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 学園恋愛もの、らしくなってきたはず?

 ……はずです。



 「フォレスター公爵令嬢、馬車酔いはしませんでしたか?」


 馬車から降りた途端に優が声を掛けてきた。


 遠征場所はかなり遠く、途中で休憩しながらになる。その休憩地点に到着したので馬車から降りようとしたところだった。

 私が乗っていた馬車は他の生徒達の馬車とは違い、王宮のもの。外見は学園の馬車と同じだけど、かかってる魔法は桁違いだ。学園では平等といっても流石にこの国唯一の世継ぎを危険に晒すわけにはいかないからね。そして、その婚約者たる私もそれに準ずる扱いとなるのは仕方のないことだろう。立場を考えず我儘を言えるのなら、距離が近くなった令嬢達と一緒にわいわい行きたいとも思ったのだけれど……まあ、光輝とイチャイチャ出来たので結界オーライである。

 王太子宮も学園も人目がありすぎて二人きりになれることはほぼないから、最近寂しかったのだ。

 ……絶対、光輝には教えないけれど。


 「ご機嫌よう、アルデウス公爵子息様。ええ、大丈夫ですわ、お気遣いありがとうございます」

 何せこれでもか、というくらい魔法がかかってるからね。前世の乗り物より快適だったと思う。 

 魔法恐るべし!!


 「クレメンティーヌさまぁ〜!」

 愛くるしい鈴の様な声が私を呼ぶ。語尾が伸びてやや甘ったるく聞こえるのもまた、可愛らしく感じるのはヒロイン補正なのだろうか?


 「アマリア様、ご機嫌よう。馬車酔いはしませんでしたか?」

 小柄で華奢な美少女が私達へと駆けてくる様子は庇護欲を駆りたてる。

 うん、今日も今日とて可愛い、流石ヒロイン!なんて思っていた時、お約束のように何もないところでけつまづいた。


 「きゃっ!」

 「大丈夫ですか?」

 転けかけた菜月ちゃんの腕を掴んだ光輝が理想の王子様よろしく声を掛ける。エフェクト飛びまくりの微笑みだけど、私からしたらかなり胡散臭い。


 「何で貴方が助けるのよ」

 「煩い。さしずめクレイに抱き留めて貰おうとでも思っていたのだろうが、そうは問屋がおろさない」

 「ちっ!本当に邪魔な男ね」

 「はっ?邪魔なのはお前だ」

 私が魔道具を発動させるより早く光輝が結界を張る。それをわかっているらしい菜月ちゃんは容姿にあるまじき毒を王太子殿下である光輝に吐く。


 うん、今日も今日とてこの二人も相変わらずだ。


 「二人とも息ぴったりだね?相性抜群なんじゃない?いっそくっついたらどう?あっ、くれはは私が引き受けるから心配ないよ?」

 「「はあ?」」

 「あははは!返事もハモるなんて!もう運命なんじゃ……」

 「「黙れっ!」」

 「ほらぁ。あははは」


 結界は音だけなので姿は見える。だから端から見たらさぞかし可笑しな構図になっているだろう。いい加減止めようとした時、光輝の腕が私の腰に巻きついた。


 「これは俺のだ。絶対誰にもやらない!」

 「っっっ!」

 急に俺様でデレないで欲しい。何なの、何なのよ!私のツボ押さえ過ぎ!胸がきゅうとなって声すら出ない。


 「くっ、ムカつくけれど、このくれはちゃんはレア過ぎる!」

 「くれははものじゃないから。誰の、とかないからね?それにまだ結婚したわけでもないんだから未来はわからないよ?でも東條さんには同意かな?こんなくれはは本当に滅多に見れないから」

 「は?そうか?最近のくれははこんな感じだぞ?」

 「「死んでしまえ!」」


 変なところで鈍感な光輝は優と菜月ちゃんに物凄い勢いで罵倒されている。二人の罵倒にやり返しながらも納得いかない表情の光輝が私を見て目を瞠る。

 恋愛偏差値ゼロの私でも今自分がどんな表情をしてるのかくらいはわかる。


 光輝が好きでたまらない、きっとそんな顔をしてる。

 自分の意思とはお構いなしに潤む瞳、熱を持つ頬。早鐘を打つ胸は痛いくらいだ。私は思わず光輝の視線を避けるべく俯いた。

 途端、視界が暗くなる。何か被せられた?

 嗅ぎなれた香りで光輝の衣類だと解ったけれど何故いきなり?


 「そんな顔誰にも見せないでくれ」

 そう小さな声で囁き、腰を抱いていた腕がきつくなる。

 

 ああ〜、ヤ〜バ〜イ〜!

 膝から崩れ落ちそう!


 と、思った時、大きな声がした。


 『今日は此処で一泊します。事前に渡しておいたしおりに宿泊場所が記してありますので各自移動して下さい』

 魔法で拡声された引率教師の言葉に頭の芯がすうっと冷える。


 そうだった。

 私達は遊びに来たんじゃない。

 授業の一環とはいえ、学園の魔物討伐の遠征を頼みにしている人達がいる。魔物は人の生活を脅かし、それに抗う術を持たない人達は今尚苦しんでいるのに。

 脳内お花畑になってる場合じゃない。


 「皆様移動致しましょう。わたくしたちが動かねば他の方々も動けませんわ」

 学園に平民もいる。だけど大多数は貴族子女。貴族は縦社会。そのトップに属する私達を差し置いて動ける人はいないだろう。

 「クールなくれはちゃんも、良い」

 「スイッチ入っちゃった」

 「悪い、くれは。行くぞ」

 

 私同様、頭が冷えたらしい光輝は即歩き出した。凛とした空気を纏い、真っ直ぐ前を向いて。


 そう、この遠征には中ボスキャラが出現する。いくら私がチートでも油断出来る相手ではない。


 だって、本当は恋金最後のボスキャラだから。

 そいつにとって今回はただのお遊びなのだ。


 そして……恋金の隠し攻略対象でもあるのだから。



 次回の投稿は5/22(土)です。

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