘いの最中に、武具に魔法を掛けたりするとんでもない人物だ。好奇心旺盛で、今尚新しい魔法を貪欲に開発している。
ソロンは王侯貴族さながらの気品と美貌を持つのに、実はえげつない闇魔法の使い手だ。魔物相手に仕掛ける搦手を知る者はソロンの側には近寄らない。余り知られてはいないが、実はラグドールよりも剣技に長けてもいる。本人がどうしても、という時にしか使わないけれど、ソロンの剣技は原型を留めないまで切り刻むのでアイテムが破損しがちである。
アリスンはゴスロリの美少女にしか見えないが、聖魔法に長けている。治癒系は元より、攻撃系の聖魔法も過去最高峰なのではと言われていて、どの国の教会も彼女を聖女扱いする位なのだ。大半が闇属性である魔物には強大な力となる。それに加え、聖属性最高ランクの武器、聖魔法を増幅するレイピアで騎士さながら攻撃する事は伝説となっている。
兎にも角にも、この三人は規格外で……絶対敵には回したくない。
そんな世界中の人が知る“灼熱煉獄”にどうしても依頼したいとくれはが言った時は正気を疑った。しかも、依頼内容を話すのを頑なに拒み、教えなかった。出来る事なら光輝が代わりに叶えると言ったら、苦虫を潰したような顔をし「絶対教えない!」とそっぽを向いたのを今でも覚えている。
こうなったら本人が諦めるまで止まらないのを知っていた光輝はやらせる事にした。
絶対に勝てはしないのだから。
案の定、くれはは負けた。瞬殺で完敗だった。
……だけど、くれはは諦めなかった。
その時の事を思い出した。
次回の投稿は7/10(土)です。