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恋愛もの、恐るべし!
物凄く恥ずかしい!
悶えながら書いています。
光輝、優、菜月ちゃんに私。この四人を一纏めにしたい学園側の意図はわかる。警備を分散せずに済むからだ。
しかしながら、このメンバーは言わずもがな目立つ。目立ち過ぎるのだ。
ほとんどの生徒が貴族子女だけあって魔物討伐の遠征なのに宿が無駄に豪華で、それってどうなのよ、なんて考えてた私はこんな針の筵になるなど思いもよらなかった。
「親元を離れて一泊ですのよ、何かあっても仕方ないことですわ!」
「仕方ない、ではなくあって当然です!ふふっ」
「ですがライバルがいましてよ?」
「それを蹴散らすのが主人公というものですわ!」
「きゃああ〜!一体今夜何が起きるのかしら?」
ねえ皆様、今私達は遠征中だよね?何故そんなにも小花のエフェクトを飛ばして喜々としてるの?しかも他人事に?
……そして貴女達の言う主人公とは誰?
「ああ〜、人気の恋愛小説なんて目ではないほどのロマンチックな恋愛を直に堪能出来るなんて」
「ええ、ええ同感ですわ。わたくし、この年に産んでくれた両親に感謝でいっぱいです」
「わたくし俄然やる気が出てきましたわ!この遠征、力の限り頑張ります!」
「「「そうね!頑張りましょう!」」」
一体全体何を頑張るつもりなんだろう?
いや、知らぬが花かも。
「クレイは私の隣の部屋だよ」
するりと私の手を取り先を促す流れる様なエスコートをする王太子様のご登場に周りのひそひそ声は黄色い歓声へと変わる。
「「「きゃああ〜!素敵ぃ〜!」」」
前世、今生ともにアイドル並の人気がある婚約者様をちらりと見上げると満足そうな微笑みで私を見ていた。この黄色い歓声は耳に入ってないらしい。
慣れ?慣れなの?そのスルー技術は!
「夕食までにまだ時間がある。さあ、一旦部屋で休もう。長時間馬車に揺られて疲れたろう?」
「いえ、そこまでは疲れて……」
「可哀想に顔色が良くない、早く横にならなくては」
成程、この場を早急に立ち去りたいと。慣れてる訳じゃなくて我慢してるだけなんだ。見た目は涼しい顔をしてるけれど私の手を引く力がいつもより強く、歩みも早い。
ちょっといじりたい気もしないではないけれど、やや疲れているのは事実なので光輝に従う事にする。
部屋の扉に付けられた金のプレートに書かれた数字で着いた部屋が私のものだとわかった。
「王太子殿下ありがとうござ……」
有無を言わせずに開けた扉から一緒に入ってきた光輝はすかさず結界を張ったのがわかった。優しい王太子殿下の仮面が剥がれ、鋭い表情になっている。
「な、何?どうしたのよ?」
「くれは、わかってないのか?どこかに不調や違和感はないか?」
私を上から下まで見落とないよう入念にチェックする光輝に啞然としながらも言葉を返す。
「あれだけ贅沢に魔法を掛けられた馬車に乗ってて疲れる訳がないでしょ?一体何なの?」
「……気のせいか?」
「だから!わかる様に説明して!」
自身で異常が無い事を確認して安心したのか、ほぅと息を吐き出した光輝だけど表情はまだ硬かった。
「宿に入ってから、くれはに纏わり付くような何かを感じた。今まで感じたことのない種類のものだ。くれはは何も感じなかったのか?」
「私は特に何も感じなかった。過敏になり過ぎじゃない?」
プレザント伯爵令嬢こと菜月ちゃんが一緒に居るようになってから、物騒なことは全くと言っていいほどおこっていない。最近は平和そのもので光輝と菜月ちゃんの思惑通りになっていた。それでも当事者の私よりも光輝は何かを常に警戒していた。まあ、一国の王太子ともなれば危険とは背中合わせだろうし、仕方無いと言えば仕方無い事ではある。その婚約者である私が巻き込まれるのは当たり前だし、そうやって心配してくれる気持ちを無下にしようとは思わない。だから光輝の要望は聞き入れようと思ってる。
「それならいいのだけれど。念には念を入れたい。今夜は俺の部屋にいて欲しい」
「うん、わかった。今夜は光輝の部屋に……はあ?!」
「よし、すぐ移動しよう」
「ま、待って!待ちなさい!」
腰に細く見えるけれど実は筋肉質な腕を巻き付け、抱きかかえるように移動しようとする光輝に待ったをかける。
「ん?何?何か問題でもある?」
あり過ぎだよ!
「未婚の男女が一つの部屋で一夜を共に過ごす、この意味わかってる?」
「勿論わかってるさ。でも俺達の問題にはならないだろ?」
「い、いくら婚約者とはいえ、それは駄目だよ」
「くれは、何か期待してる?くれはがいいって言うなら俺はいつでも歓迎だけど、今はそういう意味で言ったんじゃない」
「は、はあ?何時誰が何を期待したって言うのよ!」
「くくっ、くれは可愛いな。ムキになるくれはを愛でてたいところだけれど、今回は警備の為だ。何だか嫌な予感がする」
怒っていたはずなのに、可愛い、と言われて頬が熱くなる私は相当イカれてる。
それより。
「嫌な予感?」
「不確かな何かがあるのは間違いない。明らかになるまでは極力側にいろ。でないと対処が遅れるから」
「わかった」
「いい子だ」
そう言って光輝は私の頬を撫で髪を一筋すくうと、それに口付ける。
「っっっ」
「ふっ、大丈夫。安心していい。お前が許す事しかしないと誓う」
本当に光輝は狡い。
恋愛偏差値ゼロの私は何をどうしたらいいのか全然わからず、光輝の言葉に態度に振り回されるだけだ。それを悔しく思う気持ちはあるけれど、決して嫌ではない。
何時だって光輝は私を一番に考えてくれていると感じるから。
「わかった。なら、早く行こう。皆に見られないようようにしてよ?」
「了解しました、俺のお姫様。ではお手をどうぞ?」
絵本から抜け出たかのような完璧な本物の王子様に『お姫様』って言われても、ね。
「よろしくてよ、私の王子様?」
恋金のイベントの遠征とは少し違ってきているこの状況。まだまだ油断は出来ないけれど、少しくらい楽しんでも罰は当たらないよね?
二人で向かった部屋で今夜、何が起こるかなんて、その時の私は知る由もなかったのだ。
次回の投稿は5/27(木)です。