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 意地悪くれはの巻。


 



 若干私の勢いに引き気味なソフィアだったけど、質問にはちゃんと答えてくれた。


 「私から見た王太子殿下ですか?そうですね、端的に言えばクレメンティーヌ様と似ています」

 「それは完璧な王太子様ってこと?」

 「ええ、その通りでございます。頭脳、戦闘能力、魔法、容姿、人柄……世間の誰もが称賛し、尊敬に値する王太子殿下です。ですが……」

 

 それっ、それが聞きたい。

 クレメンティーヌの側にいたソフィアだからこそ見える、世間から隠しているような何か。


 「クレメンティーヌ様よりも精神的に追い詰められておいでかもしれません」

 「は?どういう事?」

 「……これはあくまでも私の推測です。殿下の口から直接聞いた事などごさいませんので。殿下はクレメンティーヌ様を好ましく思っておいでなのだと思います。そのクレメンティーヌ様が努力を怠らず与えられた膨大な課題をこなし、周りの期待を裏切る事なく成長する事が殿下を追い詰めているのではないかと」

 「……なる程ね」


 婚約者であるクレメンティーヌが完璧であればある程、王太子はそれよりも完璧でなければならない。

 しかもそれが好きな女の子なら尚更だ。

 男の子の意地として負けるわけにはいかないし、クレメンティーヌが『完璧な王太子』に好意を抱いている事に殿下は気付いているんだ。

 殿下はそれこそ必死でクレメンティーヌの前を歩かなければならない状況であると。

 

 う〜ん、嫌いじゃない。

 好きな女の子に良いところを見せたいが為に頑張る男の子。

 健気な人柄は、私の好みである。

 

 ……だけど後々クレメンティーヌを捨ててヒロインを選ぶんだよねぇ。

 何処で何かが狂ってしまうのだろうか?

 それとも乙女ゲームあるあるの、ヒロインの花道への踏み絵的なもの?


 どちらにせよ捨てられる結末はお呼びでない。

 ゲームのストーリーがどうなるかなんて、私には関係ないし勝手にやってくれればいい。


 私はただクレメンティーヌを幸せにする。


 この一点のみに集中し、全力を注ぐ。

 ただでさえ慣れない環境なのに、多くを望んで本懐を遂げられないなんて事になりかねない。

 それは絶対避けたい。


 「ありがと、ソフィア。後は直に会って確かめてみるね」

 「……殿下に対しての警戒は必要ごさいませんが、如何に此処が公爵邸であろうと、目と耳が何処にあるやもしれないことは心に留めおいて下さいませ」

 「うぇ、自分の家でもなの?」

 「クレメンティーヌ様のお部屋であれば、お嬢様の結界がごさいますので大丈夫です。ですが他の場所は心許ないかと」

 

 自分ん家でも気が抜けない毎日って……。

 乙女ゲームって、此処までシビアな設定なの?

 

 やっぱり色々ゲームでは出て来ない各々の事情がありそう。

 ちゃんと調べないといけないな。


 「ちなみにだけど貴族って他の家にスパイを送るのは当たり前なの?」

 「王家や高位貴族間ではよくある事です。貴族でも子爵や男爵となるとそうでもない方が多いでしょう。ただ功績が目覚ましかったり、流行りの特産物を出したなど頭角を現しそうな貴族だと爵位に関係なく探られます」

 

 そこは私の居た世界と変わらないか。

 まあ、お金の匂いに敏感な方たちが多いということだよね。


 「了解です。壁に耳あり障子に目あり……だね」

 「?」

 「ふふっ、何でもない。とにかく今は王太子とのお茶会だね、時間は?」

 「お昼までには来られると先触れがありました」


 ん?中途半端な時間だよね?


 「いつも殿下はクレメンティーヌ様とのお茶会で軽食をお食べになります。菓子はあまり好まれないようで。ですのでち昼食を兼ねて軽食を食べられるのです」


 ふぅん、王太子はクレメンティーヌの生家であるフォレスター公爵家を随分と信用してるんだ。ゲームの中で王太子は何度も毒殺されかかってた。だから食べる物に対する警戒心は強い。これから入学する学園生活でも、他の生徒からの差し入れなどは全て断る。……唯一食べるのがヒロインの手作りのお菓子。


 ふうううん?

 甘いもの苦手なのにヒロインの手作りのお菓子は食べるんだ?


 「ねぇ、まだ時間あるよね?ソフィア、私お菓子作る」 

 「は?クレメンティーヌ様がお菓子を作る?いえ、クレハ様でしたね。お茶会にお出しする菓子なら公爵家の料理人がすでに準備していますが?」

 「そうだよね、公爵家のお茶会だもの。しかもお客様が王太子様なら、見た目も味も最高のお菓子を用意してるよね?例え王太子様が食べなくても。うん、それは私が美味しく食べる。だけど私が今から作るお菓子は王太子様に食べて貰うから」

 「……クレハ様、私にわかるように説明して頂きたいのですが」


 私はゲームの中の学園での出来事、ヒロインのお菓子のみ食べることをソフィアに教えた。


 「何だかね、腹が立って。もし、クレメンティーヌが手作りしたお菓子を出したらどうするのかなあって」

 「いえ、お気持ちはわかります!すぐに準備致しますので少々お待ち下さいませ!」


 そう言うとソフィアは音もなく颯爽と部屋を出て行った。


 あらら?

 冷静沈着なソフィアが若干オコ?

 うん、いい傾向だ。

 確かに相手は王太子で、此方はただの貴族令嬢。

 だからと言って、されるがままにならなければいけないなんて法はない。

 理不尽で不当な事には、抗議ぐらいしたって罰は当たらない。

 

 クレメンティーヌの婚約してから今までの時間と努力は安くないんだから!


  

 意気揚々と戻ってきたソフィアと共に厨房へと向かった私は、別段得意ではない菓子作りに料理長直々の指導の元勤しんだ。

 

 程なくして出来上がったのは、至って普通のバタークッキー。

 素材は一級品だから味は悪くないけれど、初心者の私が作ったのだから形も微妙だ。


 うん、実にいい感じのお菓子が出来た。


 さて、王太子様。

 ヒロインじゃなくて、クレメンティーヌの手作りクッキー。

 君はこのお菓子どうする?


 多分今私は物凄く悪い顔をしてると思う。

 無表情のはずのソフィアも微妙に悪い顔してるし。



 ふふふっ、早く王太子様来ないかな?





 次回の投稿は10/23(金)です。


 10/20に『神様……オプション盛りすぎです!番外編』の短編を一話上げました。


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